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曖昧なセイ  作者: Huyumi
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211/231

211.彼女は空に生きる存在を最も憎んでいます

 夢を見た。いつも見ている灰の底の夢。

 守れなかった人々が僕を取り囲み、その中で一番近くにいた少女を抱きしめる。


「大丈夫、何も言わなくて。

もう迷わないから、あなた達の分まで苦しむと決めているから」


 抱きしめ、少し力を入れて引き寄せようとした途端少女は灰燼と化し、連なるように周りの人々も表情を固まらせ粉々に床に降り積もる。

 夢を見ているという事は意識が浅く、十分に眠れた証だ。さっさと起きて作業を再開しよう。

 僕は僅かに光を見せている空を見上げ、そこに体が吸い込まれる前に意識が切り替わる事を認識した。



- 彼女は空に生きる存在を最も憎んでいます 始まり -



「ん……」


 ベッドに上体だけ乗せていた事実が、視界の端で映る蝋燭の光に柔らかな感触で確かめられる。

 今回も上で寝れなかったか。魔刻化が終わり、激痛の余韻が過ぎ去るのを堪えていると気付けば気を失っている。大した手間ではないのでできれば回復効率の良いベッドでしっかりと睡眠を取りたい。


「おきた?」


「うぉっ、びっくりした」


 焦点が合い、手前に居たカレットに今更気づく。

 まさか僕が睡眠している間に何者かの侵入を許し、挙句気づくのに遅れるなど。


「アメが近づいてもおきないなんてめずらしいね」


「それぐらい疲れているの。出来れば上へ移動させて欲しかった」


 なにお前がベッドに座ってるねん。


「はぁい。次からそうするね」


 不本意ながらも床に寝たり、無防備に接近を許すなど二度と行えるものではない。


「すごい格好だね」


 一瞬酷い身だしなみの事かと思ったが、魔刻化された僕の体を指していると視線から察せた。

 通常光源にはならないので暗闇ではそう目立たないが、魔力を流し込んだ場合今このような状況下では非常に目立つはずだ。

 腕は肩から指先の根元まで。脚は太ももからアキレス腱まで。アレンが行っているものよりも大規模に、それも全身を隈なく魔刻化しているので普段着ている服が露出している部位は大体肌色に青白い模様が混ざり込む。

 眼帯や袖の長い服で到底隠しきれるものじゃない。始める前から諦めていたが。


「耳はどうなってる?」


「表はふつう。裏は……うん、付け根からこうとうぶに向けて扇状にぶわーって」


 髪を掻き上げ、耳を押さえていた手を汚れを払いながらおろす。

 大雑把にしかイメージが付かないがどこも似たようなものらしい。


「当分まこくかはやらないの?」


 まるで劇を強請る子供のように僕を見てそんなことを言うカレット。

 完全に珍しい物が見られると期待している。見世物ではないのだけれど、まぁ誰も見ていないよりはマシか。一人で自分をこれ以上無い拷問で追い詰めていると、世界に僕だけしかいないのではないかと錯覚してしまうほどだ。


「失礼します……って、これは酷いわね」


 一応ノックし、入って来たクローディアにシャルラハローテ。

 すぐに光景か臭いかで顔を顰めるが、それも一瞬の内。


「水は、大丈夫ですね。ゴミ、持っていきます」


 もう一つの釜を覗き込むシロに僕は思わず声をかける。


「放置してもらって構わないですよ。後で自分で片付けるので」


「あたし達が何のために来たと思ってるの。

それに後って何時(いつ)? 全部終わった時?」


 結局外に一度も出られていない事実に僕は口を紡ぐ。

 ベッドで寝たり、水分塩分摂取もまともに行えていないのだから何も言えない。


「少し話し相手とか要りますか? シュバルツさんからそうした方が良いと伺っていたんですけど」


「色々とありがとうございます。ただ今日は大丈夫です、カレットも居るので」


「そ」


 短くそう反応しこちらを黙って見てくるクロ。

 僕は無言で短剣を引き寄せ、自分の左目に突き刺した。


「ひっ……」


「いきなり何してんのよ!」


 痛い痛い。

 ただこの前偽竜相手に眼球傷つけられたばかりで痛みと、あの時抱いた絶望や覚悟が苦痛の声を漏らさずに済んだ。


「いや、見たいのかなぁと」


「んなわけあるかっ! 狂ってるんじゃないの!?」


「狂うだけで竜を殺せるならば僕はいくらでも狂いたいんですけどね」


「はぁ……もう行くわね、シャルが倒れそう。カレット、後は頼んだわよ」


「うん」


 ふらふらとしているシロを支えながらクロは外へ逃げるように慌ただしく出ていく。

 さっさとそうした方が良い。これから行われる惨状や、それを支える行為は彼女達と僕の関係には相応しくない。


「いくよ?」


「うんっ」


 切り裂いた眼球に指を入れ、何時でも魔力を注げると僅かに震える指先に声でカレットに告げると彼女はあくまでもこの光景が楽しいものでしかないらしく。

 それが癪に障り、やけくそ気味に魔刻化を開始し、案の定痛みで胃をひっくり返したり、床で唸りながら暴れる僕をカレットは笑いを堪えて見物しているのが片目でも嫌なほどわかり。

 苛立つ僕はどこまでも滑稽で、カレットは最後までおもしろい物を見ているように、左目の魔刻化が終わった。



- 彼女は空に生きる存在を最も憎んでいます 終わり -

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