第3話【歯の痛み】
中学時代に突入する前に、壮一が体験したエピソードをもうひとつ書いておこうと思う。
それは小学4、5年の頃のことだった。壮一が家中を狭しとのたうちまわったことがある。理由は尋常でないほどの歯の痛みだった。
壮一は口の中に絶え間なく襲いかかってくる強烈な激痛に泣き叫び、母が信仰する宗教の仏壇がある6畳間で倒れながら暴れまくった。
「うぅぅぅあぁぁぁ!歯が痛い!歯が痛いぃぃぃぃぃ!」
ちなみにこのとき、母の宗教友達数人と、その子供と思われる小学1年くらいのあどけない少年も幸田家にきていた。そんな中、文恵は痛み止めの薬を渡すでも、救急車を呼ぶでも、さっさと歯医者に連れていくでもなく、仏壇に手を合わせて祈ることを強要し続けた。
「ほら!壮一!仏壇に向かって祈りなさい!信じて祈れば歯の痛みなんか消えてなくなるから!」
しかし、そんなことで歯の激痛がおさまらないことくらい小学生の壮一でもわかっている。壮一は仏壇に祈ることを強要する母を暴れて拒否し続けた。
そんな壮一を不思議そうな瞳で見つめる小学1年くらいの少年。壮一は歯は痛いは恥ずかしいやらで発狂しそうになってしまった。
結局このあとどうなったのか、壮一はそこまで記憶はしていない。おそらく歯医者にもどこにも連れて行ってもらえず、自然と痛みがおさまるのを待ったと思われる。しかし、多くの人の前で次々と恥をかかせ続ける文恵に対する疑心は徐々に強まっていった。




