私は誰?
私は・・・
そうだ、ライブの予約をしなくちゃいけないんだった
家に帰ったらまずは公式情報の確認
ネット予約は回線の略奪戦争だから家の1番いいpcで事前に待機しておかないと
チケット売り切れる前に予約に成功したらしたら冷蔵庫にある水菜と豚肉をポン酢と味の素でいい感じに焼いてご飯とお酒でちょっとしたパーティーだ
楽しみだなぁ
………
これは私の夢・・・なのだろうか
夢にしてはあまりに現実的で現実にしてはあまりに突飛過ぎる
待って、突飛という言葉はどこで学んだ?
私はどうしてこの夢を理解できている?
今の私は・・・いや違う私の名はルヴィニア。
ルヴィニア・エセルガルディア・アウグスタ・ヴィリディヴィナだ。ヴィリディヴィナ王国の正当な王女でありエセルガード帝国の皇族の血を引く現王族の中でも最も高貴な存在。
断じてこんな食事の用意さえ自分でするような貧しい平民なんかじゃない。
そうよこれは何かの悪い夢。決して「前世の記憶」なんかじゃ・・・
違うこれは私の記憶じゃない!!
不快だ
この得体の知れない女が私の人生を塗り潰そうとしているようにすら感じられる
無意識のうちに私の知らない言葉を私が理解してしまっている感覚が気持ち悪い
早く忘れてしまえばいい
私の名はルヴィニア・エセルガルディア・アウグスタ・ヴィリディヴィナ
意思を持った1人の人間だ
そう人間
違和感を感じずにはいられないルヴィニアという名前
いや、あの女の記憶のせいで自分の境界が曖昧になってしまってるだけ
すぐに治る
いや、これは違和感なのだろうか
私の感じたことない感情
私の記憶はこれを懐かしく、そして面倒に思っている
・・・どうして?
思い出したかのように頭痛がやってくる
私はルヴィニア・エセルガルディア・アウグスタ・ヴィリディヴィナ。聞き慣れた名前だ。
当たり前でしょう、私の名前なのだから
聞き慣れてるのは何故?
これは、私の名前で・・・私が親の名前より聞いた名前だからだ
………
私が女性向けのゲームに手を出したきっかけ・・・それが「ヴィリディヴィナ:古き血脈の天光」という乙女ゲーム
家から出られなかった中学生の私をどうにか引き上げてくれた私の青春
攻略対象は4人
第一王子
レオンハルト・アウルス・ヴィリディヴィナ
第二王子
フェリックス・アウルス・ヴィリディヴィナ
公爵家の子息
ギルベルト・アルビヌス
枢機卿の子息
ドミニク・サクリウス
そしてヒロインでありのちに聖女として讃えられる存在・・・フィオーレ
本名フィオーレ・アウロランス・ヴィリディヴィナ
そんな彼女に噛ませ犬として立ち塞がる悪役令嬢
ルヴィニア・エセルガルディア・アウグスタ・ヴィリディヴィナ
ルヴィニアを傀儡として権力を握った女公爵にして吸血鬼
カミラ・ノクトゥルナ
カミラを含む数多の魔物を従え、攻略対象を乗っ取り、ヒロインの最後の敵として立ち塞がる魔王
ヴァルガス・エクセリオン
彼らのと物語のおかげで私は自己肯定感を持つことができ・・・
嘘だ!
私こんな安っぽいストーリーの舞台装置なんかじゃない!
こんな・・・こんな!
私の生きている世界を否定するような記憶が本物なわけない!
私の記憶と私の記憶が重なる
ゲーム内に出てくる地図、神話、城の大ホールの内装
細部に絵と現実の差はあれど笑えるほどに一致している
でも!そこに生きる人たちは人間だ
顔もよく覚えていないが城にはメイドは沢山いたはず、だ
彼らは一人一人馬車馬のように働いている
ゲーム内で顔も名前も出てきていないお父様だってちゃんと覚えて・・・い・・・
消えてる・・・?
確かに私の記憶を構成していたはずの一部
当たり前に目撃していた他人の日常
それらが急速に薄れていく
「思い出」として色濃く残っているのはあの女の記憶ばかりで
『お母さん!』合格者の番号が書かれた掲示板を背に泣きながら嬉しそうに「お母さん」を抱きしめた
『所詮私と顔が似ただけの他人。お前に居場所などない』笑顔でその言葉を初めて受け止められた
初めてのライブ。熱気に包まれたステージ上で踊る男性キャラを私はペンライトと振って応援している
その横で「お父さん」は困ったような笑みを浮かべながらにうちわを掲げていた
散らばるカトラリー、割れる皿、倒れ込む父と母
むせかえるような血の匂い
いつも欲に濡れていたお父様の目は人形のようになっていた
私の生きていたはずの世界がだんだんと薄く、ゲームという薄っぺらな箱庭になっていく
わたしって誰?
私という人格が私に塗り替えられていく
お母様に愛されたい 私を見て欲しいの
でも・・・それが「悪役令嬢ルヴィニア」の願いだったら?
私の考えてることは全てゲームの私と一緒?
私の記憶をわたしなんかで汚されたくない
私のような舞台装置の望みなんてないも同然でしょう
わたしに綺麗なドレスも、豪華なアクセサリーも、広いお城も似合わない
でも私が一番欲しいものを持っている
私はきっとこの世界をわたしのように楽しめないし、愛せない
でも貴方の方がずっと人に寄り添える
………
ふと目を開けると知らない天蓋だった
夕日が窓を通り床に影を作っている
これも、作りものなのね ぼんやりとそこを見つめる
メイドたちが忙しなく動いていた
「ルヴィニア様?!」
声を上げたのは40代ほどに見える女性
名前は覚えていないが私の乳母だ
混濁していたはずの記憶がいつのまにか落ち着いていた
頭痛も、体のだるさもない
「み、水が、欲しいわ」
随分と掠れた声だなと自嘲する
とはいえ乳母にはきちんと届いたらしい
少ししてぬるま湯とスープが用意され、少しずつ口に運ばれる
久しぶりの食事はとても美味しかったがどこか虚しく感じた
日常的に必要な常識以外消されて丸々前世の記憶になってます
まあ性格、趣味嗜好は悪役令嬢のままなのでぱっと見は変わりません




