50.光無き光
「……っ! はぁっ……!!」
意識が覚醒し、今まで呼吸を忘れていたかのように肺に空気をかき込む。
夢とはいえ人を、それに大切な人達を殺してしまった。
今でも思い出せる人を殺した感触。それは夢なんかじゃなくて、まるで過去に実際に起きた出来事のようだ。
でも。
でも、もう一度同じような夢を見たら僕はきっと同じことをすると思う。
きっとあんな幸せで、残酷な夢を見たときに僕がする行動が決まっているのだから、普段はあんな夢を見ないのだろう。
……壊れてるなぁ。
順調に壊れてる、元々あった人間性が剥がれていっているのが今はまだわかる。いつかそれが異常だとわからなくなる日が来るのだろうけれど。
いつから、だろう。偽竜と戦ったとき?
違うな、あの時他人の死には慣れていたけれど、慣れるきっかけはずっと前にあった気がする。
故郷が滅んだ時、かなぁ。大勢の、それも大切な人達が一気に亡くなってしまって。
でもそれだけでも無い気がする、初めて哺乳類を殺した時、ウェストハウンドを遠征で狩った時にも特にショックを受けた記憶はない。
どれもが原因か、もしくは一つだけ理由を挙げるのなら自分が一度死んだときなのだろう。
家族が死んでいくのを、自分の体が焼ける苦痛を味わいながら眺めるのはかなり堪えた。
「くっ……ははっ……!」
思わず笑い声が出てしまう。
何がきっかけでも良かったから、壊れているのに正常であると思い込んでいたから、壊れていることに対して何も思わなかったから。そのどれもがおもしろくて。
淡い光が見える。ベッドの隣にある水晶が、香りと共に起動している。
多分、これがきっかけなのだろう。あの普段見ないような幸せな夢を見たのは。
落ち着く光に、好みの香り、そして安らげる夢でも与えてくれるのだろう。
悪くない遺物だ、でも僕には合わない。望む安息がもう届かない場所にある僕にとっては。
体の調子を確かめる。
おそらく熟睡した上、十分な時間睡眠を取っていたのだろう。遺跡を目指して野営したときより、もしかしたら普段宿で寝ているときより寝覚めの調子は良いかも知れない。
ならばみんなを起こすことにしよう。
竜殺しの遺物はここにあるかもしれないけれど、遺跡を脱出しないことには竜を殺すことも叶わない。
食糧確保の目処は立っていないし、今回は町に帰ることを優先すべきだろう。
部屋の電気を点け、水晶に触れて機能を停止させる。
部屋を明るくしても誰も起きる気配がない辺り、皆はまだ幸せな夢に溺れているのだろうか。
幸せな時間を邪魔するのは忍びないが、いつまでも寝られては命にかかわる。
「起きろー!!」
部屋の中央で声を張り上げる。
水晶は動いていないのでそこまで効果はないはず、夢を見るきっかけは与えても夢を見続けるかどうかは水晶ではなく夢を見ている本人が決めるはずだ。
僕の大声に二つ動く影がある、コウとスイだ。
普段の目覚めよりかなり鈍いが、二人共自力で起きれそう。
問題は残り二人か、頑張って起こさないと。
「ルゥ、起きて」
体を強く揺すっても反応がない。
「……おはよう、アメ。ルゥがどうかしたの?」
僕の様子に異常を感じたのか、目覚めたばかりのコウが尋ね、少し遅れてスイも起きてくる。
「みんな水晶のせいで幸せな夢を見たはず。ルゥとジェイドはまだそこから抜け出せてないみたいだから、二人でジェイドを起こしてあげて」
寝ぼけた頭でも何をすればいいのかすぐに理解したのだろう。コウとスイがジェイドを起こしにかかる。
というかあまりにも鮮明な夢だ。一度起きてさえしまえば夢は現実に起きたもののように記憶されており、意識が朦朧としている可能性は低い。
「ルゥ! みんな起きてるよ、起きないのなら置いて行くよ!?」
彼女が持つ"周りに合わせる"という信念に揺さぶりをかけ、肉体も同様に揺らし刺激を与えるとようやく薄目が開き始める。
ジェイドもコウとスイの健闘もあり、じきに起きる様子だ。
「……ィ?」
僕の目を見て、おそらく別の誰かの名前を呼んだのだろう。多分イントネーションからスイの名前でも無い。
ルゥが伸ばしてくる手を払い、かわりに背中に手を回し無理やり体を起こさせる。
「アメだよ。おはよう、ルゥ」
「アメ、か。うん、おはよう……」
幸福から現実へ帰ってきただろうルゥがそう呟く。なんというかこうして抱きしめていると今にも折れてしまいそうだ。
元より華奢な体に色素が薄いせいで脆そうな見た目、それを内面……図太かったりしたたかな性格、それに持っている信条で彼女を知る人間はその見た目から感じる儚さを忘れてしまう。
でも今はその内面すら感じられない、瞳の状態やその視線の動き、発声の仕方や身振り。そのどれもが普段感じるルゥらしさを遠く遠ざける。
「ねぇ、少しだけぼんやりさせて。五分ぐらいでいいから、一人にしなくてもいいから。ただぼんやりさせて、何もしないでほしい」
「……うん」
だから僕はルゥの言葉に頷くしかなかった。
五分後にはきっといつものような彼女に戻っていると信じて。
- 光無き光 始まり -
「おまたせ、ありがと」
五分後。
いつもの調子でルゥは、朝食を食べている僕達の輪に入ってくる。
先ほどまでベッドで膝を抱えていたルゥはもう居ない、確かに彼女は帰ってきた。
「ん」
それに対し僕はそれ以上のことは言わなかった。
多分何を言っても無駄……言ってしまえば"勝てない"そう思っていたから。
「皆はすぐに起きれたんだな、俺は夢を見ていることも忘れていたよ……」
今まで最小限の会話だけしかしていなかった中、ジェイドがどこか恥ずかしそうに頬を掻きながら口火を切る。
それに対し妹のスイが頬を赤らめながら続いた。
「私は夢だってわかっていながら目を覚ましたくなかった。お姉さま達がいる夢も見ているのに、お母さんやお父さんもそこにいるとどうしても勝てなかった」
慰めになるかはわからないが、羞恥を覚えている二人に言葉をあげる。
「別に勝つ必要はないよ。多分水晶はただの娯楽品だし、いつか目は覚めていただろうから」
スイは僕と違いいろいろな場面の夢を見ていたのだろう。
その中には過去の回想だけではなく、スイの両親と共に僕達が一緒にいるようなまさに夢みたいな場面もあったかもしれない。
無理やりそれに勝て、なんて残酷なことは言えない。僕達は皆何かつらい事があって、その結果こうして集まっているのだろうから。そのつらさは十分わかっているつもりだ、ただルゥが一番ショックを受けていたのは予想外だが。
「俺は今こうして大変なことにあっているのも楽しいからすぐに目が覚めたけど、アメはもっと早かったよね、何かあったの?」
コウが無垢な瞳で尋ねてくる。純粋に夢に対抗できる技術、そういった技術があるのならどういった方法か知りたい、そんな瞳だ。
自己嫌悪で君の首をへし折りました。
とてもじゃないがそんなことは言えない、本人やルゥは納得するだろうが兄妹にはきっとドン引きされる。
「……もともと夢見が悪いほうだからね」
「そっか」
僕の言葉にコウはすんなり引き下がる。
答え方から何かを感じ取ったのか、昔から僕が悪夢でうなされている様子が記憶に残っていたからかは知らない。
「食べ終えたら少し休憩して、探索を始めようか」
皆が頷くのを見て僕はトイレに行く。
まだ数日は食料が持つが、今日中に脱出路とまでは言わないが食料をどうにかできるようにしたい。
飢えが苦しいのはよくわかっているつもりだ。
「……何か、変だね」
水族館と植物園区画の探索を終え、中心にある中継地点から残り二箇所の区画へ行く片方の廊下を歩く。
無意識に次行く場所も今までと同じだろう、そう固定観念に囚われていたが見える景色が明らかに違うので少し警戒を強める。
今まではその区画に入ると正方形になっているとわかるような構造だった。
けれど見た感じ迷路のように入り組んでいて、また必要以上に扉がある気がする。どうみてもスペースが足りていない辺り別の場所に繋がっているのだろうか。
「ランタン、どうする?」
僕は皆に尋ねる。
今までは明かりは全て点いていたのにもかかわらず、この区画は半分以上光源が死んでおり薄暗い場所が多い。
僅かにだが闇に包まれ視認できない場所もあるようだ、視認しづらい場所に危機が存在していて命が脅かされる可能性もあるかもしれない。
「今はいいんじゃないですか? 全体を把握したあと、どうしても見えない場所を探索する必要が出たときに初めてランタンに明かりを灯しても」
「それでいいと思う」
スイの言葉にコウも同意する。
まぁ現状死にかけたのは縦穴から落ちたときだけだ、必要以上に怯える必要はないか。油も僕が落としたときと、三人が降りて来たときにかなり減ってしまったし、薄暗い場所を照らすために使っていたら今後油が足りない事態に陥るかもしれない。
薄暗い場所は魔力で瞳孔を調整し視認、完全に真っ暗な部分は目を傷めないよう瞳孔は平時のままでランタンに頼る、そんな方針でいいだろう。
「なんだろうね、ここ」
コウが何度目かの扉を開け閉めし疑問を零す。
光源と同じようにか活きているドアと死んでいるドアが存在し、死んでいる場所は開くと壁、活きているならば別の場所に繋がっている。そんな様子だ。
いくつもの場所へいける中継地点、そんなところか。駅といったイメージが適切だろう、電車はなく代わりに大量の扉があるのだが。
「さて、ランタンの出番かな」
区画の全体像は把握した。
少し形は違うものの、他の二区画同様な大きさで四角い形をしているようだ。
はじめ数箇所の扉は開けたものの残りは全て放置し、まずは扉の外を把握することを優先しそれも終えた。
なら探索は次の段階だ。
活きている扉の先を探索するのは得策じゃない、どれだけの空間に繋がっているかわからないからだ。
ならば先にやることは死んでいる扉の確認、どこが扉として機能しているかを把握するためにも、まずはそこから確かめたほうが効率的だろう。
そして活きている可能性が低いのは光源も死んでいる場所の扉だ、同一のエネルギー源や電線のような物を使われているのなら共に機能が死んでいる可能性がある。必ずしも光源と扉の機能が関連しているわけではないが、ある程度ならその関連性の推測を信頼して動いてもいいと思う。
「火、つけるね」
念のため口に出しながら明かりを灯す。
極限まで瞳孔を開いた状態で光が目に刺さると一時的にでも失明をすることがある、別に魔力なしでも治るの程度の損傷だがなるべく体調は整え痛みは避けたい。
それにルゥのこともある。色素が薄い、もしくは瞳は赤に、髪は白く染まっているだろう彼女は光に弱い。普段から厚着や魔法で対策はしているし大丈夫だろうが、気づける場面は気を使ったほうがルゥのためだろう。
「あの扉、開いているな」
火を点けたランタンから視線をそらす前にジェイドの声が耳に入る。
皆に遅れて顔を上げるが確かに暗闇だった場所に開いている扉が一つだけあった。
「偶然かな……でも今までは全部閉まっていたしね」
コウの記憶はおそらく正しい。
不思議なことに今まで開いていたドアは存在しなかった、全て閉まっているのを自分達の手で開けて探索した記憶がある。
人が居なくなる前に几帳面な誰かが全て閉めていたのか、それとも自動で閉まるような機能でもあるのかと思っていたが、どちらにせよ開いている扉は異常でしかない。
「近寄りたくないね……そうでもないか」
自分が零した呟きに、否定を重ねる。
今まで異常だと思った全ては結局無害だった、今回もそうなのだろうか。
でも理性が歩こうとする足を踏みとどまらせる、僅かな危険性でも油断を誘うことは許されない。
「開いている理由を考えてみたらどうでしょうか?」
「……最近開けられたとか」
「嫌だね、それ」
兄妹が怖い会話をしている。
長時間開いているドアを自動で閉める機能があるのであれば、今こうして勝手に開いているドアは誰かが最近開けたことになる。
扉のこちら側かあちら側かは知らないが、その推測は誰かの存在証明になってしまう。
「そもそも別の場所に繋がっている扉ってさ、内開きか外開きどちらかの規格に統一されていたっけ」
日本での扉は外開きが主流だった。
それに対しこの世界では外国と同じように内開きが主流だ。防犯上の理由はあまりない、魔法が存在する以上扉が防壁として機能する材料として弱いからだ。ただ内開きを避ける理由もない、室内もベッド以外では靴を履いているので靴を置くスペースを気にする必要もない。
ただ普通の扉ならばそこをあえて気にする必要はない。でも今僕達の目の前に存在しているのは普通じゃない扉ばかりだ、それも別の場所に移動できるような。
「部屋があると思ったからドアは全部押して開けたよ、出るときは全部引いて出たし」
コウの言葉に思い出す。
例えば今日起きた部屋、あのベッドがある部屋は扉を押して入った。そして部屋を出るときはドアを引いて出た。
「でもそれだとおかしいよね、今目の前にあるドアは内側に開いているんだから」
少なくとも今いる場所は部屋ではない。
開けた、それもいろいろな場所に通じるような中継地点だ。
「危ない、ですよね。人通りが多いような場所に向かって開くなんて」
僕の言いたいことをスイが言う。
少なくともドアの反対側が見えるような窓等は存在しない。急にドアが開いたのなら、人通りが多いだろうこの場所では歩いている人にぶつかってしまうことも少なくなかったのではないか。
「まぁなんでもいいよ、とりあえず扉の向こうがどうなってるか確かめたほうがいいんじゃない?」
コウの言葉に現実に連れ戻される。
まぁそうか、扉の構造なんて考えていても仕方ない。前時代の人間にはドアが開くなど予測できるのは当たり前だったのだろう、それかドアが当たっても痛くないとか。
「……」
開いている扉を覗き込むと背筋が凍った。
ランプを落とさなかった自分を褒めたいぐらいだ。
近寄って覗いて見た扉は、完全に暗闇だった。光を吸い込んでいるかと錯覚するほどの、黒。
まるで真っ黒な壁がそこに存在しているように、深淵だけがそこに存在していた。
誰も口を開けない、おそろしくおぞましい空間がそこにあるようで。
「……とりあえず閉めとく? 何かあったら開いて警戒できるだろうし」
「うん、そうして」
僕の返事に扉を閉めようとするコウ。
それを止めるようにルゥと同様黙り続けていたジェイドが声を上げる。
「待ってくれ!閉めるのは少し待ってほしい」
「どうして?」
一応扉を閉めていた腕を止めながらコウが尋ねる。僕としてはさっさとこんな気味の悪い扉は閉めて欲しい、今にもホラー的な何かがその空間から僕達を引きずり込みそうだ。
そんな気持ちに対しジェイドは何かを考え続け、ようやく思いついたのかしばらくしてから口を開いた。
「この遺跡、活きている下の遺跡は全て内開きだったかもしれない。
ただ上の遺跡は違ったんだ、土が雪崩れ込んだだろう入り口は内開きだったが、俺達が落ちた縦穴がある入り口は外開きだった」
開けたジェイドだから今まで覚えていたのだろう。
確かにあの扉は珍しく外開きだった、よくジェイドは押して開けようと試みたものだ。
「ん?でも今なんでその話?」
僕が尋ねると、周りから冷めた視線が飛んでくる。お前はまだ気づいていないのか、そんな感じの。
「最近この扉が開けられたのだとしたら、それは俺が開けたんじゃないか?」
ジェイドの言葉に思いつく。
あぁ、なるほど。この扉、珍しく開いていた扉は僕達が縦穴に落ちた扉の反対側から繋がっているのではないか、と。
「繋がってる可能性が高いのか」
「ただ何故繋がっていたとして真っ暗なんでしょう?」
なんでって、そりゃ向こう側のワープ機能が死んでいたのなら、光は向こうから入ってこない、つまり向こうの景色はこちらから見れないのだ。
今掲げているランタンは向こうの暗闇を照らしているだろう、でもその照らされた景色はこちらに入って来ない。
「……」
ただそれを説明するのは面倒だった。
何故物が見えるのかという基本的な知識を説明した上で、こちら側の機能は活きていて向こう側が死んでいた場合こんな状態になるのではという、未知の技術に対する憶測も含まれている。
僕は無言で短剣を取り出すと、その暗闇に向かって少しだけ差し込む。そして手を離した。
「これはどうしたんだアメ!?何かに掴まれたのか?」
驚いているジェイド達を放っておき、現状を確かめる。
突き刺した短剣は浮いていた。
力を入れても引き抜けず、また上下に移動することもできない。
一見物理学に反するその事象は恐怖を与える存在でしかないのだろう、ただ僕にとっては光明だった。
一箇所だけ何故か開いていた扉。
壁でもなく、別のどこかでもない場所を映すその存在。
離れた空間を繋げる技術。
活きている扉と、死んでいる扉。
珍しく外開きだった縦穴のある上の扉に、珍しく内開きな今いる場所の扉。
ほとんどそれは答えを示しているようなものだ。
ならばあとは安全性だけ、片方だけ機能が活きている扉に人間は入っても大丈夫なのか。
それも短剣を突き刺したことである程度の確証を得られた。
一方通行としか機能していない扉で、安全性を守るためにはどうするべきか?
簡単だ、その方向に行くことしか許さなければいい。それこそ通過した物体を戻してしまったり、上下に移動できないような。
「ちょっと行ってくるね。安全だったらこの短剣を引き抜くからそのあとついて来て、引き抜かないようなら扉を通ると大変なことになるって証拠だから僕抜きで他の脱出口を探してね」
片腕を先に入れ、短剣と同じく上下や手前に引き寄せることができないのを確認する。
そして扉の向こうにある腕の感覚がまだ生きていることも。
長時間こうしていると血が循環せず腕が壊死するのか、それとも繋がっている部分はその存在全てが活動し続けることを許されているのか。
「お姉さま!」
「アメ!」
スイとコウ、二人の叫び声を聞きながら、僕はその暗闇に体を入れる。
遠くで点滅するライトに、動くなら少しでも早くが良いと思いながら。
暗闇を抜けた先は暗闇だった。
ただ体の感覚は存在し、手に空中の塵を集め火を灯すとそこは懐かしい光景だった。
振り向くとそこにあるのは皆の姿ではなく、半分だけ浮いて存在している短剣だけ。
声も聞こえなければ、光も届かない。
……でも体だけは通したのか、一体どんな原理だろう。
少し前までなら扉を潜ることに躊躇ったり、恐怖を覚えたりしたんだろうな。
けれどそんなものは微塵もなかった、ただ偶然に直感を得、推測だけで真っ暗な扉の先にある未知の恐怖に全身を投げた。
我ながら無謀なものだ……ただまぁこんなものか。一つ誤算があるとすれば向こうから光を通さなかったことだが、体が無事なので気にしないことにする。
それよりも早く皆を安心させよう、さっきの場所できっと慌しく会話が飛び交っているだろう。
それにそろそろ火をつけ続けるのもつらい、塵が無くなる前に早くランタンをこちら側に持ってきて欲しい。
「アメ!」
コウが先頭でランタンを持ち、また皆で一列になるよう手を繋いでこちら側に飛び込んでくる。
「少し早くなかった?」
短剣を引き抜いたら来いと言った記憶はあるが、引き抜き始めたら来いとは言った記憶はない。
「なんて無茶をするんだ……」
ジェイド呆れたようにそう言い、コウは僕の無事に胸を撫で下ろす。
スイは青ざめた表情で、ルゥだけは僕の行動に一人薄く笑みを浮かべていたが。
「ごめん、ちょっと説明するのが面倒になってさ」
それに材料も足りなかった。皆を納得させる、そして安全性を九割以上示す根拠が。
そんなものに一応リーダーである僕が賭けるとは言えなかった、なら口よりも体を動かしたほうが面倒が少ない。
「でも一応地上に帰って来れたみたいですね……」
背後の空間に先ほどの景色ではなく縦穴が存在することを確認しながら、スイがそう呟く。
「まぁまだ地中だけどね、さっさと町に帰ろう」
少し名残惜しいがコウからランタンを受け取りつつ歩き出す。
遺跡から得られたものは情報以外何もなかったが、今回は早い段階で帰れたことだけでも十分だろう。
竜を殺すのに遺物を頼るのは危険だ。
持ち運びができるうえ殺傷性があるものは見当たらなかったし、そのくせ想像もできない技術で僕達を混乱させ危険に晒す。
まぁ今回危険だったと言えるのは脱出できない可能性が高くて餓死しそうだったことぐらいだが。
もう一度穴を降りて探索する気にはなれなかった、少なくとも今は。
最後に探索した区画は機能が半分は死んでいた、明かりが消えていたりドアが壁に繋がっていたり。
今はまだ大丈夫だろうが、遺跡にまた縦穴から降り、自分が望む遺物を見つけさっき通ってきた扉からここへ帰ってくるまであの片道通行の扉が活きているというのは希望的観測だ。
「あ……」
入り口から地上へ上がろうとすると、雨が降っているのがわかる。
幸先が悪いが仕方ない、油や食料はまだ残っているし、秋の雨はそう長くは続かないだろう。
徐々に寒くなりつつある気温で体を濡らしながら町へは帰りたくない、天気が良くなるまではしばらく遺跡の入り口付近で休むことにしよう。
- 光無き光 終わり -




