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曖昧なセイ  作者: Huyumi
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213.碧空の少女

 いっぱい食べて、いっぱい寝て。

 魔刻化のため使っていた室内を魔法も使いできるだけ清掃し元に戻し。

 僕達は中庭に集う。



- 碧空の少女 始まり -



「……盾一つ分の魂鋼しか寄越さなかったんだ」


「うん。

……あぁ別にカンナギと国相手出し抜いたから絞られたわけじゃない。元々この量を報酬として渡す書類が商会相手に既に魂鋼と共に渡されていて、後から『よくも今回は出し抜いてくれたな、何時(いつ)か覚えておけよ』みたいな事を遠回しに書かれた手紙が追加で来た」


「それは律儀というかなんというか」


 あのバカなライムとレモン二人の後ろで、むすっとし機嫌の悪そうな幼姫の姿が悠々と思い描ける。

 その使者である二人がサボっていた事などは別で報告しているがクビになっていたりしないだろうか。


「こうして並べてみると壮観ですね」


 シュバルツが魔刻化により全身に青白い模様を走らせた僕と、ヒカリが持つ青白い盾を見てそう頷き、隣に居るカレットも楽し気に同意する。


「まだ肝心な物が二つ足りていないのだけれどね」


 ヒカリの武器に、僕の武器。

 人や獣と戦う際、魂鋼製の武器はオーバースペックだからか、ヒカリはイルが持つ刃に対抗するため盾を優先して製作した。

 あわよくば魂鋼で僕のナイフと考えていたが、三年経った今ヒカリの分を確保できるかも怪しい。イルからぶんどれれば一番色々と都合が良いのだが、あちらもそれを理解してか安易に剣を抜かなくなってきた。当然倒せる見込みは現状無い。


「ねぇねっ、どれぐらい硬いの?」


「そうね。全力で剣を振り下ろしてみなさい」


 ワクワクとしているカレットに問いかけられ、ヒカリは持っていた盾を地面に置く。

 カレットの手には魔剣の柄。土を生成し仕手よりも重量がある特大剣を生み出す武器。


「いいの?」


「えぇ、傷一つ付かないから。もしこの程度で砕けるなら竜相手に使い物にならないし」


 何かの間違いで壊しても構わない。

 そう言質を得てカレットは嬉々として中庭の土で魔剣"カレット"を生成、皆が離れるのを確認して躊躇わずに振り下ろした。

 盾は砕けない、当然特大剣も砕けない。ただカレットの手は痛いほど痺れたようで。軽くぴょんぴょんと飛び跳ねて痛みに堪え、しゃがみ込み本当に盾がかすり傷一つ付いていないことを確認してカレットは追加で二撃目、三撃目と攻撃を繰り返す。

 結果は何度やっても変わらなかった。最後にカレットの意思を表すよう、魔力による管理が行き届かなかったのか特大剣の一部がボロリと崩れたが。


「おぉー」


「良かったら私が盾持って横から振ってみる?」


「……大丈夫なのですか?」


 尋ねたのはシュバルツ。

 僕も同じ事を思った。たとえ盾で防ごうとも、そこから伝わる衝撃までは殺しきれず特大剣という非常に重量のある武器を万全の状態で振り回せば相当体に響くのは実践せずとも想像がつく。

 僕達の心配を裏に、ヒカリはいいからいいからと何をするのだろうと期待しているカレットを丸め込み、欠けた特大剣は再び土を身に纏い尋常ならざる武器として彼女の手に戻る。


「いくよ」


「何時でも」


 待ち構えるヒカリの姿に異常は無い。

 普段とは防御の仕方が変わっていたり、見た目に劇的な変化は見られない。

 ただ存分に勢いをつけて殴りつけられた刃が、ヒカリの盾に触れそうな瞬間何かを行うために発せられた魔力が僅かに走る。


「え」


 目を疑った。

 横へ吹き飛ぶか、何かの間違いでその場に止まるだろうと思ったヒカリの姿は切り払われたカレットの剣に触れ、少しばかり横へ移動した後に物理法則を無視したように上へふわりと磁力に引き寄せられるかの如く舞ったのだ。


「何、したの?」


「エネルギーの方向を変化させただけ。横から受けた衝撃を上方向へと向けた。

まだ開発途中で、エネルギーが来た方向へと反射することは出来ないんだけどね」


 ヒカリ曰く垂直方向ならば物理法則を魔法で変化させることができ、尚且つ目指している到着点はエネルギーの反射らしい。

 それが実現したらどうなるんだろう。あらゆる魔法や攻撃は来た方向へと裏返り、捌ききれる認識と魔力さえあれば無敵どころか接近戦を許さないのでは。

 爆発を操れるようになっていたコウの時から思っていたが、何やら技術開発の方向性が僕には見えなくて色々と恐ろしい。


「すごかった! アメはどうなの?」


 期待に満ちた視線を向けられて少し困る。


「活性化させて五割り増し。平時は体の強度が少し違うかな、鉄線通したような物」


「活性化させるとどれほど魔力を消費する?」


「……最悪戦闘時間が半分になるかな。要所要所で利用していく形になるけれど、非活性化時でも燃費が一割か二割悪くなっているんで必要無い相手でも活動できる時間が減る」


「知ってはいたが割に合わんな」


 指で目を覆うシュバルツ。僕も真似したいが既に引けない当事者の身、後悔していないと虚勢を張り続けるしか自分を慰める方法はない。

 流石にこの姿は目立つのか屋敷に居ても普段より視線を多く浴びるのだが、これが街に出てしまえばソシレを連れている時並みに注目を集める。当然魔刻化を知っていない人間にも警戒され、敵として対峙したら注意深く対処されるだろう。


「身体能力を測る方法は……」


「跳ぶ?」


 ヒカリの提案にそれが良いとスカートを履いているので皆で散開する。

 まずはカレット。二メートルにまだ届かない程度か。

 次にシュバルツ。こちらは二メートル超えているはずだ。魔力を全力で使っても垂直跳びでここまで跳べる人間は軽装でも限られる。

 最後にヒカリ。こっちは二メートルを明らかに超えてジャンプして見せた。


「まずは魔刻に魔力を流さない場合ね」


 流したら光るから見ればわかるかと内心ツッコみながら跳躍。


「シュバルツと同じぐらいね」


「筋肉は無いが身軽な分この土台ならばほぼ同じ性能なのだろうな」


「次、魔力流すね」


 両足はもちろん、両腕で体を勢い付かせて少しでも距離を稼ぎたいので頭部以外の魔刻を活性化させる。

 十分にしゃがんで……跳ぶと、自分でも予想できないほど勢い付き、空中で思わず制御を失って落下。横目で見た地面が酷く遠くて怖かったが、転がるように受け身を取って大した傷も無く着地を果たす。


「三メートル超えていたわね」


「まぁそんなところか。

あとは目と耳だけど普段より遠くだったり、小さい物を見つけやすくなる。耳は良いんだけど、目は左右の視力が一時的に大きく離れるから咄嗟の状況だと遠近感失うかも知れない」


「あれほど苦しんでいた割には……」


「地味」


「言わないでカレット……人には慈悲という素晴らしい感情があるんだよ……?」


「誰かがきびしい現実を突きつけるひつようがあるとも教わった」


 そうだけど。

 ……そうだけど!!



- 碧空の少女 終わり -

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