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曖昧なセイ  作者: Huyumi
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135.新入り三人組の今とこれから

「シィル……だけでは不安だったので、副隊長であるツバサにも話を通して諸々の処理を済ませました」


「ご苦労様。シュバルツも座ったら?」


 僕はヒカリの隣へと移動し、僕が居た場所にはシュバルツが座る。

 諸々の処理というのはアレンさんやココロ、そして竜を倒すために集めていた人々を私兵に配属するか否かだろう。

 本来ヒカリが掲げていたものより給与は下がるが、それでも一般的な仕事よりは実入りがいいし何より竜とか言うふざけた存在に挑まなくて済む。あまりこの屋敷を離れる人間は居ないだろう。


「ヒカリを止めないの?」


「止めたいのは山々だがお前含め主も聞く耳を持っていないだろう。それに死に逝くだけかも知れないと知りつつも、主がそれを望むのであれば俺としては全力で補助するまでだ」


「サポートした結果回って来るのはヒカリの貴族としての仕事ばかりだろうけれどね」


 僕の皮肉にシュバルツは隠さず溜息を漏らし、珍しく甘いヒカリの作った焼き菓子に手を伸ばす。

 当のヒカリはそんな彼がおもしろいのか、クスクスと他人事のように笑っていたが。


「今後の流れは?」


「情報収集に訓練を、活動資金稼ぎつつ行って必要な装備を整えたらとりあえず戦ってみる。何時まであの竜が滞在するかわからないし、一戦でも十分に揃えた装備で挑んだら足りない部分がわかるだろうからね。まぁこの一戦目も何年かかるのやら」


「活動資金を、稼ぐのですか?」


 僕の返答に、シュバルツは覚えた疑問をヒカリへとしっかりぶつける。


「えぇ、そう。竜退治の大部分は言うなればコウの人生。できるのであれば分けられる箇所だけでもヒカリの、貴族としての生活と分けたいの。

だから私産には手をつけない、必要なお金は自分達で稼ぐ。まぁそこまで多くのお金は必要ないと思っているけど」


 なるほど、とシュバルツはどこか共感したような感情を乗せて納得する。


「長期での流れはわかりました。目下の目標は?」


「とりあえず情報収集、探し物依頼、資金稼ぎのための仕事探しを昔馴染みに頼んで、テイル家は当然邪魔してくるとして多分竜信仰者も私達の活動を知るごとに直接的な妨害に出ると思うからその対処」


 昔馴染み。

 その単語に思わず顔が引きつり、二人共こちらを見たが無視することに決めたようだ。

 昔馴染みといえば生前の知り合いを指している。頼みごとをするのに皆は適切な人材で、明言こそしないものの生まれ変わりを臭わせれば喜んで協力してくれるのではないかと期待している。

 ……死に急いだことに関して詰め寄られたり、自責を直接味わうことになったらと想像してみればどうしても名状しがたい感情が顔に出てしまったようだが。


「あとは諸々の処理かしら。どうしても竜を倒すために貴族の一人娘が動くとなれば処理しなければならない事柄が出てくるだろうし、あと今は春が始まったばかりだから、大体半年後の秋の上旬に国からの召集に私も答えなければならないかもしれない」


「召集?」


 昨晩ヒカリの寝室で聞いた事のない話が出てきて尋ねる。


「うん。一年に一度王に呼ばれて貴族達が城に集められるの。今年は何をしましたという報告と、自慢を兼ねた食事会みたいなもの。

これはレイニスを任されているリーン家も例外じゃなくて、現当主であるお父様は当然として、たまに私も行く必要があるから可能性としては。

……まぁ竜に向けて動き始めるなら、今年は間違いなく呼ばれるだろうけどね」


「面倒をかけてくれるな、的な?」


 王国騎士団副団長であるジーンが王を怠け者と笑っていた様子を思い出す。

 そういえばあの人は今どうしているんだろうか、他の人より興味の度合いは薄いが無事に過ごしていてほしい。


「……知らないのか? 三年前に王が変わったことを」


 僕の口ぶりに思うところがあったのか、一瞬二人で無言の時間を生んだかと思えばシュバルツがそう聞いてきた。


「知らない。その前国王の名前とやらも知らない」


 世情に疎い劣等感を僅かに覚えたが、三年前といえばアレンさんに出会うことも無く毎日死んだように生きていた日々だ。

 当然自分のこともどうでもよい人間に国王がどうのという情報が入っているわけもなく、僕は浮かんだ憤りに身を委ねて開き直ることにした。


「前の王様は怠け者でね、当時八歳になった娘にもう十分だろうと国を任せて後宮へ引きこもったの」


「何をどう怠け癖を拗らせたらそんなことをできるんだ、娘可哀想過ぎるでしょ……」


 素直な感想が口から出て行き、同情しようと一つ上の少女を想像してみたが何度思い描いても怠け者、王の娘という二つの要素が脂肪でどっぷりと肥えた少女を描き出した。

 ぶっちゃけ王族など一度も見たことがないし、想像するだけ無駄というものだろう。でもぶよぶよに太っているのは十中八九当たっていると思う。きっと毎日良い物食べて、長い髪の毛を召使に整えさせて外顔を維持しながら、自分は体を清潔にするのも面倒で体臭をキツイ香水で誤魔化しているんだ。間違いない。


「それがそうでもなくてね、新しい王様は野心家というか我が侭というか、まぁそんな感じに能力もあって、自分に都合のいい人間の手綱を握って、都合の悪い人間は切り捨て王という立場を楽しんでいるの」


 人呼んで"幼姫"だそうだ。

 厳密には王で、それも幼いなんて単語を間違っても国を束ねる人間に向かって言えはしないので蔑称というか皮肉を交えたあだ名のように影で呼ばれているらしい。


「まぁ実際に幼い王が国を束ねても国という構造が崩壊するなどの問題が見えていないのでそこは重要じゃないのだがな」


 そういえばそうか。

 王が変わったどころか、特に昔と比べ治安が荒れている様子も三都市見当たらなかったので大丈夫なのだろう。

 怠け者が故に適切な人員配置ができる、そんなことを前国王は言われていた気がする。それは娘や、国を率いる王にも適用されたのだろう。


「重要なのは火種を率先して発生させ、そこから利益を得ようとするほどの積極性。

前国王と違い日和見なんて言葉は幼姫には存在しない。その気性がお爺様がテイル家に行った仕打ちにあっているのか、それとも単に刺激が欲しかったり好奇心に身を任せているのか……何にせよ王が変わって、王都から遠ざけられるほど避けられていたリーン家は国に、どちからというと国王個人に注目されていてね、結構自由に動けるようになったとか、自分の見える範囲で踊らされているのか」


「とにかく面倒なんだ」


 珍しく上手い具合に説明できない様子を見せているヒカリに僕は一言でまとめる。


「まぁそうだけどさ。とにかく注意したほうがいいよ。明確な敵に回ることはない可能性が高いだろうし、目前に来るだろうテイル家や竜信仰者、あとは獣や野盗の類の方が問題だけど。

そんな感じで全体の流れや注意するものを意識しながら、しばらくは地道な下準備……アメ」


「ん?」


 名前を呼ばれ、視線を隣にいるヒカリへと向ける。


「アレン、ココロと同じく、アメにも名目上は親衛隊に所属して私兵として働いてもらうことがあるだろうから契約金を渡すね。

ここで生活すると決めたのなら部屋もここの小さい方の屋敷にある客室から、他の皆と同じように大きい屋敷にある部屋に自室を構えてもらう。最低限の物は部屋に備えているけれど、明日にでもそのお金でアレンやココロと一緒に家具や生活に必要なものでも見繕ってきたら?」


 好意に甘え居候をするつもりはない。求められれば働くし、自分が生活するために必要な分はしっかりと稼ごう。

 下準備といったが本当にしばらくは人としての下準備だ。

 今までは客としてここでの生活に慣れること、それにこれからどうするのかを決める必要があった。

 今からはリーン家に所属する一人の人間としての生活を安定させ、竜に向かう心と足場を固める必要がある。


「うん、わかったよ。ヒカリは?」


「シュレーにほとんどの仕事を押し付ける準備」


 その発言にシュバルツは無言で菓子に再度手を伸ばした。



- 新入り三人組の今とこれから 始まり -



「それじゃあ行きましょうか」


「あぁ」


「はい」


 僕の言葉にアレンさん、ココロと共に屋敷から町へ歩き出す。

 親衛隊の契約金としてしっかりと潤った財布を懐にしまいながら、皆で必要な物を買いに行くことにしたのだ。


「アレンさんはよかったのですか? 僕達と一緒で」


 少女二人と共に買い物、というのは親しい仲でも立派な成人男性であるアレンさんには厳しいものがあるのではないか、そう歩みを進めるたびに今更ながら浮かんだ疑問をぶつける。


「まぁ、大丈夫だろう。荷物持ちとでも思ってくれ。それに世間話程度をする人間は少しずつできているが、二人のように慣れ親しんだ人間にはまだ及ばない。

ここでの生活に必要な物を買うというのだ。わざわざ同じ境遇のお前達を避けてそういった人々に声をかけるのも変だろう」


 リーン家に居る人々に、アレンさんと同年代の人々は少ない。

 身寄りが無い人間を率先して集めているのもあるが、平均寿命が少ないこの世界、争いがすぐ傍にある日常では齢を重ねる毎に死亡率が上がり、どうしても十代二十代の人間が多くなり、アレンさんのように三十台へ突入するとリーン家では居場所が少なくなっていく。

 無論事務仕事や、使用人としての居場所はあるのだが、兵士として最前線で戦い続けられる人は少なく、結果として未だ全然戦えるアレンさんと波長が合うような人間は少なくなるのだ。

 復讐を遂げ、組織から逃げ切り、ようやく貴族の庇護下で第二の人生を歩むことができたのだ。兵士としてあっさり死ぬかもしれないが、なんにせよ親しい人間関係を築き手に入れた日々を少しでも幸福に過ごしてほしいと、僕は過去を知る男性のこれからを思った。


「私はアレンさんと一緒に歩くの好きですよ? なんというか……お父さん? そんな感じがして安心します」


 ココロは父を失い母には捨てられた。

 アレンさんは妻と娘を失い、もし娘が無事だとしたらココロより幾分が上の年齢だっただろう。

 傍から見ればデリケートな会話の流れ。けれど僕達は止まらない。


「お父さんじゃないでしょ。色々教わっているんだし師匠が正しいんじゃない?」


「あぁ、そうですね。師匠、そっちの方が適切ですね」


「その師匠は荷物持ちのようなものだがな」


 アレンさんの言葉に僕達はクスクスと笑う。


「でも今日が終わればいつも通り……」


「普段から特別アレンさんを敬ってたりしてたっけ?」


 言葉の詰まったココロを僕は追い詰める。

 親しみを覚えている、間違いじゃない。尊敬している、間違いじゃない。

 ただ特別ヨイショしたり、何か物を教えてもらっている代わりに僕達が奉仕をした記憶は無い。

 そもそも師匠という認識から間違っている。

 アレンさんは手札を増やしたくて、手札である僕達は自分達の望みがあって。

 結果協力関係を築き、外面は奴隷と主人、あるいは師匠とその弟子。そういったフリをしているだけで。


「師匠ならばもう少し何か要求しても良いのかも知れないな」


 でも僕達はその間違いを話題に会話を進める。


「何かして欲しいことでもあるんですか?」


「ふむ……」


 ココロの言葉にアレンさんは少し悩む様子を見せた。

 あとで飛び出す言葉は冗談か、それとも本当に望んでいるものか。


「無いな。お前達が笑って過ごしてくれていれば。

或いは気が向いたら肩でも揉んでくれ」


「「はい」」


 胸に広がる幸福を確かに実感しながら、僕達はそう笑って見せたのだ。

 ここまで、これたのだ。アレンさんは安寧を、ココロは自由を、僕は新しい生きる意味を。





「ココロはさ、今みたいな結果に不満はないの?」


「……どういうことですか?」


 今アレンさんとは別行動中。

 家具などは三人で見て回り既に支払いを終えて館に発注中。今は生理的なもの……簡単に言ってしまえば性差、下着等は互いが居ても面倒なことが多いので一時的に分かれて行動している。


「いや、親衛隊、兵隊として働くって決めたみたいだけど、その場の空気とか流れだけで決めちゃったのかなぁと」


「私ってそんな流されやすような人間に見えますかね?」


 そう言いながら手に持ち眺めるのは和服。

 僕が知っているそれとはかなり着易い様に崩されているが、それでも日常で着る事を考えても洋服よりは遥かに不便だろう。

 刀といい感性、趣味は和風なものを求めているのだろうか。


「そうじゃないけど、私兵ってことは求められれば人を殺める必要もある。

アレンさんに早くお金を返せればいいわけだから、ココロ的にはもう少し平和な仕事を探してもよかったんじゃないかなって」


 ココロはアレンさんに借金がある。

 組織から奴隷であるココロを買い取ったお金を、返金不要だと宣言するアレンさんに対し借金をもぎ取ったのだ。

 人間って安い商品じゃない。それもあの施設は教育を施し、本来の奴隷よりも高値で取引していた。

 それを返すのだというのだから就く仕事はそれなりに見入りの良いものが望ましいが、何も獣すら傷つけることに負い目を感じる心優しい少女が、人と権力争いのために殺しあう必要があるような仕事を選ぶ必要はなかったのではないか。

 別に水商売をしろとは言っていない。頭は良いのだから国や金持ちの下で働ける事務処理でもいいし、せっかく学んだ戦う術を活かすと言うのなら何よりも国のためという正義を掲げられる騎士団、もしくは護衛や挑戦的な仕事を主にした冒険者、そういった道もあったのではないかと僕は言いたい。


「アメさんが思っているほど私は善い人間ではありませんよ」


 僕の瞳。その奥の奥を見て少女は微笑む。

 綺麗な桃色の瞳に、全体的に水色な僕がそのまま映って、紫色にでも変わればいいのに。なんとなくそう思った。


「どうしようもなく悪い人は更生する余地が無く殺めるしかないと思っていますし、私を雇ってくれているリーンという家が率先して悪いことこそしないものの、自由に振舞いそれを不快に思う人々が居て、自分達とは違う正義を持っている誰かを殺すことがあることも知っています。

けれど私はできるんです。報酬やアメさん、親衛隊の人々、大切なもののために私は、立場の違うだけの人間を傷つけることができる」


 僕の瞳にはまだ映っていた。

 誰もが幸福になれる道は無いのかと、傷つく必要は、傷つける必要はないのかと、そんな夢物語の理想を抱く少女はまだ映っていたのだ。

 まだその輝きを彼女は捨てておらず、また理想を探す最中に傷つく覚悟も決めている。

 ならば僕が言うことはもう何もない。手の届かない場所に居る月光のように輝くココロが、僕の助力を必要とせず輝き続けられることを知ったのならもう何も言う必要はない。


「もしそれ買うのなら店員か、それか他の人に詳しく聞いたほうがいいよ。その種類の服は着方から洗い方、あと下着も注意しないと困ることが多いと思うから」


「そうします」





「アメ、以前告げられなかったことを告げようと思う」


 空がオレンジ色に染まり、帰宅した屋敷を彩る中でアレンさんは僕を見てそう言った。

 少し日常では見せない雰囲気にココロは何かを悟り、アレンさんに持ってもらっていた荷物を無言で受け取りこの場から去る。


「なんの話でしょうか?」


「ここに来てから、これからとこれまでについて話したことがあっただろう?」


「最後に、言いかけたことですよね」


 今なら言えるかもしれない、けれど今はいいか。

 そう中断された言葉の先。今それを再び、アレンさんが告げるべきだと悟ったのだろう。


「私はアメの、友人には成れないのだろうか」


「……?」


「お前が皆に丁寧な言葉で接しているのはわかっている。本当に一部の限られた人間のみ、砕けた口調で話しかけているのもわかっている」


 ヒカリ、ココロ、シュバルツ。

 片手の指も満たない。


「何もその中に入りたいなどという傲慢を望むつもりは毛頭もない。けれど丁寧な言葉で接しながらも、親しみを覚えられているはずなのに私には、目に見えないどこかで一線を引かれている気がしてならないのだ」


「――っ」


 心臓を掴まれたような衝撃。

 あるいは、今まで彼と共に歩んできた日々を全身に喩え、体中余すことなく自責という刃を突き立てられるような感覚。

 僕が砕けた口調で接してきた人々は、全てを曝け出しても公私共に問題が発生しないと判断した相手……言い換えれば、人間関係で絶対的優位性を保ち続けられると判断した相手にだけ、僕は丁寧な言葉を止めていた。

 次に丁寧な言葉ながらも親しく接している人々。親しき中にも礼儀を重んじる必要が残っており、不快に思われる行動を取った場合嫌われる可能性が残っている真っ当な関係の人々。

 ヒカリは僕を嫌うことがないし、僕もヒカリを嫌うことはない。だから口調なんていう予防線を張る必要もない。

 シュバルツはヒカリに従順で、何かあった際には最悪ヒカリの命令一つで僕への嫌悪を隠すだろう。もっとも波長が合うのか、表面上煽りあっても仲良くできていてそんな必要性が見えないのだが。

 最後にココロ。彼女は僕に絶対的な信頼を置いている。奴隷という立場から救ってくれた事実に対しての隷属、あるいは何か勘違いしているのか崇拝にも似た感情。あとは何をしても彼女なら許してくれる、そんな慈愛を幾度と無く見せ付けられた存在に僕は甘えている。


 砕けた口調で接する人間、丁寧な口調ながらも親しく接する人間。この二種類の親しい人間に分類されない存在が一人だけいる。

 アレンさんだ。

 僕が唯一、内心でも敬称を付けて呼び続けているその人。たとえ口では敬称を言いながらも、内心は呼び捨てにして処理をしている他の人々とは違う。

 失敗した僕とは違い復讐遂げ、能力を見出してくれ再び生きる意味を与えてくれた、絶望の淵から救い出してくれた存在。

 能力人格共に優秀で、誰よりも子供達を愛しているにも関わらず、誰よりも厳しく接する自身を責め続け生きてきた人間を僕は知っている。

 ――知って、今まで接してきて、尊敬し続け、今、その当人は孤独を覚えている。

 ずっと、ずっと言ってくれていた。奴隷と所有者じゃない、弟子と、その師匠じゃない。

 言っていたじゃないか。協力者だって、対等な相棒だって。

 組織から抜け出し、体裁を気にすることのない、言い訳に使えなくなった今ようやく再び彼は問いかけたのだ。その一線を、自分が超えることは無理なのだろうか、と。


「今まですみませんでした」


「……」


 素直に頭を下げた。


「僕が掲げていた身勝手な物。それに振り回されてあなたの本当の大切なもの、そして、僕自身の本当に大切なもの。ずっと、見失っていたようです」


「そうか」


 手が、差し出される。


「これからも、よろしくお願いしますアレンさん(・・)


 手を取り、名前を呼ぶ。


「あぁ」


 僕の言葉に酷く安心したようアレン(・・・)は一つ頷いた。

 組織から逃げ出す。その協力関係が解消されて初めて、僕とアレンは対等な立場になれたのだと思う。

 遅すぎたかもしれない。けれど、きっとこれからも長いだろうから、今こうして手を握れていることはそう悪いものじゃない。僕は思ったのだ。



- 新入り三人組の今とこれから 終わり -

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