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偶然、女装した俺を“女の子”だと思い込んだ先輩に口説かれ溺愛されています!?  作者: 夜天 颯


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4/6

3.先輩は俺の前だと別人です(※女装してないとき)

「……で?」


「で、じゃねぇよ」


放課後の教室。


俺――朝比奈唯斗は、机に突っ伏しながら、目の前の親友を睨んでいた。


「なんで昨日あんなこと言いかけた」


「どのことだよ」


「“唯斗”って言いかけただろ!!」


「あー、あれか」


瀬神美央は、まったく悪びれもせず笑った。


「いや普通に反応見たかっただけ」


「殺すぞ」


「怖」


怖がってないだろ絶対。


「てかさ」


美央が椅子を引いて、俺の机に肘をつく。


距離、近い。


「お前さ、なんでまだ続けてんの」


「……」


言葉に詰まる。


それ、俺が一番聞きたい。


「もう振ったんだろ?」


「……ああ」


「じゃあ終わりじゃん」


「終わってないから困ってんだよ」


「だよなぁ」


ニヤニヤしてる。


こいつ絶対楽しんでる。


「“諦めなきゃいいよね?”だっけ?」


「……やめろ」


思い出させるな。


あの時の空気。


あの時の顔。


……やめろほんとに。


「で?」


「で、じゃねぇって」


「どうすんの」


「知らねぇよ」


「逃げんの?」


「逃げたい」


即答だった。


でも。


「……無理だろうな」


「だろうな」


はあ、と同時にため息。


完全に詰んでる。


「てかさ」


美央が、少しだけ真面目な顔になる。


珍しい。


「お前、どう思ってんの」


「何が」


「凛花先輩のこと」


「……」


やめろその質問。


一番困るやつだ。


「別に」


「嘘くせぇ」


「嘘じゃねぇよ」


「じゃあなんで顔赤いんだよ」


「赤くねぇ!!」


机叩いた。


うるせぇ。


「……わかりやす」


「うるせぇ」


顔に出てる自覚はある。


でも。


どうしようもないだろ。


あんな距離で、あんなこと言われて。


平常心でいられる方がおかしい。


「まあいいや」


美央が立ち上がる。


「とりあえず放課後だろ?」


「……ああ」


今日も会う約束がある。


“唯”として。


「頑張れよ、“唯”」


「その呼び方やめろ」


「バレねぇようにな」


「お前が一番危ないんだよ」


「失礼だな」


絶対わざとだろ。



「朝比奈」


「はい」


呼ばれて顔を上げる。


そこにいたのは――


白瀬凛花先輩。


いつもの制服姿。


いつもの、少し冷たい表情。


「これ、職員室に運ぶの手伝って」


「わかりました」


普通だ。


完全に。


昨日のあの人と同一人物とは思えないくらい。


距離も、空気も、全部。


「……」


横を歩く。


無言。


会話もない。


これが“学校での凛花先輩”だ。


「……重くない?」


「大丈夫です」


「そう」


それだけ。


あっさりしてる。


あの“距離バグ先輩”はどこ行った。


「……」


チラッと見る。


表情は変わらない。


クールで、落ち着いてて。


……やっぱりかっこいいな、この人。


「なに?」


「いえ何も」


バレた。


見すぎたか。


「……変なやつ」


「すみません」


いや今の俺が一番変だろ。


内心めちゃくちゃ焦ってる。


「……朝比奈」


「はい」


名前を呼ばれる。


少しだけ、声が柔らかい。


気のせいか?


「今日、部活ないの?」


「ないですけど」


「そっか」


それだけ。


それ以上は何も聞いてこない。


当然だ。


だってこの人は、“俺”に興味なんてない。


……はずなのに。


「……」


ほんの一瞬だけ。


視線が、少しだけ長く止まった気がした。


「……?」


気のせい、か。


「行くよ」


「はい」


先輩が前を向く。


その背中を見ながら。


俺は、わけのわからない違和感を感じていた。



「凛花先輩」


「美央」


廊下の角。


美央が軽く手を上げる。


「久しぶりっすね」


「そうだね」


会話は自然だ。


普通に仲がいい。


この二人。


「今日ヒマ?」


「用事ある」


即答だった。


「そっすか」


「なに?」


「いや、ちょっと遊びでも誘おうかと」


「また今度」


「了解っす」


あっさり終わる。


ドライだな。


……でも。


「……」


美央が、俺を見る。


ニヤッと笑う。


やめろその顔。


絶対なんか企んでる。


「……じゃあな」


「はい」


去っていく。


その背中を見送って。


「……」


美央がボソッと呟いた。


「……あいつ、わかりやすいな」


「何が」


「お前のこと」


「は?」


意味がわからない。


「別に普通だろ」


「どこがだよ」


「どこって……」


普通にクールな先輩だろ。


さっきだって。


「……ああ、なるほど」


美央が笑う。


「お前、“そっち”しか見てねぇのか」


「は?」


「まあいいや」


話を切られる。


なんなんだよ。


「とりあえずさ」


美央が少しだけ近づいてくる。


「今日も“会う”んだろ?」


「……ああ」


「気をつけろよ」


「何を」


「バレるぞ」


「……」


それが一番怖いんだよ。


「あと」


少しだけ、真面目な顔。


「……あいつ、マジだぞ」


「……知ってる」


昨日、あれだけ見せられた。


知らないわけがない。


「だからこそだよ」


「……?」


「お前が一番ヤバいの」


「……意味わかんねぇ」


「だろうな」


軽く笑う。


「まあいいや」


背を向ける。


「楽しめよ、“二重生活”」


「楽しめるか」


「どうだか」


手をひらひら振って去っていく。


残された俺は。


「……」


ため息をついた。



「唯」


「……っ」


心臓が跳ねる。


振り向く。


そこにいるのは。


昼間とは全然違う顔の、凛花先輩。


「来てくれたんだ」


「……はい」


距離、近い。


近すぎる。


なんでだよ。


昼間と別人か?


「会いたかった」


「……」


その一言で。


全部、持っていかれる。


「今日、少しだけ時間ある?」


「……あります」


断れるわけがない。


こんな顔で言われて。


「よかった」


柔らかく笑う。


さっきまでの“先輩”じゃない。


完全に別人。


「ねえ唯」


「はい」


「手、いい?」


「よくないです」


即答した。


「そっか」


しょんぼりするな。


ほんとやめろ。


「……じゃあ、隣にいるだけでいい」


「それはもうしてます」


「うん」


「うんじゃないです」


会話が同じだ。


昨日と。


でも。


「……」


嫌じゃない。


むしろ。


少しだけ、安心する。


「唯」


「はい」


「今日も、可愛いね」


「……」


思考停止。


無理だろ。


それは。


反則だ。


「……っ」


顔が熱い。


やめろほんとに。


「どうしたの?」


「なんでもないです!!」


誤魔化す。


必死で。


でも。


「……」


この人の前だと。


全部、崩れそうになる。


――そして。


俺はまだ気づいていない。


この“二つの顔”の間で。


俺の気持ちが、少しずつ揺れ始めていることに。

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