1. 女装したらイケメン女子に一目惚れされました
――どうして俺は、スカートなんて履いているんだろう。
しかも目の前には、学校一のイケメン女子先輩がいて。
「……綺麗な子」
……終わった。
心の中でそう呟いた瞬間、俺の人生は確実におかしな方向へと舵を切った。
◇
「なあ唯斗」
「やだ」
「まだ何も言ってねぇだろ」
「お前が話しかけてきた時点で嫌な予感しかしねぇ」
昼休み、教室の端。
俺――朝比奈唯斗は、親友でありトラブル製造機である瀬神美央の声を聞いた瞬間、即座に拒否した。
こいつが何か企んでいる時、ろくなことがない。
これは経験則だ。
「合同文化祭、あるだろ」
「知らん。帰る」
「逃げんな」
立ち上がろうとした瞬間、肩を掴まれる。
力強すぎるだろこいつ。
女子だよな?
「メンバー一人飛んだ」
「へぇ」
「代わりが必要だ」
「頑張れ」
「お前がやれ」
「は?」
意味がわからない。
「いや、なんで俺」
「顔」
「は?」
「中性的でイケる」
「何が」
「女装」
「帰る」
即答だった。
全力で拒否する。
が。
「もう決まった」
「決まってねぇよ!!」
「衣装ある」
「聞けよ!!」
数十分後。
俺はなぜか女子更衣室の前に立っていた。
いやほんとに意味がわからない。
「ほら入れ」
「入るか!!」
「大丈夫だって、もう他のやついねぇから」
「そういう問題じゃねぇ!!」
最終的に押し込まれた。
抵抗?した。
したけど負けた。
こいつ普通に強いんだよ。
◇
「……は?」
鏡の前で、俺は固まった。
そこにいたのは。
どう見ても、“普通に可愛い女の子”だった。
「いや待て」
「完成じゃね?」
背後から満足げな声。
「完成じゃねぇよ!!」
「いや普通にいけるだろ」
「いけねぇよ!!」
いやほんと誰だこれ。
目元が少し柔らかく見えるのはメイクのせいか。
髪もウィッグで自然に整えられてる。
服も似合ってる。
……いや、似合ってるのが一番意味わからん。
「ほら、時間ねぇぞ。“唯”」
「その名前やめろ」
「他校設定なんだから名前くらい変えろよ」
「は?」
「朝比奈唯。ほら自然だろ」
「自然じゃねぇよ」
「大丈夫だって。誰も気づかねぇから」
いやその自信どこから来るんだ。
「ほら行くぞ」
「待てって!!」
引っ張られる。
抵抗する間もなく。
俺は――“朝比奈唯”として、合同文化祭の会場へと放り出された。
◇
人、多すぎだろ。
他校も混ざってるから余計にカオスだ。
制服もバラバラで、確かに“誰がどこの生徒か”なんてわからない。
……なるほど。
この状況なら、“他校の女子”として紛れ込める。
いや納得してる場合じゃない。
なんで俺こんなことしてんだよ。
「ほら笑え」
「無理だ」
「不自然すぎるだろ」
「元から無理なんだよ」
「ほら、あそこ案内頼むから行け」
「は!?一人で!?」
「大丈夫だって」
「絶対無理だろ!!」
押し出された。
一人で。
完全に一人で。
終わった。
どうする。
とりあえず歩くか。
不審者にならない程度に。
そう思って歩き出した、その時。
「……ねえ」
声をかけられた。
心臓が跳ねる。
やばい。
もうバレたか?
振り向く。
そこにいたのは――
黒髪ショートの、高身長の女子。
整いすぎた顔立ち。
まっすぐな視線。
そして。
どう見ても、“普通の女子じゃないオーラ”。
(あ、これやばい人だ)
直感が告げる。
逃げろ。
でも逃げられない。
足が止まる。
「その制服」
彼女が一歩、近づく。
「どこの学校?」
距離、近くないか?
いやそれより。
どう答える。
どこだよ俺の学校。
設定聞いてないぞ。
「えっと……」
終わった。
詰んだ。
そう思った、その時。
「……そっか」
なぜか納得された。
「珍しいよね。その制服」
「……あ、はい」
助かった……のか?
「名前、聞いてもいい?」
来た。
最大の山場。
名前。
本名は無理。
じゃあ。
「……唯、です」
ギリギリだった。
声、震えてないか今。
「唯」
彼女がその名前を繰り返す。
「いい名前だね」
いやそれ俺のじゃない。
いや俺だけど。
ややこしいなこれ。
「私は白瀬凛花」
やっぱり。
知ってる名前だった。
学校一有名な人。
イケメン女子。
女子にモテる先輩。
そして今――
その人が。
じっと俺を見ている。
「……綺麗な子」
「……は?」
思わず変な声が出た。
いや待て。
今なんて言った?
「似合ってる、その服」
「え、あ、ありがとうございます……?」
何この状況。
理解が追いつかない。
「ねえ唯」
「は、はい」
「少し、案内してくれない?」
「……え?」
距離、さらに近い。
なんでだよ。
初対面だよな俺たち。
いや初対面だ。
なのにこの距離感なに?
「だめ?」
少しだけ首を傾げる。
いやその仕草ずるくない?
断りづらいんだけど。
「……い、いいですけど」
言ってしまった。
終わった。
完全に終わった。
「ありがとう」
凛花先輩が、少しだけ笑う。
その笑顔が。
やたら、綺麗で。
「よろしくね、唯」
「……よろしく、お願いします」
――この時の俺は、まだ知らなかった。
この出会いが。
この“嘘”が。
俺の人生を、めちゃくちゃにすることを。
そして。
一ヶ月後に。
俺がこの人に、告白されることになるなんて。
想像もしていなかった。
読んでくださりありがとうございました




