表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平穏なコンビニバイト生活を送りたいのに、呪印のせいで美女たちが密着してくる件〜人生底辺のバイト生活崩壊中〜  作者: 崖っぷちしゃちょー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/20

第6話「影守りへようこそ」

【前回までのあらすじ】

深淵の王の巨大な金色の眼球が、悠真を捉えた。

魂に何かを刻まれたような感覚を覚える。

シオリと共にビルから脱出し、影守りへの協力を決意。

平穏なコンビニ店員生活は終わり、二重生活が始まった。

───────────────────────


【12月3日(火) 朝8時半 霞が関】


───────────────────────


 数時間後。


 完全に日が昇りきった朝の八時半。


 俺は、皇居のほど近く、霞が関の官庁街に立っていた。


 銀杏並木は黄金色に染まり、散り始めた葉が朝のアスファルトを彩っている。冬の透き通った空気の中、行き交うのはパリッとしたスーツを着たエリート官僚たちや、眠そうな顔をした公務員たち。


 その波に逆らうように、俺はヨレヨレのスウェット上下に薄汚れたスニーカーという出で立ちで立ち尽くしていた。しかも煤だらけで、あちこちに擦り傷まである。


「……なぁ、これ公開処刑か何かですか?」


 俺はジロジロと見てくる通行人の視線に耐えかねて、恨めしげに隣を見た。


 そこには、新しいパンツスーツに身を包み、髪もメイクも完璧に直した副隊長が涼しい顔で立っている。数時間前までビルの崩壊に巻き込まれていたとは思えない、キャリアウーマンぶりだ。


「何が?」


「何が、じゃないですよ! なんでアンタだけ着替えてるんですか! 俺には?」


「私は本庁に仮眠室と専用ロッカーがあるもの。シャワーも浴びてきたわ」


 副隊長は悪びれもせずサラリと言った。艶やかな黒髪からは、ほのかにシャンプーのいい匂いがする。


「鑑定士君の着替え? そんなもの用意してる時間なかったわよ。ほら、胸を張りなさい。あなたは今日からここの職員よ」


「こんな格好で胸張れるわけないだろ……完全に不審者だよ……」


 通り過ぎる女性公務員が、明らかに俺を避けて歩いていく。中には警備員を呼ぼうとしている人までいる。


 俺はがっくりと肩を落としながら、副隊長の後をついていく。彼女が入っていったのは、何の変哲もない灰色のビルだった。


 看板には『内閣府統計局・第4分室』とある。


「ここが『影守り』の本部? なんというか……地味ですね」


「表向きはただの統計局よ。目立たないことが重要なの。……ついてきて」


 ◆ ◆ ◆


 受付を素通りし、奥のエレベーターホールへ。


 副隊長が貨物用エレベーターの横にある鍵穴を操作すると、パネルに隠されていた『B5』のランプが点灯した。地下5階——普通の政府施設にそんな深い階層があるはずがない。


 箱は地下深くへと沈み始めた。


 空気が変わる。


 肌にピリピリと刺さるような、濃密な魔素の気配。


 扉が開くと、そこには地上とは別世界の広大な地下空間が広がっていた。


 天井は吹き抜けで、人工の太陽光が降り注いでいる。白衣の研究者たちがタブレットを片手に議論を交わし、重武装の隊員たちが廊下を行き交う。壁面には日本各地のダンジョン・ゲートの状況を映す巨大なモニターが並び、どこかで警報音が鳴り響いている。


「……すげぇ」


 俺は思わず声を漏らした。


 裏社会の存在は知っていた。スカベンジャーとして素材を扱ってきたから、そういう世界があることくらいは理解していた。


 だが、ここまで大規模で、組織的で、本格的な施設だとは想像もしていなかった。


「ここが影守り本部よ。国内最大の対ゲート・対異能犯罪の拠点」


 副隊長は歩きながら説明する。


「所属エージェントは約三千名。全国のダンジョン管理、異能者の登録・監視、裏社会の秩序維持。あらゆることを担っているわ」


「三千人も……」


「それでも人手不足なの。ゲートは年々増え続けているし、異能犯罪も後を絶たない。だからあなたみたいな人材は貴重なのよ」


 廊下を抜け、最奥にある重厚な扉の前へとたどり着いた。


 『特務作戦局長室』。


「入るわよ」


 副隊長がノックし、入室する。


 ◆ ◆ ◆


 壁一面がモニターで埋め尽くされた司令室のような部屋。


 その中央、執務机に座っていたのは、眼帯をした白髪の初老の男だった。


 一見すると柔和な好々爺だが、その纏っている空気は張り詰めている。歴戦の戦士特有の、隙のない佇まい。


 俺は反射的に『鑑定』を発動させていた。


【氏名:天城 ゲン(あまぎ げん)】

【役職:特務作戦局長】

【等級:元Sランク(引退済)】

【スキル:剣聖(Sword Master)/ 威圧】

【状態:右目欠損 / 古傷(多数)】

【備考:10年前の「最初のゲート事故」における生存者】


 ……うわぁ。


 元Sランクだって。しかも10年前のゲート事故の生存者。この人も化け物かよ。


「戻ったか、如月。……そして、そいつが例の?」


 局長の声は穏やかだが、視線には値踏みするような鋭さがあった。


「はい。本日付で採用しました、橘悠真です」


 副隊長が敬礼する。俺も慌てて頭を下げた。


「橘です。よ、よろしくお願いします」


 天城局長は、俺をじろじろと見つめた後、ふっと笑った。


「楽にしてくれ。私は天城だ。……報告書は読んだぞ。未登録の鑑定士にして、Sランク案件の功労者。おまけにあの『氷の魔女』こと如月シオリを手懐けたとなれば、期待しないわけにはいかん」


「手懐けてません! 拉致されたんです!」


 俺の抗議に、天城局長は豪快に笑った。


「はっはっは! まあそう言うな。我が組織は慢性的な人手不足でな。君のような『目』を持った人材は喉から手が出るほど欲しい」


 局長は真顔に戻り、机の上で指を組んだ。


「それに……君を保護したのは、君自身のためでもある」


「どういう意味ですか?」


「鑑定士というのは、裏社会では非常に価値がある。闇オークション、非合法ギルド、犯罪組織……君のスキルを狙う連中は山ほどいる。野放しにしておけば、いずれ拉致されて『道具』にされるだろう」


 俺の背筋に冷たいものが走った。


「それだけではない」


 局長の表情が、一瞬だけ曇った。


 まるで、遠い過去の記憶を呼び起こしているかのような——。


「如月から報告を受けた。今回の事件で、空間の裂け目から『何か』が覗いていたそうだな」


「……はい」


 あの金色の瞳を思い出し、俺の体が無意識に強張る。


「その『何か』の気配……私には、覚えがある」


「えっ?」


 俺は驚いて局長を見た。


「10年前、最初のゲート事故が起きた時だ。新宿大深度地下迷宮——あの時、私は最深部付近まで到達した。そこで感じた気配と、報告書に記された存在の気配が……酷似している」


 局長の残った片目が、遠い場所を見つめていた。


「私はあの時、右目と多くの仲間を失った。何が起きたのか、今でも完全には把握できていない。だが、あの底知れない恐怖だけは——今でも魂に刻まれている」


 ◆ ◆ ◆


 室内に重い沈黙が流れた。


「今回、君がその存在と『対面』したことは、決して偶然ではないかもしれん。奴が……いや、憶測で話すべきではないな」


 局長は首を振り、話題を変えた。


「ともかく、君の体に何か異変が起きていないか、今後の経過観察が必要だ。定期的な検査を受けてもらう。もし異常が発見された場合は、即座に対処する」


「異常って……」


「あれほどの存在に『見られた』のだ。何も影響がないとは考えにくい。呪いの類か、追跡のための印か——今の段階では何も断言できんがな」


 俺は思わず自分の胸に手を当てた。


 あの時——深淵の王に見つめられた瞬間、確かに何かを感じた。魂に焼き印を押されたような、あの不気味な感覚。


 あれは、気のせいじゃなかったのか?


「……了解です」


 俺は素直に頷いた。正直、怖かった。


 ◆ ◆ ◆


「さて、暗い話はここまでだ。本題に入ろう」


 局長は表情を和らげ、一枚の黒いカードを取り出した。正規職員証だ。


「影守り所属、D級鑑定士——橘悠真。これが君の正式な肩書きだ」


「D級……」


「最初は全員D級からスタートする。実績を積めば昇格もあるぞ」


「このIDカードには特殊な術式が組み込まれている。危険を感じて強く握り込めば、即座に本部へ『緊急救難信号』が送信される。到着まで平均3分だ」


「3分……カップ麺が出来上がるまで耐えれば、助かるってわけですね」


「そういうことだ。……それと、護衛もつける。如月、雪兎を貸し出せ」


 副隊長が頷くと、彼女の肩から小さな「何か」がピョンと跳ねた。


 パキン、と可愛い音がして、副隊長の掌の上に雪でできた小さなウサギが現れる。


「私の式神、『雪兎』よ。私がそばにいられない時は、この子があなたの影の中に潜んで護衛するわ」


 雪兎がつぶらな氷の瞳で俺を見上げた。サイズは掌に乗るくらい。耳がピコピコ動いている。


 か、可愛い……。


「可愛い顔してるけど、戦闘力は高いわよ。下級の魔物くらいなら、この子が噛み殺してくれるわ」


 雪兎がシャキーンと氷の牙を見せた。


 全然可愛くなかった。猛獣だった。


「君を組織で保護し、育成する。……拒否権はないぞ」


 俺は震える手でIDカードを受け取った。


「……はぁ。腹くくりますよ。その代わり、給料は弾んでくださいね。副隊長、5倍って言ってましたけど」


「5倍? はっはっは! 安い安い!」


 天城局長は机をバンと叩いた。


「これだけの希少スキル持ちだ。コンビニバイトの20倍は出そう」


「に、20倍!?」


 俺は素で叫んでしまった。


 時給1,200円の20倍……時給2万4,000円!? 年収にしたら数千万円コースだ。


「金払いはいい組織なんだ。……どうだ、やる気が出たか?」


「……あ、局長。一つだけ条件があります」


 俺は札束の幻影を振り払い、意を決して顔を上げた。


「なんだね? まだ金が足りんか?」


「金じゃないんです。……コンビニのバイト、続けさせてください」


 ◆ ◆ ◆


 俺の言葉に、天城局長は目を丸くし、副隊長は素っ頓狂な声を上げた。


「はあ? 何を言ってるの鑑定士君。給料20倍よ? 一生遊んで暮らせる額なのよ? そんな危険な場所で働く必要なんて……」


「必要あるんです!」


 俺は副隊長の言葉を遮って訴えた。


「俺は公務員になりたかったわけじゃない。平和に生きたかっただけなんです。……あのコンビニは、俺にとって唯一残された『日常』なんです。それを捨ててここだけに染まったら、俺は俺じゃなくなっちまう気がする」


 深夜の廃棄弁当。常連客との適当な会話。単調なレジ打ち。


 それらは退屈だったが、確かに俺の精神安定剤だったのだ。


 俺の必死な訴えに、天城局長はしばらく黙り込み——やがて、口の端をニヤリと吊り上げた。


「面白い。裏社会に足を踏み入れておきながら、表の日常にしがみつくか。……精神の均衡を保つためにも、悪くない提案だ」


「きょ、局長!?」


「許可しよう。ただし、本業に支障が出ない範囲でな」


 局長の言葉に、俺は職員証をポケットにねじ込み、キッパリと言い返した。


「勘違いしないでくださいよ、局長」


「ん?」


「俺の本業はコンビニ店員です。こっちが副業です」


 その減らず口に、局長は目を瞬かせ、そして腹を抱えて笑い出した。


「くっ、はははは! 聞いたか如月! こいつは大物だぞ!」


 副隊長はこめかみを押さえて、大きなため息をついた。


「はぁ……。分かったわよ。好きにしなさい」


 雪兎が俺の足元にぴょんと飛び降り、するりと影の中に潜り込んだ。これからこいつが、俺の護衛役というわけか。


 正直、心強い。


 ◆ ◆ ◆


 こうして、俺の影守りでの最初の一日が始まった。


 表の顔は、冴えないコンビニ店員。

 裏の顔は、国家機密を扱う鑑定士。


 俺の「平穏」とは程遠い、過酷で刺激的な二重生活が、ここに幕を開けた。


 ——だが、この時の俺はまだ知らなかった。


 あの夜、深淵の王に『見られた』瞬間。


 局長が危惧した通り、俺の魂には確かに『呪印』が刻まれていたことを。


 そしてそれが、10年前の事故と深く繋がっていることを——。


(第6話 完)



【あとがき】

お読みいただきありがとうございます!


悠真、影守りにD級鑑定士として正式採用!

コンビニバイトの20倍の給料……でも本業はコンビニです。


雪兎という可愛い(?)護衛もつきました。

これから二重生活が始まります。


次回、雪兎との日常!


少しでも面白い、続きが気になる!

と思ったら、下のブックマークや

☆☆☆☆☆を★★★★★にして応援いただけると嬉しいです!

執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ