表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平穏なコンビニバイト生活を送りたいのに、呪印のせいで美女たちが密着してくる件〜人生底辺のバイト生活崩壊中〜  作者: 崖っぷちしゃちょー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/20

第7話「深夜のコンビニ防衛戦」

【前回までのあらすじ】

深淵の王に「見られた」悠真は、シオリに連れられ影守り本部へ。

天城局長と面会し、D級鑑定士として正式採用された。

コンビニバイトの20倍の給料と、護衛として式神「雪兎」がつくことに。

───────────────────────


【12月3日(火) 夜10時 新宿・歌舞伎町】


───────────────────────


「橘くゥゥゥゥゥんッ!!」


 その日の夜、二十二時。


 出勤した俺を待っていたのは、店長の鼓膜破りの絶叫だった。


「昨日の夜勤中、いったいどこへ行っていたんだ! 防犯カメラ見たら、三時過ぎにお客さんと出て行って、そのまま帰ってこないじゃないか! バックレかと思ったよ!」


 バックヤードの狭い事務室で、小太りの店長が唾を飛ばしながら怒鳴り散らす。


 まあ、こうなるだろうとは思っていた。


 勤務中にSランク案件に巻き込まれ、得体の知れない『何か』に睨まれ、国家公務員になって帰ってきました——なんて説明が通るはずもない。俺の本業はあくまでコンビニ店員なのだ。


「す、すみません! 急にお腹が痛くなって……その、救急車呼ぶのもあれだったんで、お客さんに病院まで送ってもらって……」


 俺は必死に考えた嘘をつきながら、直角に頭を下げた。


 今の俺は、年収数千万円(推定)の国家特務職員だ。


 だが、このコンビニにおいて俺の序列は最底辺。時給1,200円のアルバイト店員に過ぎない。まったく、世の中というのは理不尽にできている。


 ふと、俺は目の前で怒鳴っている店長に『鑑定』を使ってしまった。


 職業病というやつだ。損得で言えば、まったく得にならないのだが。


【氏名:田中たなか つとむ

【職業:コンビニ店長】

【年齢:48歳】

【状態:高血圧(要注意)、慢性疲労、ストレス(大)】

【スキル:高速レジ打ち(Lv.4)、クレーム処理(Lv.3)】

【備考:最近、妻に内緒で5万円の美顔器を買ったがバレて修羅場中】


 ……平和だ。


 あまりにも一般人すぎるステータスに、俺は逆に涙が出そうになった。


 あの金色の瞳だの、魂に刻まれた『何か』だのが嘘のような、愛すべき日常がここにある。やはり俺の居場所は、裏社会ではなくこのコンビニなのだと改めて実感する。


「……はぁ。まあいい。君が無断欠勤なんて珍しいからな。今回は大目に見るが、次はないぞ」


 店長はそう言って説教を切り上げ、そそくさと私服に着替え始めた。


 やけに急いでいる。香水の匂いも少しキツイ気がする。


「ありがとうございます、助かります。……あの、これから帰宅ですか?」


「ん? ああ、いや。ちょっと駅前の『リフレッシュサロン』にな。……ストレス発散も仕事のうちだよ」


 店長はバツが悪そうにニヤリと笑うと、逃げるように裏口から出て行った。


 リフレッシュサロン。……まあ、奥さんと喧嘩中なら家に帰りたくない気持ちも分かる。人の家庭の事情に口を挟む趣味はない。


 ◆ ◆ ◆


 自動ドアが閉まり、店内に静寂が戻る。


 深夜の歌舞伎町。窓の外では赤や青のネオンが瞬き、その光が店内の床にまだらな模様を描いている。どこかのホストクラブから流れてくる重低音が、かすかに空気を震わせていた。


 俺はレジカウンターに入り、大きく息を吐いた。


「……はぁ。仕事しよ」


 愚痴を言っても仕方がない。目の前のことを淡々とこなす。それが俺の処世術だ。


 俺は慣れた手つきで、揚げ物の什器を確認する。ラグジュアリーチキン、からあげサン、コロコロコロッケ。在庫は十分だ。


 その時。


 ウィーン、と自動ドアが開いた。


「いらっしゃいませー」


 俺が条件反射で声を上げると、入ってきたのは一人の女性だった。


 黒髪をポニーテールにまとめ、オフィスカジュアルなジャケットにタイトスカート。仕事上がりのOL風な装いだが、その容姿はコンビニの蛍光灯の下でも発光しているかのように美しい。


 立ち読みしていたサラリーマンが、思わず雑誌を落とすほど見惚れている。


 如月シオリ——影守り第一特務隊の副隊長だ。


 彼女は一直線にレジに向かってくると、カウンターに両肘をついて、悪戯っぽくニヤリと笑った。


「チキンの揚げたて、ある?」


「……いらっしゃいませ、お客様」


 俺は引きつった笑顔で対応したが、次の瞬間、視線のやり場に困ることになった。


 彼女がカウンターにぐっと身を乗り出したせいで、ジャケットのインナーの胸元がたわみ、豊満な双丘の谷間が露わになっていたのだ。


 普段の戦闘スーツではガードが堅いのに、OL風の私服になった途端、これだ。白い肌の眩しさに、俺は慌てて視線を天井へと逸らした。


(……無防備すぎるだろ、この人。Gカップの破壊力を自覚していただきたい)


 世界最強クラスの護衛官が、まさかこんな物理的な破壊力を持っているとは。


 悔しいが、めちゃくちゃ美人だしスタイルも抜群だ。こんな人が毎晩来るなんて、普通のバイトならご褒美でしかないだろう。命がけでなければ。


「……? どうしたの、顔が赤いわよ」


 副隊長が不思議そうに首を傾げる。


 どうやら無自覚らしい。この天然さが、さらに俺の精神を削ってくる。厄介なことこの上ない。


「な、なんでもないです! ラグジュアリーチキンをお一つですね。温めますか?」


「お願い。……異常はない?」


 副隊長はスマホを取り出し、決済端末にかざしながら小声で囁いた。


 『ピピッ』という電子音と共に、ふわりと柑橘系のシャンプーの香りが鼻をくすぐる。


「今のところは。……店長に怒られたくらいです」


(あと、目のやり場に困ってます——とは言えない)


「ふふっ。大変ね、二重生活も」


 その時、俺の足元の影から、ひょっこりと白い耳が飛び出した。


 式神の『雪兎』だ。


 主人の到着を喜んでいるのか、影の中でピョンピョンと跳ねている。白い毛並みがコンビニの蛍光灯に照らされて、どこか幻想的な光を放っていた。


「こら、出てきちゃダメよ。あなたはバックアップなんだから」


 副隊長が小声で影に向かって諭すと、雪兎は残念そうにシュンとして、再び俺の影の底へと沈んでいった。


 ……可愛いな、こいつ。


 ◆ ◆ ◆


 副隊長はチキンを受け取ると、そのまま店を出ていく——ことはなかった。


 イートインコーナーの一番端、レジ全体が見渡せる席に陣取り、優雅にチキンを齧り始めたのだ。テーブルの上には、ファッション誌を一冊広げている。


 完全に長居する気だ。


(……やりづれぇ)


 世界最強クラスの美女護衛に見守られながらのレジ打ち。


 客が来るたびに副隊長の鋭い視線が走るのが分かり、俺の背中は冷や汗でぐっしょりだった。まあ、文句を言う筋合いではないのだが。


 深夜1時。


 客足が途絶え、店内には俺と副隊長、そして立ち読み客が一人だけになった頃。


 ゾワリ。


 俺の背筋に、冷たいものが走った。


 殺気ではない。もっとドロリとした、粘着質な視線。


 ——局長が危惧していた『何か』が、発信機のように反応しているのだ。


 俺は手を止め、入り口を見た。


 ウィーン。


 自動ドアが開く。


 入ってきたのは、フードを目深に被った小柄な男——いや、違う。


 一見すると人間のようだが、その歩き方は奇妙にカクカクとしており、靴音もしない。まるで糸で操られた人形のようだ。


 俺は即座に『鑑定』を発動した。


【名称:擬態蟲ミミック・ワーム

【ランク:D級】

【状態:人間に擬態中】

【目的:『呪印』の持ち主の捕食】

【弱点:火、または氷】


「……は?」


 俺は思わず固まった。


 なんで魔物が? ここはただのコンビニだぞ?


 『擬態蟲』は、人間の死体や衣服に入り込んで操る寄生型の魔物だ。あの中身は、おそらくスライム状の肉塊だろう。厄介な代物である。


 そして鑑定結果に表示された『呪印の持ち主の捕食』という文字。


 ……呪印?


 局長が言っていた「呪いの類か、追跡のための印か」という言葉が脳裏をよぎる。


(やっぱり俺の魂には、あいつに『何か』を刻まれていたってことか……)


 厄介事を引き寄せる体質というのは、どうやら本当らしい。


 だが、今はそんなことを考えている場合じゃない。


 奴はふらふらと雑誌コーナーを通り過ぎ、レジにいる俺へと直進してくる。


 フードの下から覗く目は白く濁り、口元からは緑色の粘液が垂れていた。異臭が漂い、俺は思わず顔をしかめる。


 普通の客なら悲鳴を上げるところだ。


 だが、今の俺には心強い「常連客」がいる。


 俺はさりげなくイートインコーナーへ視線を送った。


 副隊長は雑誌を読んでいるフリをしたまま、右手の人差し指を軽く立てた。


 カツン。


 彼女が指先でテーブルを叩く音。


 それが合図だった。


 ◆ ◆ ◆


 俺の目の前、レジカウンターに辿り着く直前で、擬態蟲の足がピタリと止まった。


「あ……ぅ……」


 奴は呻き声を上げようとして、そのまま固まった。


 足元から急速に霜が這い上がり、一瞬にして全身が薄い氷の膜に覆われたのだ。


 パキキキキッ……!


 『瞬間凍結』。


 店内の監視カメラにも映らないほどの速度で行われた、神業の魔法だ。魔力の余波すら感じさせない精密さは、さすがA級と言うほかない。


「お客さま? どうなさいました?」


 俺は白々しく声をかけながら、カウンターから出て近づく。


 そして、凍りついて動けなくなった奴の肩を支えるフリをして、耳元で囁いた。


「出入り禁止だよ、お前」


 俺はそのまま奴を抱きかかえ(凍っているので棒のように硬い)、バックヤードへの扉を開けた。


 防犯カメラの死角に入った瞬間、氷像となった魔物は粒子となって崩れ落ち、跡形もなく消滅した。


 魔物は死ぬとダンジョンの塵に還る。証拠隠滅の手間がいらないのは助かる。この点だけは、厄介事の中の数少ない救いと言えるだろう。


「ふゥ……」


 俺は額の汗を拭い、売り場に戻った。


 イートインコーナーでは、副隊長が何食わぬ顔でページをめくっている。


 俺たちが視線を合わせると、彼女は口の動きだけで言った。


『仕事しなさい、店員さん』


 その微笑みが妙に艶っぽくて、俺はドキリとしながら慌てて視線を逸らした。


 ……くそ、やっぱり美人すぎるだろ、この護衛。


(心臓に悪い。いろんな意味で心臓に悪い)


 ◆ ◆ ◆


 その後も、深夜3時に『吸血コウモリ』が換気扇から入ってきたり、明け方に『泥人形マッドマン』がトイレから湧き出てきたりした。


 だが、そのたびに俺の影から飛び出した雪兎が、一瞬で凍結粉砕してくれた。


 頼もしい相棒だ。文句を言いながらも仕事をきっちりこなすあたり、主人に似ているのかもしれない。


 朝6時。


 朝日が差し込む店内で、俺はエプロンを脱いだ。


 かつてないほど疲れた夜勤だった。


「お疲れ様。……なかなかスリリングな職場ね」


 帰り支度を整えた副隊長が、レジ前で大きく伸びをする。


 その動作に合わせて、ジャケットの中の豊満な双丘がふわりと揺れた。


(見てない。俺は何も見てない)


「勘弁してくださいよ。こんなのが毎日続くんですか?」


 副隊長は俺の愚痴には答えず、満足げに頷くと、自分が座っていたイートインのテーブルを片付け始めた。


 そこには、空になった高級コーヒーのカップが5つ、プレミアムロールケーキの袋が3つ、さらに新商品のグミや雑誌の山が築かれていた。


「……副隊長、結構食べましたね」


「暇だったし、あなたの売り上げに貢献してあげたのよ。感謝なさい」


 彼女は合計で数千円にはなるであろうレシートの束を、無造作に財布に突っ込んだ。


 さすが給料20倍。金払いがいい。損得で言えば、客単価としては最高の上客だったわけだ。ワンオペで迷惑をかけた分を差し引いても、十分にお釣りがくる。


「検証終了ね。一晩様子を見たけれど、引き寄せられるのはD級以下の雑魚ばかり。これなら私が毎回徹夜で張り込む必要はなさそうね」


 彼女は足元を見下ろした。


 俺の影から、雪兎がひょっこりと顔を出す。


「基本はこの子に任せるわ。私の魔力リソースも温存したいし、あなたもその方が気楽でしょう?」


「そ、それは……まあ、正直助かります」


 俺は安堵のため息をついた。


 いくら美人でも、国家権力に見張られながらのレジ打ちは胃に穴が開く。


「ただし、油断は禁物よ。少しでも異常を感じたら、すぐにSOS信号を出すこと。いいわね?」


「了解です」


「ふふ、いい返事」


 副隊長は満足げに微笑むと、ふいに俺の方へ一歩近づいた。


「ねえ、ユウマ君」


「——はい?」


 俺は一瞬、誰に話しかけられたのか分からなかった。


 ユウマ君?


 今まで『鑑定士君』としか呼ばれたことがなかったのに。


「あの、副隊長? 今、なんて……」


「シオリ」


 彼女は俺の言葉を遮り、さらに距離を詰めてきた。


 近い。近すぎる。


 柑橘系のシャンプーの匂いが鼻腔をくすぐり、目の前にはジャケットの隙間から覗く白い鎖骨と、その下に続く豊満な谷間が——


「副隊長じゃなくて、シオリ。シオリって呼んで?」


 上目遣いで、そう囁かれた。


 俺の心臓が、ドクンと跳ねる。


「ちょ、ちょっと待ってください。なんでいきなり……」


「いきなりじゃないわ。私たち、もう一緒に死線を潜り抜けた仲でしょう?」


 副隊長——いや、シオリさんは、まるで当然のことを言うように首を傾げた。


 その動作に合わせて、ポニーテールがふわりと揺れる。


「あなたは私の専属鑑定士。これから長い付き合いになるんだから、他人行儀はやめましょう?」


「いや、でも、職場の上司と部下ですよね? 敬称くらいは……」


「プライベートでは対等よ。ね、ユウマ君」


 彼女はニコリと笑って、俺の胸をトンと人差し指で突いた。


 その距離、約10センチ。


 吐息がかかるほどの至近距離だ。


(パーソナルスペースという概念はないのか、この人……!)


 俺は半歩後ずさろうとしたが、背中がレジカウンターにぶつかって逃げ場がない。


「あ、あの……」


「ユウマ君?」


 シオリさんは小首を傾げて、俺の顔を覗き込んでくる。


 その無防備な仕草。距離感の完全なバグり具合。


 これが『氷の魔女』と恐れられるA級エージェントの素顔だというのか。厄介事にも程がある。


「……わ、分かりました。シオリ……さん」


「『さん』はいらないんだけど」


「いります! 俺の心の平穏のために、『さん』は絶対にいります!」


 俺が必死に抵抗すると、シオリさんは少し不満そうに唇を尖らせた。


 だが、すぐにクスリと笑う。


「ふふ、まあいいわ。最初はそれで許してあげる。……じゃあ、また来るわね、ユウマ君」


 シオリさんは満足げに微笑むと、ゴミを分別して捨て、ヒールを鳴らして颯爽と店を出て行った。


 ◆ ◆ ◆


 自動ドアの向こう、通勤ラッシュの人の波に消えていく彼女の背中を見送りながら、俺は深いため息をついた。


「……まいったな」


 肉体的には限界だ。


 だが不思議と、嫌な気分ではなかった。


 足元の影の中で、雪兎が「あとは任せろ」と言うように小さく跳ねた気がした。


 俺のポケットには、まだ熱を帯びた職員証が入っている。


 コンビニ店員と、裏世界鑑定士。


 この奇妙な二重生活も、頼れる相棒と、たまに来る美人上司と一緒なら、なんとかやっていけるかもしれない。


 ——ただ、鑑定結果に表示された『呪印』という言葉が、ずっと頭から離れなかった。


 まあ、考えても仕方がない。今は目の前の仕事をこなすだけだ。


 俺は大きく伸びをして、朝の品出しへと向かった。


 厄介事を引き寄せる鑑定士の、長い夜が終わろうとしていた。


(第7話 完)



【あとがき】

お読みいただきありがとうございます!

コンビニに復帰した悠真。

店長の説教をなんとか乗り切りました。

雪兎との共同生活も始まり、二重生活が本格化!

でも『呪印』という言葉が気になる……。

次回、装備支給!


少しでも面白い、続きが気になる!

と思ったら、下のブックマークや

☆☆☆☆☆を★★★★★にして応援いただけると嬉しいです!

執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ