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曖昧なセイ  作者: Huyumi
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204.無窮の星空

「おおぅ、ここにも犬が居やがる」


 一日休息に当て、翌日郊外でメンバーを揃えたら国の使者である男二人の片割れ、レモンがソシレを見てそう言った。


「も?」


「いや何でもない。それより思っていたよりも層が若いな」


 言葉が気になったのか首を傾げるヨゾラに、ライムは相棒がそれ以上ふざけた事を言わないよう気を付けてか微妙な所に話題を逸らす。


「それでも今回抜擢されるに値する人員よ。各々自己紹介を」


 僕と親しいからというだけでチョイスした気がするが、そんな気配は一切見せずに我らが主様はそう(おっしゃ)った。


「それで、目的地は?」


「来ればわかる」


「へいへい」


 ライムとレモンを除いて……あとソシレか。残りのメンバーで資料を確認し情報は共有している。

 このバカ二人に限って目的地を知り次第国へ連絡、リーン家を介入させず自分達だけで事を済ませる等は無いだろうが警戒するに越したことはない。

 偽竜の目撃地点は渓谷などで起伏が激しい場所で、相対した冒険者が言うには不可視の攻撃でこちらを襲って来る黄土色の化け物が居たそうだ。擬態の能力か、風の魔法でも扱っているものだと思われる。

 数や質に関してはあまり信頼のある情報ではなく、実際に自分達で現地に行ってから確かめてみた方がいいだろう。必要ならば一時撤退も考慮して。



- 無窮の星空 始まり -



「予想以上に平和だな」


「お二人の協力もあってこそです」


「まぁ当然それもあるだろうがな!」


 ガハハと口を開けて笑うライム。

 片道一週間ほどかかる目的地へと向かう皆の足取りは軽く、帰りは偽竜の死体を詰める予定なので片道分だけとはいえ十分に資源も詰めたおかげか一行の様子に不満や不平は見られない。

 最初こそソシレに怖がって暴れかねなかった馬達だが、近寄って来る獣を散らしたり、戦闘が発生した際最終防衛ラインとして荷物を背負ったままのソシレが馬車を守るのを見てか今ではすっかり警戒を解いている。

 国が派遣した騎士団二人も自由な存在ではあるが、悪い人間ではなく社交性があり、何より戦闘から野営までしっかりと能力まで備えている。アレンと並んでしっかりと頼れる大人の男性、という認識でいいだろう。目を離すと見張り中にうたた寝していたり、荷物からおやつを引き抜こうとするが問答無用で尻を蹴る事にした。特にその対応に対して怒り狂う事も、非常に残念ながら反省する様子も無く悪行は止まらないので帰ったら国へ報告させていただく次第だ。


「それにしてもやっと騎士団という安定した職に就けたのに、こんな冒険者のような汚くて面倒な仕事を押し付けられるとは」


「口に出すな、こっちまで気が滅入る。それにあの幼姫の金払いの良さは証明されているだろう?」


「つまりこの仕事を終えたら良いもの食って、二日酔いになるほど酒を浴びて、女を買える?」


「お前は、な。俺は今回の報酬で憧れの彼女に貢いでハートもゲットだぜ」


 焚き火を囲み、二人の間で繰り出される会話は冒険者そのもの。


「ココロはどう? こんな男性」


「知り合いぐらいが丁度良さそうですね」


 見張りとして距離が離れているヒカリとは別に、肩を並べていたココロへ尋ねてみたら忌憚無き意見が返って来た。友人ですら許されないのか。


「ココロは、まぁまだまだ成長途中だな。素質も服装のセンスも悪くない」


 当然聞こえる範囲内でやり取りを行ったので、流れるように絡んでくる二人。

 今回のココロはいつも通り和服だ。戦闘が想定されているので日常服より丈が短かったり、スリットが多い事で普段から僕の僅かに残っている日本人魂を穢してくる。

 僕が生きている頃でも和服は様々な発展を見せ、所謂ゴスロリ系と融合しているタイプもあったと思うので懐古主義なだけだろうが、どうしても思うところが残ってしまうのは狭量だなと恥ずかしい。


「そうか? 俺は今のココロでも全然いけるね」


「襲われる前に刺していた方がいいよ」


「そうですね。ぷすりぷすり」


 夜空が綺麗なのか星を見上げたまま上の空で、つんつんと鞘を抜かないまま刀で小突く。

 ……割と勢い良くめり込んでいる気がするが大丈夫なのだろうか。


「痛い痛い、やめろって。

安心しろよ、今の俺は憧れの彼女に一筋だからさ」


「にしてもこんな若い女みんな戦えるとはなぁ、あまり気は抜いていられないな」


 ココロ、ヨゾラ、フェルノまでも視線をやり、最後に僕へと視線を向けてそう呟く。甚だ不本意だ。確かに一番小さいけれど。


「お下品な言動を、己の欲望を少しでも抑えることができるのであれば、もう少し少女よりも実力が身につくのでは?」


 星から目を下ろし、気まぐれかココロはそうどこかに真摯さを孕みながら問いかける。


「……マジで? 己を律することができる人間は高みへ登る的な?」


「そうかもしれないな。現に彼女は今俺達と肩を並べているし」


「ならばそうするしか……! いや、俺はより高みを目指すぐらいなら今のように欲望に忠実に生きたい」


「俺もだ」


 一瞬見せた真面目さはどこへやら。

 すっかり元の調子を取り戻し、己の生き様を全うすることを優先した男二人にココロはクスリと笑みを零して再び視線を逸らす。

 自らを律する。

 それが強さの要因になると謳った少女は、何か抑えている欲望でもあるのかなぁと浅い睡眠の中ぼんやりと考え続けた。

 多分、僕は彼女から色々な物を奪ってしまっただろうから。



- 無窮の星空 終わり -

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