月に足跡を残せば
前世の記憶を思い出してから4日後、正確にはわからないが、普段なら寝ている時間だ。息を深く吸う。
今の季節は春らしいが、夜は随分と冷え込み剥き出しの足に冷気がまとわりつく。よたよたと窓に近づいた。
音を立てないよう窓を開ければ綺麗な星空が広がっている。三日月が星の間で輝いていて泣きそうになった。宇宙が広がっている、そのことにこれ以上ない安心感を覚えた。
この星を出れば少しは変わるだろうか
豪奢な金髪に赤い瞳をした女の子が宇宙服を着てロケットに乗り込むシーンを想像してみる。
思いのほか愉快な光景にフッと笑いながら窓に乗り上げた。飛び降りる、ここから。
大丈夫、苦痛を感じる暇もないだろう。そう思うのに動けない。
怖いという感情を押さえつけ飛び降りようとした時、ビュウと強い風が部屋の中に吹き込んだ。不安定だった私の身体は簡単によろめき、一瞬の浮遊感に襲われる。ドンッと部屋の中に尻もちをついた。視線を上げた先には深い星の海が広がっている。
死にたくないな、漠然とそう思った。
この星から逃げたい、あの自由な星空に飛び出してみたい。それで・・・
目を開けると朝が来ていた。私は、ふかふかなベッドの中にいる。夢・・・だったのだろうか。それでも、あの星空は私の記憶に色濃く残っている。
宇宙に行けるとも思わない、それをした所でなにも変わらないことは分かっている。でも確かに、この星はあの宇宙の一部でしかない。
少しだけ、この世界が好きになった気がした。
前世の記憶が目覚めてから一週間
ようやく私はまともに歩けるようになり、元の生活にゆっくりと戻っている。
貴族のお嬢様は毎日忙しいものだと勝手に思い込んでいたのだが今現在私は暇である。正確に言えば文字の読み書き、社交界における簡単なマナーなどは習うのだが私はそれらをすでに修めていた
本格的な教育が始まるのは6歳の誕生日に『聖霊の儀』を終えてからとのこと
その前後に乳母は解雇され、新たに家庭教師が雇われる手筈だとか
そんなわけで特にやることのなかった私は自室で取り寄せた子供向けの歴史書と向き合っていた。
まずは、この国のことを知ってみよう。
ちなみ私の自室と寝室は分かれている。
驚いたことに私が目覚めた場所は私の寝室ではなかったらしい。なんでも窓が割れてしまい、その修繕と補強のためあと一週間は必要と言われてしまった。
さて、取り寄せた本は子供向けというには少し重い気がするが美しく繊細な絵で金髪の女性が表紙に描かれている。
メイドが表紙をめくると本の扉には見覚えのある紋章が描かれていた。セレスティーヌの顔が浮かぶようである
「ここからは私がめくるわ」とメイドに声をかけ、ページをめくる。
『600年前、まだ魔法が魔物のものであった頃、聖霊の加護を得て魔法を使う者達がいた。
彼らは火、水、風、土に宿る力を使い人々に繁栄をもたらしていました、加護を得られなかった者たちから魔物として疎まれ、太陽の光が届かない荒野へと追いやられてしまいまう。』
『彼らが力尽きようとした時、一人の少女が立ち上がった。名をウェネラ。彼女は聖霊に対し、深い愛情と信仰を持つ美しい少女だった。
ウェネラは、枯れ果てた大地の中心に立ち、天を仰いで祈る。』
人々の前で祈りを捧げる金髪の少女が描かれている
『その途端、暗い空に太陽のような金色の光が降り注いだ。
光が降り注いだ場所から、次々と奇跡が起こる。』
『枯れ木には瑞々しい葉が茂り、大地から花々が芽吹いた。光を浴びた者たちの傷はたちどころに塞がり、つい先ほど息絶えた者たちまでもが、まるで深い眠りから覚めたように目を開けた。光の届くところは魔物が入ることのできない結界となった。』
『それから奇跡を目の当たりにした人々はこの地を「ヴィリディヴィナ」と名付け、ウェネラを最初の女王として仰いだのである』
へぇ・・・と思わず呟いた
というのもこの文章、ゲームの冒頭で流れるナレーションとほぼ同じ内容だ。美麗な絵にも見覚えがある。
この先の内容は私も知らないもの
少し期待して読み進めようとした時、ガチャンという音と共に本が濡れる。
紙が一気に歪み、インクが滲んだ。
横を見ればティーカップが横に倒れ、少し視線を上げると青い顔をしたメイドがいる
「も、申し訳あ」
私の顔を見た女がヒュッと息を呑む
女から視線を外し、少し離れた場所で固まっているメイド達に目を向けた
慌てた様子で本とティーカップが片付けられる
「ルヴィニア様、そのお召し物は「黙りなさい」
メイドを黙らせにっこりと女に笑いかける
「お前、どこに紹介されて私の使用人になったのかしら」
「シュヴィツィア子爵からの紹介です」
「セレスティーヌ様との縁で私の使用人になれたのか聞いてるのよ」
女の顔が青ざめる
私が気付いていないと思っていたのだろうか
とゆうか私の使用人は乳母を含めほとんどあの女の息がかかっている
「あわよくば」私が不快になって欲しいし死んで欲しいと思っているに違いない
ほぼ確実に本の請求をされる上、小言をそれはもうたくさん言われるだろう
使用人の失態は主人の失態である
多少この女には理不尽な目にあってもらわなくては私の気が済まない
「ああ、ごめんなさい。もしかしてお母様からの紹介だったのかしら?残念だけれど今後こんなことを許されてはあなたも困るだろうしお母様の元で一度教育し直してもらった方がいいと思うの。私の使用人は随分と仲が良くなっているようだから私のもとを離れるのが寂しいのなら一人だけ連れて行くのを許すわ」
ほら、あれはどう?と適当に指を刺しながら女を見上げる。無理のある畳み掛けをした自覚はあるが、助けを求めるように女が視線を私の指先へ向けた
「クラリス、早速この無能をそこの女と一緒にお母様への紹介状を作ってちょうだい。それが終わったらセレスティーヌ様に謝罪の書面を書いて。請求額を尋ねるのも忘れずに」
「ルヴィニア様?!」
乳母が慌てたように声を上げるがそれを黙殺する
主人の命令は絶対でしょう、というように微笑みかければすぐに折れたようだ
女の方を見ると青い顔で立ち尽くしている
まあセレスティーヌにとってもコレは捨て駒だろう
とゆうか流石に故意じゃなきゃ無能で片付けられる失敗ではない。絶対どこかで死んでいる
とはいえあの本の続きを見れなかったのは残念だ。ゲーム内に登場した情報で補完できないことはないが。流石に3代目の聖女が魔王を封印したこと、120年前の内乱で王家が一度途絶えたこと以上に重要な過去の出来事はないだろう
あとは・・・第一王子がセレスティーヌの不倫により出来た子供であることぐらいだろうか
うん、割と知ってはいけないことまで知っている気がする
基盤となる知識が全てゲームの記憶から引き出されてるせいだろうか、すっかり乙女ゲームの世界であることを前提に考えている自分に驚く。
ふと窓の外を見れば日差しが降り注いでいた。
うん、少なくとも太陽は作り物なんかじゃない。
ドレスを着替えなければ
次の日、メイドは何故か一人増えていた
多分一生言及しなさそうなので
Q聖霊とは
他国では「精霊」として普通に魔物認定されている。魔力で身体を構成する生命体
火、水、土、風の四種類が存在しこれらと似たような姿を取り擬態する
魔力を食べる習性を持ち人間の魔力もストライクゾーン
知能が高く出会うと個体によっては魔力を死なない程度に吸われて一生飼い殺しにされる
加護?んなもんねぇよbyエセルガード帝国
Q魔物とは
害獣、害虫全般
魔法使えるとか使えないとか関係ない
とりあえず危険だったら魔物
最近、感染症を魔物認定するかで審議中
寄生虫は魔物認定済み
これらを駆除する組織が大陸全体で存在
Q暦の数え方
光 火 風 土 水 闇
の六日が一週間
1月から12月まで
全部で一ヶ月30日
太陽暦でズレは全くない
ゲームの中の世界だからね
ウェネラの誕生日がほぼクリスマス(11月26日)
建国日1月1日
魔王の封印日がほぼハロウィン(9月18日)
ゲーム内イベントもバッチリ実装
春が1月から3月 夏が4月から6月 秋が7月から9月 冬が10月から12月
Q時間の数え方
1時から12時まで
1時間ごとに各領地の神殿から鐘が鳴るよ
実はどの領地も全く同じタイミングで鐘を鳴らしている
ゲームの中の世界だからね
Q前世の女の子
名前は柊 優希花
小学三年生の時に学校を親の都合で転校
小学校デビューに失敗し、無視されるわけではないが話しかけれるわけでもないぼっち生活を送る
中学校デビューにも失敗しぼっち続行
さらに違うクラスの同じ小学校だった女子から陰口を言われているところを目撃したのがきっかけとなり中学一年の2学期から不登校に
不登校中、乙女ゲームを始めとした女性向けコンテンツにどハマりし、立派なオタクとなる
初めて行った2.5次元ライブでファンサをもらったことを糧に3年生から復帰し猛勉強して高校に合格した
その後大学を出て就職
インフルエンザで幻覚を見るタイプの子供だった
なんかあったらもっと補完したい




