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曖昧なセイ  作者: Huyumi
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88.機械仕掛けの心

「あ、わたしもう十四歳だ」


「「えっ……」」


 案内所へ仕事を探しに行く冬の街中。

 ルゥが唐突にそう呟いた言葉にコウと二人で驚愕する。


 出会ってから今まで、出会った時の年齢は聞いていたので僕達が春に歳を取る毎適当にルゥの年齢も増やして数えていた。

 そのことに彼女が異議を申し立てたことはなく、まぁそのぐらいに産まれたのだろうと決め付けていたのだがどうやら反応を見るに違ったようだ。


「えっ、どうする? 今からお祝いする?」


 今まで目立って誰かの誕生を祝ったことはなかった。

 具体的な日付は覚えていないし、今の日付すら正確に確かめる術もこの世界には無いので、何となく春に一度意識して豪華な食事を取る程度だった。

 ただこうも季節外れなタイミングで、今こうして申し出たことは祝って欲しいことなのかと思い尋ねる。


「いや、別にいいかな。誰が老ける事を好んで祝わないといけないのか」


 なら何故今言ったのだ。


「でも目出度いものでしょ? 年齢が増えるって老いるだけじゃなく、成長する意味もあると思うんだけど」


 身長の低い彼女に対し目線を下に言いながら、未だ訓練には参加するものの僕達に追いつける様子のない彼女にそう言っている現実に詭弁だと感じるが、世の中には言っておかなければならない部類の言葉がある。


「そういうのはそう思う人達を祝ってあげればいいの。ほら行くよ、案内所はきっとあったかいぞ」


 確かに寒いが、仕事を探すタイミングを見計らいわざわざ雪も降っていないような暖かい日を選んだのだ。

 別に堪えらないわけもなく、わざわざあのような事を言ったルゥの真意が測れる訳もなく、僕とコウはいつも通り肩を竦め彼女の背中を追うのだった。



- 機械仕掛けの心 始まり -



「あぁ、仕事ですか。適当にいつも通り復興関連でも選んでおけばいいんじゃないですか」


 いつも通り、いやいつも以上にやる気を見せないエターナーはモコモコのセーターを着ながらも、それでも寒そうに腕を組んでいた。

 暖炉が近くにおけるわけでもなく、王都にある貴族の家でもないのでもちろんヒーターのような機械もない。

 湯たんぽ辺りは服やカウンターで見えない部分にしまっているだろうが、それでも肉の少ない彼女は寒さが厳しいようだ。いつもは案内所に溜まっている冒険者達も少ないことが原因か。

 彼らは熱や娯楽、美味い話を求め人の集まる場所にはどんどん集まるが、居ない場所からはすぐに去って行ってしまう。

 人間というお互いに幸せな関係を作れる暖房器具の無いこの空間に、彼らが居なくともタバコの臭いだけは染み付いているのは何かの皮肉だろうか。


「……はぁ、そうします。

これ、おもしろかったですよ。理想に向かって走る主人公が、現実的な問題や、様々な挫折に当たっても、最後まで理想を忘れなかったことが印象的でした。

最後以外ほとんど報われないことが読んでいて少しつらかったですが」


 掲示板に行く前に、エターナーから借りていた本を返す。

 お気に入り……ということで、今回は貰わず借りるだけで済ませていた本の感想。

 一つの目標に向かって頑張る。という点では僕も似たような境遇だったが、とてもじゃないが感情移入はできなかった。

 主人公が掲げる目標が有体に言えば世界平和のような誰にでも誇れる夢なのに対し、僕は傍から見たら竜という災害に立ち向かう英雄のようなものかもしれないが、個人的にはただの私怨だ。

 これ以上失いたくない、失った悲しみをぶつけたい。そう淀んだ感情をぶつけるためだけの目標。とてもじゃないがこれを理想や夢と呼称はしたくなかった。

 またほとんど救いが無かったことも拍車を掛けた。僕もそれなりにつらい思いをしてきた気がするが、別れの分だけ出会いがあった。日々の日常には幸せが存在していた。

 そんな自分を彼と重ねるには、なんというか申し訳無いという気持ちが先行して感情移入をする余裕が無かったのだ。


「子供の目から見ればそうかもしれませんね。

ただ大人の目から見れば些細な出来事も彼には救いだったと私は思いますし、苦難の日々も読んでいる人間としては楽しめる側面があります。

いつかアメにも、この作品の魅力がもっと理解できるといいですね」


 遠まわしに応援してくれているのだろうか、そうだとしたら少し嬉しい。


「あぁそういえば、アメ達に仕事が来ているんでした」


「……」


 二人に合流しよう、そう思ったときにそんなことをエターナーに言われ思わず言葉を失う。

 なんだろう。興味を惹かれる話題でもなければ、仕事をまともにすることもできないのだろうか。

 しかも名指しと言うことは、僕達を懇意にしてくれている誰かなわけで、その仲介役に位置する彼女にはもう少しいろいろと頑張ってほしい。本当に。


「どうしたの?」


「僕達宛てに依頼が来ているんだってさ」


 コウが僕の視線を受けて二人で近寄ってきた。

 別に名指しの依頼が珍しいわけじゃない。レイノアやクエイク達も案内所を通して仕事を頼んでくることがあるし、以前害獣駆除をした農家の人もありがたいことに時々仕事を頼んできてくれている。


「誰からですか?」


 仕事の話ということで、三人集まった時点で僕はエターナーに詳細を尋ねる。


「さぁ? さるお方から、ということで使いの人が頼んできて名前までは。

北に出没した偽竜のサンプルが欲しいそうで、一度相対したアメ達なら大丈夫だろうということでした。前金に半額置いていってますよ」


 半額置くとは余程信頼されている相手と見える。

 身分の高い知り合いというとユリアンか、ミスティ家か。わざわざ名を伏せているのはまた貴族間の面倒ごとが絡んできているのだろうか。


「理由とか言ってなかった? 使いの人間の身なりに特徴や、ペンダントは?」


「い、いえ、特には伝えたこと以外は何も……」


 珍しくルゥが話しに割って入り、熱心にいろいろと尋ねる。

 ペンダントは貴族の間で使用されている身分証のようなものだ。

 それぞれ紋章が入っており、持っている人間が誰の家の人間か、どれぐらいの立場かがわかるようになっている。

 魔力的効果もあり、盗難でもない限り複製され使用されることは無いのでそれなりに信用できる。


 聞きたいことを聞き終えた……というか、何も知らないことを知ってかルゥは僕にどうする? と首を傾げる。

 まぁどうするも何も受けるのだが。この冬に一週間以上かけて町を離れるのは厳しいが、最近雪が降らない日も多いし、何よりこんな時に頼みごとをしてくるなんて余程切羽詰っているのだろう。

 誰かの役に立てるのなら立ちたいのが人というもの。竜の影響が無いだろう事を考えるに、いつかの冬のように大変な目には会わないと思うが、いつも以上に食料は持っていくことにしよう。



 特に準備をすることも無く、というかいつも何が起きても対応できるようにはしているので遠征用の荷物を宿に取りに行き、しばらく町を離れることと荷物を預かって欲しいこと、あとは荷物のスペース代を払い僕達は必要なものを買い足して北へ向かった。

 開拓時時間をかけて進んだ道程も三人だとそうでもなく、むしろ体を温めるためにさっさと歩みを速めている気概すらどこかにあった。

 以前偽竜と接敵した付近にたどり着き、そこでようやく爬虫類は寒い時期姿を見せるのだろうかと疑問を抱いて長丁場になる可能性を考え、開拓時に作られていた家の一つを拝借し荷物を置いておき、ここを起点にこれから動こうと考える。


「サンプルって、どの辺りがいいかな」


 そう尋ねるコウの魔砲剣からは青い硝煙。

 撃ち出された砲撃は、目標違わず数日かけて見つけた偽竜一匹に当たる。

 発射時に排出された煙のような魔力に続き、その体の中心を全て粒子に変えながら倒れていく偽竜。あれじゃ少なくとも内臓は期待できないだろう。

 コウがのんびりとレバーを引き、弾丸を再装填している中を狙ってか偽竜が迫り、それを僕の閃電が捉えて残り一匹になる。


「あー! それわたしが殺ろうとしたのにー!!」


 先に近づいていたルゥが不満の声を上げる。

 轟音を立てて雷を放った僕が脅威と思ったのか、ここに近づくための進路上に居るルゥに向かって放たれる尾撃、あるいはその不満の声が不用意に注意を向けたのか。


「二人共一匹ずつ貰ったんだから、これ邪魔しないでね!?」


 危なげなく展開した槍で防ぎつつ、攻勢に打って出るルゥを見ながら僕とコウは肩を竦める。

 攻撃を防ぐために出していた短剣をしまいながら、あの時とは技術も装備も違いただハウンドのように狩られる偽竜に対し、僕は自分達の成長というか、時間の流れのようなものをのんびりと感じていた。


「とりあえず特徴の尻尾に、鱗……と」


 倒し終えた偽竜の解体をその場で行う。

 今回はサンプルが目標で、多くの素材は必要としないので血の臭いをさせながら拠点へ向かうよりも、敵の生息域だとしてもさっさとその場で必要なものを切り出して逃げるほうが早い。

 あの時と同じ尾刃型偽竜。そう呼称されるに至った尻尾と、あとは腐らない鱗を集めながら、腹を掻っ捌き特徴的なものを探しつつその内部を記憶していく。

 しっかりとした道具を提供されていなかったり、注意されていない時点であまり詳しいサンプルは必要ないと思われる。国が管理しているもの以外に素材が欲しかったり、あるいは単に情報が必要なだけだと思うのでわざわざ重いものや、保存させなければ痛んでしまうものを選ぶ道理は無い。


「あとは小さい骨でもいいでしょ」


 そう言ってルゥは小骨をぺきっという音と共に抜き取る。

 THE・雑。痛んでいて苦情が来たら、その対応はルゥにさせよう。


「……この肉って食えるのかな?」


「やめといたほうがいいでしょ、こんな場所でお腹壊したいの?」


 体色は緑だが、肉は普通に赤身だ。

 ルゥが食べたくなる気持ちもわかるが、外観や爬虫類という先入観から体に悪そうな雰囲気がする。

 現状特に食糧事情が厳しいわけでもないし、好奇心に負け食べてみて、ただでさえ劣悪な野外という環境で体に悪いものを摂取でもしたものなら、たとえ魔法があっても腹痛は免れない。

 一応死にはしないし、すぐに回復できるだろうがそれまでにかかる時間と痛み、それに魔力を考えると無謀と言わざるを得ない。


「ほら、拠点に向かって帰ろう」


 後ろ髪引かれているルゥを引っ張りながら、僕達は死骸を放置し歩き出す。

 野犬かなんかが適当に処理してくれるだろう。ウェストハウンド相手ぐらいなら埋める余裕もあるのだが、不意を打たれると偽竜相手は首が飛びかねない。どれだけ戦闘が手早く片付いても、弔う余裕はどこにもない。

 それに雪も徐々に降ってきた。

 かなり移動したせいで拠点には日が暮れる前に帰れなそうだし、せめて野営の準備をする地点は偽竜の生息地域から離れた場所が好ましい。



- 機械仕掛けの心 終わり -

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