表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平穏なコンビニバイト生活を送りたいのに、呪印のせいで美女たちが密着してくる件〜人生底辺のバイト生活崩壊中〜  作者: 崖っぷちしゃちょー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/20

第8話「職人と鑑定士」

【前回までのあらすじ】

D級鑑定士として影守りに採用された悠真。

雪兎を護衛に連れ、コンビニに復帰した。

鑑定結果に表示された『呪印』という言葉が、頭から離れない。

───────────────────────


【12月4日(水) 昼1時 中野】


───────────────────────


「……さっむ」


 翌日、午後一時。


 俺は自宅のアパートで目を覚ました。


 布団から出た瞬間、真冬だというのに冷蔵庫の中のような冷気が肌を刺す。エアコンの設定温度を確認するが、スイッチは切れている。


 犯人は明白だ。


 枕元に、雪でできたウサギがちょこんと座っていた。


 式神の『雪兎』だ。


 こいつが俺の護衛として張り付いているせいで、俺の六畳一間は常に極寒地帯と化している。12月の東京で暖房なしは普通に死ねる。


「おはよう。……頼むから、もう少し『快適』な設定温度にしてくれないか。俺は人間なんだ」


 俺が頼むと、雪兎は「任せろ」とばかりに耳をピョコリと動かし、気合を入れた。


 そして——自身の冷気をさらに放出した。


 パキパキパキッ……。


 その瞬間、部屋の窓ガラスに霜が走り、俺の吐く息が真っ白になった。室温が18度から一気に氷点下へと急降下する。


「寒い寒い寒い! 逆だ馬鹿! お前にとっての『快適』じゃなくて、俺にとっての『快適』に合わせろ!」


 こいつ、俺が「温度調整してくれ」と言ったのを、「(雪兎基準で)もっと過ごしやすくしてやる」と解釈しやがった。


 まあ、こうなるだろうとは思っていた。人外との意思疎通というのは、なかなか一筋縄ではいかないものだ。


 俺は慌てて布団を被り直した。


 前途多難だ。


 ◆ ◆ ◆


 そんな時、枕元のスマホが震えた。


 画面には『氷の魔女』という、俺が勝手につけた登録名が表示されている。


「……はい、もしもし(ガタガタ)」


『おはよう、ユウマ君。……何、その震え声?』


「お宅の式神が俺を冬眠させようとしてきまして……。今日は何をするんです?」


『装備の支給よ。迎えの車が下に着いたから、準備して降りてきて。あなたは貧弱すぎるから、最低限の護身用具を持たせないと、私が安心できないの』


 過保護なお母さんかよ。


 まあ、ありがたいことではある。俺としても、丸腰で裏社会を渡り歩く趣味はない。損得で言えば、装備があった方が生存率は上がるわけで、断る理由はなかった。


 俺はため息をつきつつ、ダウンジャケットを着込んで部屋を出た。


 ◆ ◆ ◆


───────────────────────


【12月4日(水) 昼3時 霞が関・影守り本部】


───────────────────────


 影守り本部、地下4階。


 『特殊装備保管庫』と呼ばれるそのフロアは、機械油と鉄錆、そして古びた書物のような独特の匂いが充満していた。


 薄暗い通路の両側には、ガラスケースに入った剣や鎧、怪しげな水晶玉などが所狭しと並べられている。どこかのRPGに出てくる武器屋のようだ。


「ここはダンジョンから回収された『遺物アーティファクト』や、魔物の素材で作った武具を管理する場所よ」


 案内役のシオリさんが説明する。


 彼女は今日も完璧なパンツスーツ姿だが、その肩には雪兎が乗っかっていた。俺の護衛任務から一時的に戻ったらしい。歩くたびに、スーツの下で豊満な双丘がふわりと揺れる。


 ——いや、そこは見るな、俺。


「ここを取り仕切っているのが、ちょっと偏屈な人でね……」


 シオリさんが言い淀んだその時。


 奥の工房から、雷のような怒鳴り声が響いてきた。


「帰れ帰れッ! 半端モンに貸す武具なんざ、ここにはねぇッ!!」


 ガシャン! と何かが投げつけられる音。


 泣きそうな顔をした若い隊員が、慌てて逃げ出してくるのとすれ違った。


「……相変わらずね」


 シオリさんは苦笑し、工房の暖簾のれんをくぐる。


 中では、身長150センチほどの、樽のように分厚い体躯をした初老の男が、ハンマーを片手に仁王立ちしていた。


 伸び放題の髭。筋肉隆々の腕。炉から立ち上る熱気と、金属を叩く残響音。


 どう見てもファンタジー映画に出てくる『ドワーフ』そのものだ。


「源造さん、こんにちは」


「あん? ……なんだ、シオリ嬢ちゃんか」


 源造と呼ばれた男は、シオリさんを見ると少しだけ表情を緩めたが、すぐに俺を見て眉をひそめた。


「その後ろのヒョロいのは誰だ? 新入りか?」


「ええ。専属鑑定士の橘悠真くんです。彼に合う防具を見繕ってほしくて」


「鑑定士ィ?」


 源造は鼻を鳴らし、俺を値踏みするように睨みつけた。


「ケッ。どうせまた、本庁の役人が連れてきた『数値しか見れない』頭でっかちの分析屋だろ? 俺の武具の価値も分からねえ奴に、渡すモンはねえよ」


 凄い言われようだ。


 どうやら、過去に「鑑定士」と呼ばれる連中と何かあったらしい。まあ、職人と鑑定士の相性が悪いというのは、どの業界でもありがちな話ではある。


「あの、俺は……」


「口答えすんな! 俺は忙しいんだ。そこに積んである『未鑑定のゴミ』の山でも見て、さっさと帰んな!」


 源造が顎でしゃくった先には、泥や煤にまみれたガラクタの山があった。


 直近の探索で回収されたものの、鑑定課の分析でも「価値なし」と判断された廃棄予定品らしい。


 俺はムッとした。


 初対面でここまで馬鹿にされて、黙っていられるほど俺も人間が出来ていない。それに、シオリさんの手前、ここで役立たずだと思われたら、今後の給料交渉にも響くかもしれない。損得勘定で言えば、ここは実力を見せておくべき場面だ。


「……分かりました。じゃあ、そのゴミの中から『お宝』を見つけたら、俺の話を聞いてくれますか?」


「あぁ? ゴミはゴミだ。鑑定課のエリート様たちが『Fランク』の烙印を押したもんだぞ」


「エリート様が見落とすこともありますよ」


 俺はガラクタの山に近づき、目を細めた。


 スキル発動。


 視界に青いウィンドウの嵐が吹き荒れる。


【名称:欠けた壺】→【価値:Fゴミ

【名称:錆びたナイフ】→【価値:F(鉄くず)】

【名称:石化した木の枝】→【価値:E(燃料)】


 確かにゴミばかりだ。


 源造が鼻で笑う気配がする。


 だが、俺は山の下敷きになっていた、一つの薄汚れた『指輪』に目を留めた。


 泥にまみれ、装飾も摩耗している。一見すれば、ただの錆びた銅の輪っかだ。他の鑑定士なら「劣化により魔力消失」と判断するだろう。


 だが、俺の『目』は、その奥にある微かな輝きを見逃さなかった。


「……アンタ、これ捨てようとしてたのか?」


 俺は指輪を拾い上げ、源造に見せた。


「あ? なんだその汚ねえリングは。魔力反応もゼロだ。溶かして素材にする価値もねえよ」


「いいえ。これは『魔力遮断ステルス』のコーティングがされているだけです」


 俺は指輪の表面についた泥を、親指で強く擦った。


 そして、そこにある一点の「継ぎ目」に指を当てる。


(……ここだ。ここに魔力を通せば、封印が解ける)


 この世界において、スキルを持つ「覚醒者」には、すべからく体内に「魔力回路」が存在する。俺は戦闘訓練こそ受けていないが、Cランク相当の魔力回路自体は持っている。水道の蛇口をひねるように、指先にエネルギーを集中させるだけなら可能だ。


 要は、スイッチを押すだけの作業。


 俺は深呼吸し、指先に意識を集中させて魔力を流し込んだ。


 パキーンッ!


 指輪を覆っていた錆が弾け飛び、中からプラチナのような美しい銀色の輝きが溢れ出した。


「なっ……!?」


 源造が目を丸くする。


 俺は空中に浮かび上がったステータスを読み上げた。


【名称:守護精霊の指輪ガーディアン・リング

【ランク:A】

【効果:装着者の致死ダメージを一度だけ無効化し、身代わりとなって砕ける】

【状態:完全(未使用)】


「Aランクの『身代わりアイテム』ですよ。市場価格なら一億は下らない。これをゴミ扱いとは、影守りの鑑定課も節穴揃いですね」


 シン、と工房が静まり返った。


 シオリさんは「さすがね」と満足げに頷いているが、源造は口をパクパクさせて固まっている。


「偽装魔法……いや、古の封印加工か。それを一目で見抜いて、解除までしやがったのか……?」


 源造は震える手で指輪を受け取ると、職人の目でまじまじと観察し、やがて深いため息をついた。


「……俺の負けだ、坊主。いや、悠真と言ったか」


 源造の雰囲気が変わった。


 頑固な職人の顔から、認めるべき相手を見る敬意のこもった目に。


「大した『目』だ。俺の工房にあるモン、好きに持ってけ。……と言いたいところだが、お前さん、魔力の使い方がド下手くそだな?」


「うっ……」


 痛いところを突かれた。


 たった今、指輪の封印を解いただけなのに、全力疾走した後のように息が上がっている。


「Cランク相当のタンク(魔力総量)はあるようだが、蛇口が壊れてやがる。コップ一杯の水を出そうとして、バケツ一杯分を撒き散らしてる状態だ。そんな燃費じゃ、まともな魔法武器マジックアイテムは扱えねぇぞ」


 さすがは武器職人。俺の欠点を一瞬で見抜いたようだ。まあ、こうなるだろうとは思っていたが。


 ◆ ◆ ◆


「お前に必要なのは、魔力を使わずに『生き残るための装備』だ」


 源造は工房の奥へ行くと、一つの黒いベストを持ってきた。


 薄手だが、触れると爬虫類の革のような独特の質感がある。


「『黒竜のインナーベスト』だ。ドラゴンの脱皮した皮を加工して作った試作品だよ」


「ド、ドラゴン!?」


「まあ下級竜ワイバーンクラスだがな。刃物も銃弾も通さねぇし、中級以下の魔法なら無効化する。軽くて服の下に着ても目立たねぇ」


 源造はそれを俺に押し付けた。


 俺はお礼を言って受け取ろうとしたが——その前に、横から白い手が伸びてきた。


「ちょっと待って。サイズは合ってるの?」


 シオリさんだ。


 彼女は俺の手からベストを奪い取ると、真剣な顔で俺の胸元に当てがった。


「これ、伸縮性はあるけど、密着させないと効果が半減するわよ。ユウマ君、ちょっと着てみなさい」


「え、ここでですか?」


「当たり前でしょう。源造さんがいるうちに調整しないと」


 シオリさんは有無を言わせぬ勢いで、俺が着ていたダウンジャケットのジッパーを下げ、その下のTシャツを捲り上げた。


「ちょ、シオリさん!? 自分でやりますって!」


「じっとしてて。背中側のフィッティングを見るから」


 シオリさんは俺の言葉を無視し、強引に俺の背中に回り込むと、ベストをTシャツの下に滑り込ませた。


 そして——。


「ひゃっ……!」


 俺は変な声が出た。


 シオリさんの両手が、俺の服の中に侵入してきたからだ。


 冷たい。


 氷の魔女と呼ばれる彼女の指先はひんやりとしていて、それが俺の脇腹や背中の素肌に直接触れる。


 それだけならまだいい。


 問題は、彼女がサイズ確認のために俺の背後から密着していることだ。


 彼女が腕を回して俺の腹部の留め具を調整するたびに、背中に「柔らかくて弾力のある何か」がムギュッ、ムギュッと押し当てられる。


(当たってる! めちゃくちゃ当たってるから!)


 昨日のコンビニで見た、あの豊満な谷間の感触だ。薄着のTシャツ越しだと、その形や柔らかさがダイレクトに伝わってくる。


「んー、脇がちょっと緩いかしら……」


 シオリさんは全く気にしていない様子で、さらにグイグイと体を寄せてくる。


 柑橘系のいい匂いが鼻をくすぐり、冷たい指先と温かい肢体のコントラストが、俺の理性をゴリゴリと削っていく。


(勘弁してくれ……! これは拷問か何かか……!?)


「シ、シオリさん! もう大丈夫です! ぴったりです!」


「だめよ。命に関わるのよ? ……よし、これで完璧」


 シオリさんは最後に、俺の胸板を服の中からパンパンと叩いて、ようやく手を引き抜いた。


「うん、これなら動きを阻害しないわね」


 彼女は涼しい顔で頷いている。


 俺は顔を真っ赤にして、乱れた服を整えるのに必死だった。


「……おうおう、熱いねぇ。新婚さんか?」


 一部始終を見ていた源造が、ニヤニヤしながら冷やかす。


「「違います! 仕事です!」」


 俺とシオリさんの声が重なった。


 ……この人、本当に無自覚なのか。天然なのか。


 どっちにしろ、この護衛任務、魔物に殺される前に、俺の心臓が持たない気がする。厄介事にも程がある。


「とにかく、ありがとな源造さん。大切にするよ」


「おう。メンテナンスはタダでやってやるから、いつでも来な」


 こうして俺は、最強の盾役シオリさんに加えて、最強の防具を手に入れた。


 損得で言えば、今日は完全にプラスだ。……これで少しは、死亡率が下がっただろうか。


 ◆ ◆ ◆


 本部からの帰り道。


 送迎車の後部座席で、俺はインナーベストの感触を確かめていた。


 まだ背中に、あの柔らかい感触が残っている気がする。まったく、困ったものだ。


 その時、シオリさんのスマホが鳴った。


 彼女は画面を見て表情を引き締め、短く応答する。


「……はい。……ええ。了解しました」


 通話を終えたシオリさんが、真剣な眼差しで俺を見た。


「ユウマ君。装備の慣らし運転をする時間はないみたいよ」


「……まさか」


仕事ミッションよ。都内のDランクゲートで、調査隊が行方不明になったわ。至急、捜索に向かう」


 俺の「平穏」は、どこにいった。


 まあ、こうなるだろうとは思っていたが——厄介事を引き寄せる体質は相変わらずらしい。


 俺は大きくため息をつきながら、新品のベストの上から胸を叩いた。


(第8話 完)

【あとがき】

お読みいただきありがとうございます!

装備職人・源造との出会い!

悠真の鑑定眼が認められました。

「魔力の使い方がド下手くそ」と言われてしまいましたが……。

そして早速、新しいミッションが!

次回、Dランクゲート探索へ!


少しでも面白い、続きが気になる!

と思ったら、下のブックマークや

☆☆☆☆☆を★★★★★にして応援いただけると嬉しいです!

執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ