表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平穏なコンビニバイト生活を送りたいのに、呪印のせいで美女たちが密着してくる件〜人生底辺のバイト生活崩壊中〜  作者: 崖っぷちしゃちょー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/9

第4話「半竜化した男」

【前回までのあらすじ】

異能がバレてS級事件の捜査に協力することになった悠真。

シオリと共に権田を追跡し、廃ビルに追い詰めた。

3階奥に権田とS級相当の脅威がいることを発見。

シオリが強行突破を決断した。

───────────────────────


【12月3日(火) 深夜4時 新宿】


───────────────────────


 ヒュン、ヒュン、ヒュンッ!


 風を切る音と共に、シオリが生み出した無数の氷柱つららが、薄暗い階段を駆け上がっていく。


「ギャッ——」


「ギギッ!?」


 断末魔を上げる暇もなかった。


 襲い来る異形の鼠たちは、眉間、喉、心臓といった急所を正確に貫かれ、次々と絶命して階段を転がり落ちていく。


 俺はその光景を、副隊長の背後から呆然と眺めていた。


 凄まじい。


 ただの乱れ撃ちじゃない。彼女は俺の忠告通り、建物の壁や柱には傷一つつけず、魔物だけをピンポイントで射抜いているのだ。


 ◆ ◆ ◆


「……3階に着くわよ。残弾(魔力)は温存したいから、指示を出して」


 副隊長が肩で息をしながら、鋭く告げる。


 額には薄らと汗が滲んでいた。いくらA級とはいえ、これだけの精密操作を連発すれば精神力の消耗は激しいはずだ。


 彼女は髪を払いながら振り返った。


 その動きに合わせて、スーツの胸元がふわりと揺れる。


 ——いや、今はそんなこと見てる場合じゃない。


「了解。……廊下の奥、突き当たりの『305号室』だ」


 俺は『鑑定』の視界を凝らし、ドス黒い魔力の奔流を見極める。


「扉の前に罠はない。……けど、中の反応が膨れ上がってる。急いだほうがいい」


「ええ」


 副隊長が頷き、俺たちは腐りかけた廊下を走る。


 床板がミシミシと悲鳴を上げ、天井からは正体不明の粘液が糸を引いて垂れ下がっていた。


 305号室。


 かつては消費者金融の事務所か何かだったのだろうか。


 鉄製の重厚なドアの隙間から、赤黒い光が漏れ出している。


「開けるわよ」


 副隊長はドアノブに手をかざすと、一瞬で凍結させて破壊した。


 そして、流れるような動作で室内へと踏み込む。


「影守りだ! 抵抗をやめ——っ!?」


 副隊長の警告は、途中で凍りついた。


 俺もまた、彼女の背中越しにその光景を見て、言葉を失った。


 そこは、地獄の釜の底だった。


 ◆ ◆ ◆


 部屋中の家具は弾け飛び、壁も床も、脈打つような血管状の組織に覆われている。


 そして部屋の中央。


 かつて権田だったモノが、そこにいた。


「あ……あぁ……、すげぇ……力が……」


 権田は、部屋の真ん中で膝をつき、両手で『黒い石』を大事そうに捧げ持っていた。


 だが、その姿は異様だった。


 石を持った腕から、漆黒の鱗が皮膚を突き破って増殖し、肩へ、首へと侵食しているのだ。


 右目は赤く充血し、瞳孔が爬虫類のように縦に裂けている。


 口からはよだれと共に、黒い霧のような瘴気が吐き出されていた。


「け、警察か……? 渡さねぇ……これは俺のもんだ……」


 権田がギロリと俺たちを睨む。


 その瞬間、俺の視界に禍々しい赤のウィンドウが炸裂した。


緊急警報アラート:高脅威対象検知】

【対象:眼前・距離3m】

【脅威レベル:B+(上昇中)】

【状態:深淵の王の呪い / 半竜化(Dragonoid)】


 ドクンッ!!


 心臓が跳ね上がる。


 同時に、対象への詳細鑑定が自動で発動した。


【氏名:権田(侵食率:78%)】

【状態:深淵の王の呪い / 半竜化(Dragonoid)】

【脅威度:B+(上昇中)】

【思考(表層):殺戮衝動 / 独占欲】

【弱点:侵食核となっている右腕の切断】


「……マズい! 副隊長、あいつもう人間じゃねえ!」


 俺は叫んだ。


「手に持ってる『逆鱗の欠片』に乗っ取られてる! あと少しで完全に自我が消えて、化け物になるぞ!」


「ッ! 確保は不可能と判断、排除する!」


 副隊長が即断し、右手を突き出す。


 瞬時に生成された氷の槍が、権田の腕を狙って射出された。


 だが。


「俺の……宝だァアアアッ!!」


 権田が獣のような咆哮を上げた。


 すると、彼を覆う黒い瘴気が爆発的に膨れ上がり、副隊長の氷槍を空中で粉砕したのだ。


 パァアンッ!


 砕け散った氷の破片が、ダイヤモンドダストのように舞う。


「なっ……私の氷を、障壁だけで!?」


 副隊長が驚愕に目を見開く。


 A級異能者の攻撃を、たかがブローカー風情が防げるはずがない。あれは『逆鱗の欠片』そのものが持つ魔力による自動防御だ。


 ◆ ◆ ◆


「殺す……俺の宝を奪う奴は、殺すッ!!」


 権田の背中から、影でできた翼のようなものが噴き出した。


 彼は人間離れした跳躍力で床を蹴り、副隊長に向かって突っ込んでくる。


 速い。


 しかも、その腕にはコンクリートすら粉砕しそうな魔力が圧縮されている。


 俺の視界に警告が激しく点滅する。


緊急警報アラート:攻撃接近】

【回避推奨】


「くっ!」


 副隊長は咄嗟に目の前に分厚い氷の壁を展開した。


 ドガァアアンッ!!


 凄まじい衝撃音が響き、氷壁に亀裂が走る。


 その余波で、部屋全体が大きく揺れた。


 天井からパラパラと粉塵が落ちてくる。


「っ……!」


 俺は悲鳴を上げそうになった。


 建物の耐久度は限界なんだ。こんな怪獣大決戦を室内でやられたら、俺たちは瓦礫の下敷きになって死ぬ。


「副隊長! 正面からやり合うな! 建物が保たない!」


「分かってるわよ! でも、あんなデタラメな出力、どう抑えろって言うの!?」


 副隊長が珍しく焦りの声を上げた。


 彼女の氷結魔法は強力だが、相手を無力化するには火力が要る。だが火力を出せば建物が崩壊する。完全に詰み(チェックメイト)だ。


 権田が二撃目を振り上げる。


 副隊長が防戦一方になれば、いずれ押し切られる。


 どうする。


 俺に何ができる?


 俺はただの鑑定士だ。戦う力なんてない。


 ——いや。


 戦う力はないが、『見る』力はある。


 ◆ ◆ ◆


 俺は必死に目を凝らし、暴れ狂う権田の姿をスキャンした。


 情報の奔流が脳を焼くような痛みを伴って流れ込んでくる。


 見ろ。探せ。


 あの無敵に見える瘴気の鎧にも、必ず『穴』があるはずだ。


 魔力の流れ。筋肉の動き。侵食のパターン。


 全てを情報として処理しろ。


 ……見えた。


 権田の右腕。鱗に覆われたその肘の関節部分。


 そこだけ、魔力の巡りが薄い一点スポットがある。


 かつて古傷でもあったのか、あるいは侵食のズレか。


「……副隊長!」


 俺は叫んだ。


「右肘だ! 奴の右肘の内側、数センチだけ防御が薄い!」


「えっ?」


「そこを狙えば腕ごともげる! 一点集中で撃ち抜いてくれ!」


 一瞬の躊躇。


 だが、副隊長は俺の言葉を信じた。


「……信じるわよ、鑑定士!」


 副隊長は防御壁を解除し、身を低くして権田の懐へと滑り込んだ。


 捨て身のカウンター。


 権田の爪が彼女の髪を裂くよりも速く、副隊長の指先が権田の右肘に突き立てられる。


「——穿て(ピアス)!」


 ズドンッ!!


 極限まで圧縮された氷の弾丸が、ゼロ距離で放たれた。


 それは権田の魔力障壁の隙間を縫うように通り抜け、脆弱な関節を内部から破裂させた。


「ギャアアアアアッ!?」


 ドサリ、と重い音が響く。


 肘から先を切断された権田の右腕が、黒い石を握りしめたまま床に落ちたのだ。


 本体から切り離された瞬間、『逆鱗の欠片』の輝きが失われる。


 同時に、権田の体を覆っていた鱗や瘴気が、行き場を失って霧散していった。


 ◆ ◆ ◆


「あ……が……、ぁ……」


 権田は白目を剥き、泥人形のようにその場に崩れ落ちた。


 切断面からはどす黒い血が溢れ、全身が小刻みに痙攣している。


 俺はおそるおそる近づき、彼を『鑑定』した。


【氏名:権田】


【状態:昏睡(重体) / 精神汚染(重度)】


【備考:侵食は停止したが、脳細胞の30%に不可逆的な損傷あり】


「……なんてザマだ」


 俺は顔をしかめた。


「息はありますが、ボロボロだ。……肉体の変異は腕を落として止まりましたが、脳へのバックラッシュが酷すぎる。助かっても、もうまともな意識は戻らないかもしれない」


「……そう。それでも、サンプルとして生きて回収できるだけマシよ」


 副隊長は冷徹に言い放ちながらも、その表情には僅かな痛ましさが浮かんでいた。


 彼女は乱れた髪を払い、床に転がる切断された右腕——そこにある『黒い石』を見下ろして、小さく息を吐いた。


 その拍子に、汗で張り付いたシャツの胸元が強調される。


 戦闘の激しさを物語るように、スーツのボタンが一つ外れていた。


 隙間から覗く白い肌と、押し上げられた豊満な曲線——


 ——いや、今はそんなこと見てる場合じゃない。何回目だ俺。


「本当に、見えているのね」


 彼女は振り返り、へたり込んでいる俺を見た。


 その瞳には、先ほどまでの冷徹な評価者としての色ではなく、確かな信頼と、少しの畏怖が混じっていた。


「ナイスアシストよ、鑑定士君。あなたの指示がなければ、私も危なかったわ」


「……どうも。追加手当、ガッツリ期待してますよ」


 俺が震える声で軽口を返した、その時だった。


 ◆ ◆ ◆


 ゴゴゴゴゴ……。


 不気味な地響きが、足元から伝わってきた。


 いや、建物が崩れる音じゃない。


 これはもっと、底知れない場所から響いてくる——


「なんだ……?」


 俺は床に落ちている『黒い石』を見た。


 権田から離れたはずの石が、再び明滅を始めている。


 その瞬間、俺の視界に最悪の警告が浮かび上がった。


緊急警報アラート:異常事態発生】

【対象:深淵の王の逆鱗(欠片)】

【状態:共鳴反応を検知】

【リンク先:新宿大深度地下迷宮・第99層『王の間』】

【警告:ゲート・リンク構築中——退避を推奨】


「……嘘だろ」


 俺の呟きに、副隊長が緊張した面持ちで問う。


「何? 何が見えているの?」


「逃げましょう、全力で」


 俺は立ち上がり、副隊長の手首を掴んだ。


「この石、ただの素材じゃない。『端末』だ」


「端末?」


「本体……第99層にいる『深淵のドラゴン』が、この石を通してこっち側(地上)を見つけてしまった」


 次の瞬間。


 黒い石を中心に空間がねじれ、小さな、しかし決定的な『穴』が開いた。


 そこから覗いていたのは——巨大な金色の眼球だった。


(第4話 完)

【あとがき】

お読みいただきありがとうございます!

権田、半竜化!

そして黒い石から覗く、巨大な金色の眼球……。

第99層の『深淵の王』が、悠真を見つけてしまった!?

次回、運命の邂逅——。


少しでも面白い、続きが気になる!

と思ったら、下のブックマークや

☆☆☆☆☆を★★★★★にして応援いただけると嬉しいです!

執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ