5. 親友と寄り道してたら、先輩にばったり会いました
「帰るか」
「うん」
放課後のチャイムが鳴り終わると同時に、私は立ち上がった。
隣で朝比奈唯斗も席を引く。
特に約束もない、いつも通りの帰り道。
……のはずだった。
「コンビニ寄る」
「なんで決定事項なんだよ」
「いいから来なよ」
「拒否権は」
「ない」
「あるだろ普通」
「ない」
即答だった。
ほんと、このやり取り何回目だ。
「……しゃーねぇな」
「最初からそう言えばいいのに」
「言ってねぇ」
軽く笑いながら、私はそのまま歩き出す。
後ろから足音がついてくるのを確認して、少しだけ口元が緩んだ。
◇
「で、何買うんだよ」
「アイス」
「ガキか」
「うるさい」
コンビニに入ると、冷たい空気が一気に肌に触れる。
外はもう普通に夏だ。
「どれにしよ……」
ケースを覗き込む。
「あー、これいいな」
「早くしろ」
「急かすな」
「溶けるだろ」
「まだ買ってない」
結局、私はアイスを二本持ってレジへ向かった。
会計を済ませて外に出ると、じわっとした熱気が戻ってくる。
「ほら」
一本を軽く放る。
「……なんで二本」
「私が一人で二本食べると思った?」
「思った」
「ひどくない?」
「普段の行い」
「うるさい」
思わず笑う。
こういうの、悪くない。
「……ありがとな」
不意に言われた。
ほんとに、何でもないみたいに。
「……」
一瞬、動きが止まる。
「な、なに急に」
「いや普通だろ」
「普通じゃない」
「普通だろ」
「普通に言うな」
「めんどくせぇな」
なんでそんな平然としてるんだよ。
「……」
胸の奥が、少しだけざわつく。
「……お前さ」
「なんだよ」
少しだけ、間を置いて。
「……そういうとこ、ずるいんだよ」
「は?」
意味がわからないって顔すんな。
「……なんでもない!」
そっぽ向く。
やばい。
顔、熱い。
「お前、顔赤くないか」
「赤くない!!」
「声でかい」
「うるさい!!」
ほんと最悪だ。
◇
「次どこ行く」
「まだ寄るのかよ」
「本屋」
「なんでだよ」
「なんとなく」
「理由薄いな」
でも結局、歩き出す。
隣に並ぶ。
いつもと同じ距離。
のはずなのに。
「……」
なんか、変だ。
さっきから、少しだけ意識してる。
「どうした」
「なんでもない」
「絶対なんかあるだろ」
「ないって」
「嘘つけ」
「うるさいな!」
なんで気づくんだよ。
こいつ。
「……」
また黙る。
でも完全に無言ってわけでもない。
ちらっと見る。
目が合いそうになる。
逸らす。
……何やってんだ私。
「お前、さっきから何してんだ」
「してない」
「してるだろ」
「してない」
「嘘つけ」
「うるさい!」
ほんと調子狂う。
◇
「……あ」
前から人影が見える。
その瞬間。
足が止まった。
「……え」
そこにいたのは――
白瀬凛花先輩だった。
「……」
一瞬、視線が合う。
先輩も少しだけ目を見開いた。
「……こんにちは」
「……こんにちは」
普通の挨拶。
学校と同じ距離。
それなのに。
「……二人で?」
「うん」
私が答える。
「寄り道」
「そうなんだ」
それだけ。
それだけのはずなのに。
「……」
先輩の視線が、唯斗に向く。
すぐ逸らされる。
……なんだ今の。
「……」
そして、今度は私を見る。
「……仲いいんだね」
「まあね」
「……」
ほんの少しだけ、間。
「……そう」
すぐに、いつもの表情に戻る。
「じゃあ、邪魔しちゃ悪いし」
「別に邪魔じゃないけど」
「いいの」
少しだけ笑う。
「また学校で」
「……はい」
そのまま、先輩は通り過ぎていった。
◇
「……」
しばらく無言。
「……ねえ」
「なんだよ」
「さっきの、見た?」
「何を」
「いや……」
うまく言えない。
でも。
「なんか、変じゃなかった?」
「……」
少しだけ考える。
「気のせいじゃね?」
「……そうかな」
「そうだろ」
あっさりしてる。
でも。
「……」
なんか引っかかる。
「……まあいいか」
考えてもわからない。
「それより」
「なに」
「アイス溶けてる」
「あ」
完全に忘れてた。
「バカでしょ」
「お前もだろ」
「私はまだ大丈夫」
「俺は無理だ」
「知らない」
思わず笑う。
結局、こうなる。
「……」
さっきの違和感も、少しだけ薄れる。
でも。
完全には消えない。
「……めんどくさいな」
小さく呟いた。




