第17話『NSAはすでに勝利を宣言する』
『予定の攻撃を終了。98%の目的を達成。
旧シェンゲン圏全域における一般通信を遮断完了』
『これによりE連合全域のネットワークを制圧したと判断します』
『軍事用無線・衛星通信を除くあらゆるコミュニケーション手段を奪いました』
『無線妨害については予定通り、軍へ引き継ぎ済み』
「━━ご苦労だった諸君」
開戦からまだ一時間未満だった。
しかし、電子の速度、すなわち光の速度で行われるNSAからの電子攻撃はすべての目的を達成していた。
突進する戦車の轟音も。泥を匍匐前進する歩兵の荒い息も。音を切り裂く爆撃機のソニックブームすらもなく、彼らの作戦は完了していた。
「歴史的な大勝利だ」
NSA本部でロバーツ中将は勝利を宣言した。
部下達の何人かはいぶかしげな顔をしている。
確かにE連合全域の通信をほぼ抑えた。しかし、報告にもあった通り、無線や衛星通信は健在である。
機密保持のためもあるが、彼らは作戦の全容を知らされていない。これで良いのか。あるいは、これだけで終わりなのか、と疑問を抱く者が出るのは当然だった。
「心配はいらない。
電子攻撃によって制圧できない通信対象は、現在、直接攻撃が行われているだろう」
ロバーツ中将の言葉はほんの一時間前ならば、重大な機密漏洩にあたる危険な発言であった。
しかし、現時点ではやがて明らかにされる進行形の作戦行動である。
(なるべく情報は公開すべきだ……知らさぬ教えぬばかりでは、疑問から妙な行動に走る者も出るからな……)
部下達がきわめて高度な電子情報技術者であるからこそ、ロバーツ中将はこの段階で一歩踏み込んだ情報共有を行う必要を認めていた。
「次の作戦までしばらく休む時間がある。
Aチームは継続監視。それ以外は休憩してよし。
以上だ」
休んでよい。その意味を理解し、どよめきのように安堵する声があふれた。
そして、誰かが拍手を始め、それはNSA本部全体へと広がっていった。国歌を歌い出す者もいた。
まさに戦勝のムードであった。