1.最期
死というものは理不尽だ。
ああしなさい、こうしなさい、そういった大人達の言葉の意味がようやく真に理解できるようになって、苦しかった就活も終わり、これから親や社会に貢献していくんだ、そう思ったときに死はやってきた。
俺だけなら、せめて俺だけならよかった。でも死は家族も巻き込んだ。今まで守ってくれた両親、これから守ろうとした俺の意思、なにもかもを殺した。
死は理不尽だ。そして無感情に、残酷でもある。
- 最期 始まり -
燃えている。
俺の家が、家具が、家族が。
少し前までは動いていた家族の体。
苦痛にうめく声、体が、皮膚が肉が全てが燃える臭い。僅かに視界にうつる体は、見慣れたはずなのに俺にはもうどこがどこなのかわからなくて。
体とか、服とか、床とか、炎とか、何もかも溶けて混ざってしまったのかなとか、ぼんやり考えていた。
燃えている。
俺自身も。
痛くて苦しくて、助けを求めたり、痛みを叫んだり、あるいは今に終わりそうになっているクソッタレな人生の理不尽さを訴えようとして、そこでようやく口から何も発せられていないことに気づく。
あぁそうか、喉は既に焼け爛れていて、もしくは、痛くて苦しい場所、たとえば指先だとか、ふとももだとか、心臓、だとか、そういった部分と溶けて混ざってしまったのかなと、そう考えた。
いや違う、痛くて苦しいのはもともと喉だったっけ?
そうだ、そうに違いない、"喉"が痛くて"心臓"がそれを指摘するため声を発しようとしていたのだ。
燃えている。
俺の命が燃えている。
まるで蝋燭のように、油でコーティングされた体が、芯を――髪の毛から燃やして、燃えているのだ。
こいつの命はあとこれだけですと、蝋燭を中心にふざけた奴らが手を取り合って踊りあい、今か今かと燃え尽きるのを待っているんだな。
燃えていた。
そう、もう燃え尽きようとしている。
俺の体が、心が、存在が、今に燃え尽きようとしているのがわかった。
急に、焦る。もう全てが終わろうとしているのだと、それなのに俺はなんてくだらない思考をしていたのだと、自覚して、焦る。
死ぬ寸前に人は何をするべきなのだろう?
遺したモノへの想いを重ねる?ふざけた運命への呪詛を語る?生まれ変わったらどうありたいか神に告げる?
そうだな、最後がいい、そうしよう。
生まれ変わったら、もう一度燃え尽きて死んでしまえ。
- 最期 終わり -