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平穏なコンビニバイト生活を送りたいのに、呪印のせいで美女たちが密着してくる件〜人生底辺のバイト生活崩壊中〜  作者: 崖っぷちしゃちょー


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第3話「追跡開始」

【前回までのあらすじ】

コンビニ店員・悠真は「真贋鑑定」の異能を隠して生きていた。

権田が「深淵の王の逆鱗」を持ち込んだ夜、A級エージェント・シオリが現れる。

異能がバレた悠真は、協力するか逮捕かの二択を迫られ、

S級事件の捜査に協力することになった。

───────────────────────


【12月3日(火) 深夜3時半 新宿】


───────────────────────


 深夜の新宿を、漆黒の高級セダンが滑るように走る。


 車内は重苦しい沈黙に包まれていた。


 後部座席の真ん中に押し込められた俺の左右には、岩のような筋肉をしたスーツの男たち。


 そして助手席には、氷の異能者・如月シオリが座り、タブレット端末で何やら複雑な地図データを操作している。


「……現在位置、歌舞伎町二丁目。信号を右折して」


 俺は車窓の外を流れる景色を見つめながら、淡々と指示を出した。


 俺の視界には、現実のネオンサインとは別の、どす黒い光の帯が見えていた。


 アスファルトの上に点々と残る、赤黒い燐光りんこう


 それは、権田が持ち出した『深淵の王の逆鱗の欠片』から漏れ出る魔力の残滓ざんしだ。


 まるで、傷口が腐敗していくような、ひどく不快な色をしている。


「右折ね。……急いで」


 副隊長が短く運転手に命じる。


 車がGを感じさせない滑らかさでカーブを曲がった。


 ◆ ◆ ◆


「驚いたわね」


 前を見据えたまま、副隊長が不意に口を開いた。


「これほどの魔力残滓を、車で移動しながら視認できるなんて。本庁の探知機なら、立ち止まって数分間のスキャンが必要なレベルよ」


「俺の目は、見たくないものまで映しちゃうんでね」


 俺は皮肉交じりに答えた。


 今でこそ、この『真贋鑑定トゥルース・アイ』は自分の意思でオンオフができるようになった。


 だが、昔は違った。


 ——十年前、この力を手に入れた直後は、制御なんてまったくできなかった。


 すれ違う人間の頭上に、勝手に【状態:泥酔】【状態:風邪の初期症状】【借金:300万円】なんて情報がポップアップして。


 もっと最悪なのは、人の『思考』まで見えてしまったことだ。


 ……いや、今は考えるな。


 あの頃のことは、思い出したくない。


「ターゲットとの距離は?」


「近いですよ。……それに、嫌な予感がする」


 俺は眉をひそめた。


 目的地に近づくにつれて、視界に映る『情報』にノイズが走り始めているのだ。


 街路樹の葉が、データ落ちしたようにモザイク状に欠けて見える。


 ガードレールの鉄が、液状に溶けかかっているように歪んで見える。


 現実リアルが、侵食されている。


 ◆ ◆ ◆


「……あそこの路地裏で止めてください。車じゃ入れない」


 俺の指示で、車が急停止した。


 そこは、ラブホテルや怪しげな無料案内所がひしめく、歌舞伎町の深部だった。


 車を降りた瞬間、肌にまとわりつくような湿気と、腐った卵のような異臭が鼻をついた。


「うっ……なんだ、この臭い」


 同乗していたスーツの男の一人が、顔をしかめて鼻を覆う。


「硫黄の臭いじゃない。……魔素の濃度が上がっているのよ」


 副隊長が鋭い声で警告した。


 彼女は懐から特殊警棒のようなデバイスを取り出し、カシャリと展開させる。切っ先から冷気が漏れ出した。


「一般人は下がらせて。ここからは『交戦区域』になる可能性があるわ」


 副隊長の指示で、部下たちが周囲の封鎖を始める。


 俺はその背中越しに、路地の奥に佇む一棟の古びた雑居ビルを睨みつけた。


 魔力の痕跡は、そのビルの中へと吸い込まれている。


 だが、問題はそれだけじゃない。


 ◆ ◆ ◆


 俺は目を細め、そのビル全体を『鑑定』した。


 視界に赤い警告ウィンドウが重なる。


【名称:第3長嶺ビル】

【築年数:42年】

【状態:空間侵食進行中(深度2)】

【耐久度:E(崩壊寸前)】

【内部反応:多数の生命反応あり(人間ではない)】


「……おい、副隊長さん。突入前に悪いニュースが2つある」


 俺は副隊長の袖を引いて呼び止めた。


「1つ目。中でパーティが開かれてるみたいだ。人間じゃない連中の反応がうじゃうじゃある」


「……害獣の変異種ね。想定内よ」


「問題は2つ目だ。このビル、魔力侵食で柱も壁もボロボロだぞ。判定は『耐久度E』……いつ崩れてもおかしくない。アンタが中で派手にドカンとやったら、俺たち全員仲良く生き埋めだ」


 その言葉に、副隊長の表情が引き締まった。


 彼女はビルを見上げ、瞬時に戦術を修正する思考を見せた。


「……なるほど。爆発系の術式と、建物の構造に響くような広範囲魔法は禁止、ということね」


「そういうこと。針の穴を通すようなコントロールで頼みますよ」


「任せなさい。私の氷は、メスよりも精密よ」


 副隊長は不敵に微笑んだ。


 さて、情報は渡した。


 ◆ ◆ ◆


「それじゃ、俺の役目はここまでだ。場所は『3階の奥の部屋』だ。俺は車の中で応援してますんで」


 俺が踵を返そうとした、その時。


 ガシッ、と細い手が俺の肩を掴んだ。


 万力のような力強さだ。


「……痛い痛い! なんですか副隊長」


「どこへ行く気? あなたも来るのよ」


「はあ!? 俺は非戦闘員ですよ! 場所は教えたでしょう!」


 俺の抗議に対し、副隊長は冷徹に首を横に振った。


「ダメよ。このビルの内部、魔素が濃すぎて私の『魔力探知』が乱反射しているわ。まるで霧の中よ」


 彼女は真剣な眼差しで俺を見据える。


 ——近い。


 副隊長は俺との距離感がまったくない。


 顔がすぐ目の前にある。彼女の吐息が肌に触れそうなほどだ。


「3階と言っても広いわ。正確な部屋、隠された罠、そして潜んでいる権田の正確な位置……それをリアルタイムで見抜けるのは、あなたの『目』だけなの」


「で、でも、俺が行ったら足手まといに……」


「それに、ここも安全じゃないわ」


 副隊長が顎で周囲をしゃくった。


 路地の闘の奥で、無数の赤い目が光り始めている。S級アイテムの臭いに釣られて集まってきた、下級魔物たちだ。


「私から離れる方が死ぬわよ。……私の背中にいなさい。指一本触れさせないから」


 そう言いながら、副隊長は俺の腕を引いた。


 その拍子に、俺の腕が彼女の胸元に押し付けられる。


「——っ」


 柔らかい。


 スーツ越しでも分かる、確かな弾力。


 Gカップの感触が、俺の腕を包み込むように——


「どうしたの? 顔が赤いわよ?」


「い、いえ、なんでもないです」


 副隊長は全く気づいていない。


 この人、パーソナルスペースという概念がないのか?


 俺は動揺を必死に隠しながら、究極の二択を突きつけられた。


 外で雑魚魔物の群れに食い殺されるか、中でボス戦の巻き添えになるか。


 副隊長の実力を考えれば、彼女の後ろが一番安全なシェルターであることは間違いない。


「……はあ。時給アップ交渉、後で絶対にしますからね」


「善処するわ。行くわよ」


 ◆ ◆ ◆


 俺たちは、暗い口を開けたビルの入り口へと足を踏み入れた。


 一階のエントランスホール。


 かつてはスナックの集合看板があったであろう場所は、壁紙がドロドロに溶け落ち、コンクリートが剥き出しになっていた。


 蛍光灯は明滅し、バチバチと火花を散らしている。


 S級アイテムの魔力が、周囲の環境を書き換え始めているのだ。


 これが『深淵の王』の力か。欠片ひとつで、現実世界をここまで歪めるとは。


「2階だ」


 俺は階段を指差した。


 階段の手すりは錆びつき、赤い粘液のようなものが垂れている。


 俺たちが慎重に階段を上ろうとした、その時だった。


 ギチチチチ……。


 階段の踊り場の闇から、硬質な音が響いた。


 何か、硬いものがコンクリートを削るような音。


 ——その瞬間、俺の視界に赤い警告が点滅した。


緊急警報アラート:敵性存在接近中】

【方向:前方上段】

【数:1体】


【脅威レベル:D級】


「来ますよ! 前方、踊り場!」


 俺が叫んだ直後——


「来るわよ」


 副隊長も同時に囁いた。


 次の瞬間、闇の中から飛び出してきたのは、犬ほどの大きさがある巨大な『鼠』だった。


 だが、ただの鼠ではない。


 背中から骨が突き出し、眼球が三つある異形の怪物だ。


「シャアアアアッ!!」


 怪物が牙を剥き出しにして、先頭の副隊長に飛びかかる。


「——凍れ」


 副隊長は表情ひとつ変えなかった。


 彼女がデバイスを一閃させる。


 パキンッ!


 澄んだ音が響いた瞬間、空中に跳躍していた怪物は、一瞬にして氷の彫像へと変わっていた。


 慣性で飛んできた氷像が、床に落ちて粉々に砕け散る。


「すげえ……」


 俺は思わず呟いた。


 これがA級、『氷の魔女』如月シオリの実力か。


 魔法の詠唱すらなく、瞬時の魔力操作だけで対象を凍結させたのだ。


「感心している場合じゃないわ。……増えるわよ」


 副隊長の視線の先。


 階段の上から、さらに数匹、いや十数匹の異形鼠が、赤い目を光らせて雪崩れ込んできた。


 俺の視界に、次々と警告が表示される。


緊急警報アラート:複数の敵性存在接近中】

【数:12体】

【脅威レベル:D〜C級】


「『逆鱗の欠片』の魔力に当てられて、都市の害獣が変異ミューテーションしたのね。……厄介だわ」


「こいつら、雑魚ですが数は多いですよ。それに……」


 その時、俺の視界に新たな警告が点滅した。


 さっきまでの警報とは比較にならない、禍々しい赤色。


緊急警報アラート:大規模脅威検知】

【位置:3階奥・推定距離20m】

【脅威レベル:測定不能(S級相当)】

【備考:『深淵の王』の魔力反応と酷似】


 鼠ごときとは比べ物にならない。


 まだ姿は見えていないが、緊急警報がここまで激しく反応するのは初めてだ。


「権田の野郎、とんでもない場所で店を広げやがったな」


 俺はため息をつきつつ、副隊長の背中に向かって叫んだ。


「3階の奥の部屋です! そこに権田と……もう一体、デカいのがいます!」


「了解。……強行突破する!」


 副隊長が手を掲げる。


 廊下の空気が急激に冷やされ、無数の氷のつぶてが生成された。


 俺の「非日常」な夜は、まだ始まったばかりだった。


(第3話 完)

【あとがき】

お読みいただきありがとうございます!

悠真の鑑定能力で、権田の居場所を特定!

廃ビルに追い詰めますが、敵は黙って捕まるつもりはなさそうです。

シオリの氷の異能が炸裂!

次回、権田との対決!


少しでも面白い、続きが気になる!

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