222.終の未来
魔砲剣の作成はほぼ三日かけて行われた。
あらゆる外的干渉を受けないとされている魂鋼だが、実際のところ魔力による直接的な干渉は異常な魔力量か、時間をかける事で影響を与えた場合加工する事が可能になる。
本来金属製の武具ならば炉に入れて型に入れて叩いたり……といった工程が必要なのだが、魂鋼の場合一度変形槍として生み出された存在を、仕手の違う魔砲剣として書き換える作業が必要になるわけだ。
魔刻化のように痛みは伴わないが時間は一応かかる、と引きこもったヒカリは思ったより早く外に出てきた。
「なんか盾より早く加工できた」
「そっか」
それにどのような意味があるかはわからない、でも僕は少しだけ嬉しかったとだけ言っておこう。
普通の金属で四発用意した魔砲剣の弾のうち、充填が間に合った二つを持って僕達は郊外に魔砲剣の具合を試すため出て行ったのだった。
- 終の未来 始まり -
「両方とも正常に動作確認」
弾を込め、反動に備え身構え、引き金を絞り射出。
本来レバーで装填している中身が空になった弾を吐き出す機構は魔力で動作するよう改善され、次弾を盾の内側にある収納スペースから取り出し再装填。
「……正常って言うのもおかしいけれど」
「え、何がおかしいの?」
独り言のように呟かれた言葉が気になり、僕は思わず尋ねてしまった。
「魔力って質量があるわけじゃない? でもこれって本当に僅かなの。だからどんなに凄い勢いで射出しようが、腕を折りかねない反動が発生する理由が無いの」
魂鋼という軽い素材に、魔砲剣を自作するため構造を理解し……なんか僕よりこの世界の物理学に通じていそうな魔法を扱うヒカリは眉を顰める。
「この反動が必要なほどの何かが砲撃時起きているのか、それとも目に見えない何かを犠牲にして反動という結果が生まれているのか。
あとは単純に威力のある攻撃を放つ、もしくは銃の形をしている物体が弾を吐く行為が理由かもね」
はは、まさかと笑おうとしたが、実際のところ前時代の物理学が通用しない魔法なんて存在がこの世界にはあるし、僕が知らない知識など案外身近に存在しているのかも知れない。
例えそれが、銃口から威力のある弾を吐くから反動が発生するという意味の分からない理屈だったとしても。
「名前っ、名前ってあるの!?」
そこが重要なのかと終始興味深そうに魔砲剣のテストを眺めていたカレットは、締めの問いに相応しいと笑いかねない様子で尋ねる。
「思い槍って呼ばれてたっけ」
「なんだその冗談半分のネーミングは」
どうにか遠い記憶を手繰り寄せて口を開けば、シュバルツは呆れたように肩の力を抜いてそう笑った。
「本人もその自覚はあったよ。正式名称は……」
「"追憶する想い"」
あぁそんな名前だったと喉どころか胸辺りで止まっていた名前に同意しようとして、儚げなヒカリの笑顔に言葉を失う。
「だから私は魔砲剣に生まれ変わったキミに新しい名前を付けよう。
私達が振るう武器に相応しい名前を与えよう」
陽光にかざし、まるで剣そのものが眩いように彼女は目を閉じて唱えた。
「"終の未来"」
- 終の未来 終わり -




