トウキョウの二日目
トウキョウダンジョンを始めて二日目。
僕はスライムと戦う事にも飽きて、攻略情報が載っているサイトを見ている。
昨日はウイングブレイド以外の武器を買うことができなかった。
それには理由があるらしい。
何種類かの特殊な武器は、変更をするだけで五百円を支払わないといけないみたいだ。
ウイングブレイドも、その特殊な武器の一つらしい。
普通の剣や杖を武器にしている人は、無料で他の武器に変更できる。
そして五百円は初心者にとって大金、どのRPGでも変わらない事実だった。
それでも有益な情報が一つ。
サブウェポンと呼ばれる武器は、特殊な武器と一緒に装備しても、変更料金が必要ないらしい。
さっそく買いに行こう、どんな武器でも今の武器よりは……。
僕は本体の電源を入れた。
目の前にじわりとトウキョウの町並みが広がる。灰色の雰囲気が空まで達して、仮想空間の風景が完成した。
スタート地点の近くなら、サブウェポンを販売する店もあるはず。
人混みの中を少し歩くと、武器屋の看板が見えた。
サブウェポンは売ってあるかな? 武器屋に近づいて、店頭に並んだ武器を見ていく。
あった。
投げナイフに、拳銃、導火線のついた爆弾もある。
うーん。悩むけれど、拳銃かな。
店頭には見本がいつくか並んでいて、盗まれないために紐が付いていた。
拳銃の見本を持ち上げてみる。軽い、一キロも無い。
現実には、プラスチックで作った拳銃がある。たぶんそれを真似したのかな?
拳銃をじっくり眺めていたら、武器屋の店員が面白そうに僕を見てくる。銃に興味があるだけでも、そんなに珍しいのかな。
これ以上のチェックは買ってからにしよう。
「すみません、これください」
見本と同じタイプを探して、カウンターに置く。
拳銃に付いた値札を見て、お金を払う。ちょうど百円。
「そのままで宜しいですか?」
店員の質問に頷き、値札の紐を切って貰い、拳銃を受け取る。
さて。新しく買ったこの武器を、ダンジョンで試そう。
トウキョウタワーの下まで歩いて、扉をあけて一階に到着。
草原の中に点々と初心者がいて、どこを見ても誰かがスライムと戦っている。
スライムはもういいや。
草原を、真っ直ぐに歩いて抜ける。
抜けた先には町。
AI(人工知能)で動くキャラクターが大部分を占める、"最初の町"だ。
木の家、レンガの壁、土壁。
トウキョウの町が灰色というのなら、この町は茶色だ。
さて、町の中心には階段が設置されている。
よくあるタイプの、次のエリアに向かう階段だ。これを登るとトウキョウタワーの二階にたどり着く。
ゆっくり上がっていこう。
昨日はためしに二階に行ったけれど、オオカミに襲われて何度か倒された。
今回は拳銃を持っているからね、銃は剣より強い。
ウイングブレイドだと冗談にもならない、普通に斬ったら二ダメージだから。
階段の上に来た、オオカミの遠吠えが聞こえる。
今日も階段の先に集まっているみたいだ、拳銃を手に持って動きを確かめる。
深呼吸。思い切って駆け上がる。
まず見えたオオカミは三匹、他の人間は二人。
それを確認して、右手で銃を構える。前に出した左腕を台にして、安定させる形。
側面を見せたオオカミ、面積の一番大きい相手、体への直撃を狙う。
確実に仕留めたいから、何発も撃ちこむ。
ダメージ表示は二、予想通りの強さ。
昔やったゲームを思い出すなぁ。
僕が狙ったオオカミは大きくよろめいて、地面に倒れる。
ウイングブレイドの柄をつかむ。
「どいて!」
思い切って、前の人に警告。全力で振っても当たらないけれど、逃げてくれると振り幅が広がって、制御が楽。
柄のスイッチを押すと、ウイングブレイドから風が噴き出す。
大上段に振りかぶって、二匹目のオオカミに振り下ろす。
剣の残像鮮やかに、二匹目も倒れた。
三匹目が跳びかかってくる、刃を地面と平行にして、剣を突き出す。
鉄と獣の牙が奏でる嫌な音、それを振り払う様にスイッチを押す。
凄まじい風圧、ぎゃんと鳴いて離れたオオカミの、その目に映ったのは銀色の刃。
振り抜く、このごつんとした独特の手ごたえは、倒せたかな。
そして、まわりを警戒する。
あ、まずいかも。
オオカミはさっきの遠吠えで仲間を呼び寄せていた。十匹前後の群れがこっちに向かって来る。
相手の走る速度はバイクや車並みだから。
次の瞬間、目の前にオオカミの顔があった。
その後しばらく戦って、倒されかけて。最後は重傷を負った。
駆けつけたほかの人に回復薬を飲ませて貰って、幸運にも九死に一生を得る。
トウキョウの二日目は、ボロボロのまま終わった。