逢魔の縁
土地をめぐる悪党どもの諍いは、互いの助っ人を合力して討ち斃し、ともに名を上げるということで、いつのまにやら折り合いがついていたらしい。
しかし惜しむらくは、助っ人同士殺し合わせておいてから残ったほうを袋叩きにするという戦法があったにもかかわらず、はじめから手の内をさらして両者健在のうちに周りを囲んだことだろう。結局のところ、和解したに見えた悪党どもにも、互いに出し抜きたいという気持ちが残っていたのだ。
西の空を燃やすのは、一刀のもとに斬り伏せられ、あるいは手足に首、胴を断たれて打ち伏した屍の山の憎悪か。怨念か。
あるいは荒れ野に川なす悪党どもの血が、全天をこれほど赤く染めたのか。
盲目の渡会にはあずかり知らぬところだ。
「ずいぶんと、まあ……面倒なことに首ぃ突っ込んじまったぜ」
頭目もとんだしくじりだ、渡会は口の中に溜まった血といっしょに砕けた歯をべっと吐き出し、仕込み刀を握る手の具合に嘆息する。
「指が潰れちまった」
「そのくらいいいじゃないさ」
裂いた袖の端で右の二の腕の半ばあたりをきつく縛り、誰のものとも知れない太刀を転がる骸から引き抜きながら、紅葉が言った。
「まだ手も腕もついてンだからねェ。贅沢ってもんだよ」
そうして事もなげに、折れて千切れかかっている腕を自ら斬り落とす。血脂でしとどに濡れた白い面は、にんまりと笑みを含んだまま眉も動かさなかった。
左の細腕一本で、紅葉はごうと太刀を振り、露を払う。
「大丈夫かい、紅葉よ」
「片手じゃやっぱり重いねェ」
不服げな妹の声に、渡会は喉を詰めて小さく笑った。握る力の弱くなった右手は、柄を持ったまま布で縛られていた。
「こっちも居合いができねェからなあ、おあいこだ」
「それじゃあ、ま、仕方ないね」
「これで――」
「仕切り直しといこうかい」
渡会はもう一度血唾を吐くと、干乾びたまま血に塗れる目玉で紅葉を見据えた。
互いに、敵同士の助っ人として、殺し合いの場で再会した妹を。いつまでも幼いままに、眼裏に住み続けてきた妹を。
探し求めた絶好の敵手を迎えるように。
「ガキのおめェを攫われて、賊徒なんざにしちまったのァ俺の不始末だ――俺がおめェに成り代わり、買いも買ったる恨みの数々、しめて千余のそのツケを、今日こそ払わせてやろうぜ。紅葉」
「兄さんは真面目だねェ。世の中にゃ、そんなあんたに恨みがあるって奴もいるのさ。どんな気狂いだって親兄弟に変わりはないからね、育ての親の姉さんを殺された、その恨みを晴らしたい、仇をとりたいなんて、健気じゃないか。どうだえ、兄さん」
紅葉の遠く背後、荒れ野の向こうに小さく佇む子どもの影は、もちろん渡会の目に見えず、紅葉もまた顧みることはない。
ただ、その腕から伸びる切っ先を、渡会に向けて言い放つ。
「あんたに私怨はないけどね、おとなしく、死んでくれると嬉しいよ」
「恨みがありゃァ買うのが俺よ。――ただし、おめェがツケを払ってからだ」
空を焼き、したたる夕映えの、屍山血河のただなかで。
鬼女と羅刹は笑み交わす。
斜陽に閃く、その刃のごとく――。




