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平穏なコンビニバイト生活を送りたいのに、呪印のせいで美女たちが密着してくる件〜人生底辺のバイト生活崩壊中〜  作者: 崖っぷちしゃちょー


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第5話「深淵を覗く者」

【前回までのあらすじ】

権田を追い詰めた悠真とシオリ。

権田は黒竜の鱗を体内に取り込み、半竜化して暴走した。

激闘の末、悠真は黒い石を発見する。

それは第99層「深淵の王」と繋がる端末だった。

空間がねじれ、巨大な金色の眼球が現れた——。

───────────────────────


【12月3日(火) 深夜5時 新宿】


───────────────────────


 金色の眼球。


 その圧倒的な質量を持つ瞳が、次元の裂け目からこちらを覗き込んでいた。


 俺は恐怖で凍りつきながらも、鑑定士としての悲しい習性で、その眼球を直視してしまった。


 スキルが勝手に発動する。


【名称:深淵のアビス・ドラグーン

【種族:古龍エンシェント・ドラゴン

【ランク:測定不能(ERROR)】

【封印場所:新宿大深度地下迷宮・第99層『王の間』】

【状態:封印中(部分覚醒)】

【推定戦闘力:S級×100以上(人類戦力では対処不能)】

【備考:10年前の「最初のゲート事故」の元凶。現在も封印の隙間から魔力を漏出し続けている】


 視界にウィンドウが浮かんだ、その瞬間だ。


 金色の瞳孔が、ギョロリと動いた。


 隣でへたり込んでいる副隊長じゃない。


 床に倒れている権田でもない。


 その目は、正確に、俺の『目』と視線を合わせた。


「……っ!?」


 理解した瞬間、全身の血が逆流した。


 視られた。


 俺が奴の情報を読み取ろうとしたことで、逆に奴に「こちらから観察している存在おれ」を特定されてしまったのだ。


 深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている。


『——見タナ』


 声ではない。


 脳髄を直接やすりで削られるような、ザラついた思念波が頭蓋の内側に響いた。


『我ヲ覗ク、小サキモノヨ』


 その意思に含まれているのは、純度100%の「捕食」と「支配」の欲望。


 ただそれに見つめられただけで、心臓が握り潰されたような錯覚に陥った。


「カッ……、ハッ……!」


 息ができない。


 恐怖という感情すら通り越し、生物としての本能が「死」を理解させようとしてくる。


「くっ、うぅ……ッ!」


 隣で副隊長が膝をつく音がした。


 A級の彼女ですら、その圧倒的なプレッシャーに魂を削られ、震えている。


 空間の裂け目がミチミチと音を立てて広がり、金色の瞳がヌルリとこちらの世界へ近づいてくる。


 このままでは、このビルごと「あちら側」へ引きずり込まれる。


 ◆ ◆ ◆


「……副隊長! 石だ!」


 俺は恐怖で麻痺しそうな舌を噛み切り、口の中に広がる鉄錆の味で正気を保って叫んだ。


「あの石が『目印』になってる! あれをどうにかしないと、リンクは切れない!」


 俺の声が、副隊長の意識を絶望の淵から引き戻したようだ。


 彼女は弾かれたように顔を上げ、床に転がる『黒い石』を睨みつけた。


「……させないわよ!」


 副隊長が悲鳴に近い気合いと共に、右手を突き出す。


 彼女の全身から、これまでにないほどの冷気——いや、生命力そのものを変換したような青白い光が噴き出した。


「絶対零度・封棺アブソリュート・コフィンッ!!」


 バキキキキキッ!!


 大気が凍りつく音が、悲鳴のように響き渡る。


 放たれたのは、分子運動すら停止させる極低温の波動だ。


 それは黒い石を一瞬で包み込み、何層にも重なる分厚い氷の結晶の中に封じ込めた。


 同時に、空間の裂け目にも氷の蓋が張り詰められ、あの金色の瞳を覆い隠していく。


『……小癪ナ。ダガ、覚エテオクガイイ』


 最後の思念波が、俺の脳に焼きつくように響いた。


『貴様ノ魂ニハ、我ガ刻印ヲ刻ンダ。イズレ、迎エニ行コウ』


 その瞬間——全身を貫くような、言いようのない悪寒が走った。


「ッ——!?」


 体のどこかが痛いわけじゃない。


 だが、もっと深い場所——魂そのものを、何かで焼き印を押されたような感覚。


 ……気のせいか?


 いや、今はそんなことを考えている余裕はない。


 ズゥゥゥン……という重い地響きと共に、空間の穴は強制的に閉じられた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」


 術が解けた瞬間、副隊長が糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。


「副隊長!」


 俺は慌てて駆け寄り、彼女の体を支える。


 ——柔らかい。


 腕の中に収まった彼女の体は、戦闘時の鋭さとは裏腹に、驚くほど女性らしい曲線を描いていた。


 スーツ越しに感じる豊満な胸の感触が、俺の腕に押し付けられる。


 ——いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。


 体温が異常に低い。魔力を使い果たし、生命活動ギリギリのラインだ。


「……やった、わね。なんとか、追い返せ、た……」


 副隊長が青ざめた顔で、弱々しく笑う。


 よかった。最悪の事態は回避できた。


 だが、安堵したのも束の間だった。


 ◆ ◆ ◆


 ピシッ。パキパキパキ……。


 不穏な音が、部屋の四方から響き始めた。


 見れば、副隊長が展開した強力すぎる冷気が、老朽化したビルの柱や壁を急速に冷却収縮させている。


 そこへ、先ほどの空間干渉の負荷がかかり——


 ドゴォォォォンッ!!


 天井の一部が落下し、凄まじい粉塵が舞い上がった。


 俺の視界に、真っ赤な警告が点滅する。


緊急警報アラート:建造物崩壊開始】

【予測崩壊時間:60秒】

【退避推奨】


「しまっ……建物が限界だ! 崩れるぞ!」


 俺は叫んだ。


 だが、今の副隊長に走る体力なんて残っていない。俺が担いで走るか? いや、俺の貧弱な筋力じゃ、瓦礫の雨を避けて逃げ切るのは不可能だ。


 その時。


 副隊長が俺の胸ぐらを掴み、強引に引き寄せた。


「鑑定士君! ルートは見えてる!?」


「え?」


「安全なルートよ! 私には魔力枯渇で視界が歪んで見えない! あなたが指示しなさい!」


 彼女の瞳に、戦士の火が戻っていた。


 そうだ。彼女はA級。腐っても超人だ。魔力は尽きても、身体能力フィジカルは俺より遥かに上だ。


 俺は即座に『鑑定』を発動し、崩落するフロアを見渡した。


【床板:耐久度低下(踏めば抜ける)】

【鉄骨:構造維持(あと30秒は持つ)】

【ルート:右側の壁沿い→階段の手すり上→生存率80%】


「右だ! 壁沿いに走って、階段の手すりに飛び乗れ! 真ん中は抜けるぞ!」


「了解! 舌を噛まないようにね!」


 ◆ ◆ ◆


 次の瞬間、俺の体は宙に浮いていた。


 副隊長が俺を米俵のように小脇に抱え、人間離れした脚力で跳躍したのだ。


「うわああああっ!?」


 ジェットコースターなんてもんじゃない。


 副隊長は俺の指示通りに壁を蹴り、崩れ落ちる床を飛び越え、崩壊する階段の手すりを平均台のように駆け抜けていく。


 抱えられた体勢のせいで、彼女の胸が俺の顔のすぐ横にある。


 スーツの隙間から覗く白い谷間が、跳躍のたびに激しく揺れる。


 ——いや、今は本当にそんなこと考えてる場合じゃない! 死ぬ!


「次は!?」


「正面の窓だ! そこから路地裏へ飛び降りろ!」


「掴まって!」


 ガシャァァァン!!


 俺たちはガラスを突き破り、夜の新宿の空へと飛び出した。


 背後で、巨大な質量が圧壊する轟音が響く。


 雑居ビルが内側から押し潰されるように倒壊し、土煙が生き物のように窓から吹き出した。


 俺たちはもつれるようにして、路地裏のゴミ捨て場に着地した。


 ◆ ◆ ◆


「げほっ、ごほっ……」


 俺は咳き込みながら、地面に大の字になった。


 生きてる。


 心臓が痛いほど早鐘を打っていたが、確かに生きている。


「……無事?」


 隣で、すすだらけになった副隊長が起き上がった。


 美しいパンツスーツはあちこち裂け、ポニーテールも解けてしまっている。


 ——だが、その下から覗く肌は白く、乱れた黒髪が妖艶に頬にかかっていた。


 不覚にも、ドキリとしてしまう。


「なんとか……。あんたこそ」


「平気よ。……ありがとう。あなたがルートを見つけてくれなかったら、今頃コンクリートの詰め物になっていたわ」


 副隊長は俺の方を見て、ニカリと笑った。


 初めて見せる、年相応の無邪気な笑顔だった。


 ……不覚にも、少し可愛いと思ってしまった。


 ◆ ◆ ◆


「さて」


 副隊長は立ち上がり、パンパンと服の汚れを払うと、瞬時に「影守り」の副隊長の顔に戻った。


 懐から、ヒビの入ったスマートフォンを取り出し、素早く操作を始める。


 部下への指示だろうか。


「権田の確保と『封印した石』の回収は、応援部隊に任せたわ。……あ、そうだ」


 副隊長はスマホから顔を上げ、俺を見た。


「あの『逆鱗の欠片』、私が直接回収して保管しておくから。あなたも覚えておいて」


 ……なるほど。あの危険な石は、副隊長が預かるということか。


 確かに、あれだけの魔力を持つアイテムを野放しにするわけにはいかない。


「了解です。……で、俺はこれで帰っていいですか?」


「ダメよ」


 副隊長はスマホの画面を俺に向けた。


 そこには、何やら複雑な電子書類が表示されている。


「はい、これ」


「……なんですか、これ」


 俺は薄暗い街灯の下で、画面に目を凝らした。


 画面のヘッダーには、重々しい菊の紋章。そして——


【内閣府特務機関『影守り』・特別技能職採用通知書(電子交付済)】


「……は?」


「さっきの移動中に本庁へ申請しておいたわ。あなたは今日から、私の専属鑑定士よ」


 副隊長は満面の笑みで、とんでもないことを言い放った。


「え、あ、いや……いつの間に!? ていうか俺、サインしてないんですけど!」


「緊急時特例措置よ。事後承諾でオッケー」


 彼女は悪びれもせずスマホをしまった。


 ◆ ◆ ◆


「ちょ、ちょっと待ってください! 俺は平穏に暮らしたいんです! 公務員とか興味ないし、こんな命がけの職場、御免ですよ!」


 俺が抗議すると、副隊長はスッと表情を真面目なものに変え、一歩近づいてきた。


「……拒否するのは自由よ。でも、その場合は『S級機密保持法』が適用されるわ」


「えっ」


「一般人として帰すなら、あなたの脳から今日の記憶を全て消去しなきゃならない。……言ったでしょう? 脳波干渉はリスクが高いって。運が悪ければ廃人、よくても重度の記憶障害が残るわ」


 副隊長は淡々と、しかし逃げ場のない事実を突きつけた。


「それに、あの『目』……何だったかは分からないけど、とんでもない存在に見られた以上、あなたはもう『関係者』よ。今さら何も知らない一般人に戻れると思う?」


 飴と鞭、どころの話じゃない。


 「死か、服従か」の二択だ。


 俺が言葉を失って立ち尽くしていると、副隊長はふっと表情を緩め、少しだけはにかむように言った。


「それに……言ったじゃない。『私の背中にいろ』って」


「……言いましたね。それが何か?」


「前言撤回するわ。私の背中に隠れているだけじゃダメ」


 副隊長は俺の手を取り、力強く握りしめた。


 その手は、氷使いとは思えないほど温かかった。


「私にも見えない死角リスクを、あなたのその『目』で見抜いて、守って欲しいの」


 その言葉に、俺は言葉を詰まらせた。


 あの崩壊するビルの中で、命を預け合った感触。


 俺の指示を疑わず、迷いなく虚空へ跳んだ彼女の信頼。


 ……ズルい。


 そんな顔で言われたら、断れるわけがないじゃないか。


「……はぁ」


 俺は深く、長く、あきらめのため息をついた。


 東の空が白み始めている。


 新宿の街に、新しい朝が来ようとしていた。


「……残業代、ちゃんと出るんでしょうね」


「もちろんよ。たっぷり働いてもらうから」


 こうして、俺の「平穏なコンビニ店員生活」は終わりを告げた。


 代わりに始まったのは、日本の裏側を守る、過酷で刺激的な二重生活だった。


(第5話 完)

【あとがき】

お読みいただきありがとうございます!

深淵の王に「見られた」悠真。

魂に何かが刻まれた……?

そして、シオリに手を差し伸べられ、影守りへの道が開けました。

平穏なコンビニ店員生活は終わり、二重生活の始まりです。

次回、影守り本部へ!


少しでも面白い、続きが気になる!

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