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平穏なコンビニバイト生活を送りたいのに、呪印のせいで美女たちが密着してくる件〜人生底辺のバイト生活崩壊中〜  作者: 崖っぷちしゃちょー


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第2話「氷の魔女」

【前回までのあらすじ】

深夜のコンビニ店員・悠真は「真贋鑑定」の異能を隠して生きていた。

聖女マリアを裏口から逃がしてコネ作りに成功した直後、

権田が「深淵の王の逆鱗」を持ち込んできた。Sランク国家機密級だ。

危険すぎてスルーしたが、A級エージェント・如月シオリが店に現れた。

───────────────────────


【12月3日(火) 深夜3時10分 新宿】


───────────────────────


 ふいに、店舗の自動ドアが開く音がした。


 ウィーン。


 軽快な入店チャイムは鳴らなかった。


 センサーが反応するよりも速く、何者かが侵入した証拠だ。


 俺がハッとしてレジカウンターから顔を上げると同時——


「——動くな」


 低い男の声と共に、視界が黒いスーツの影に埋め尽くされていた。


「ッ!?」


 速い。


 俺が反応する暇もなかった。


 いつの間にかカウンターの左右に回り込んでいた大柄な男たちに、俺は両腕を捻り上げられ、冷たいカウンターテーブルに顔面を押し付けられた。


「ぐ、うぅ……っ!」


 プロの制圧術だ。


 痛みはないが、身動き一つ取れない。


 俺の視界の端で、男の一人が店舗の入り口の鍵をかけ、ドアの看板を『準備中』へと手早く裏返すのが見えた。


 深夜のコンビニが、瞬時にして密室の尋問室へと変わる。


 ◆ ◆ ◆


 俺の目の前に、コツ、コツ、とヒールの音が近づいてきた。


「手荒な真似をしてすまないわね。けれど、逃げられては困るの」


 頭上から降ってきたのは、鈴を転がすように美しいが、絶対零度の響きを含んだ女性の声だった。


 俺はどうにか首だけ動かし、そのあるじを見上げる。


 ——息を呑んだ。


 夜の闇を溶かしたような艶やかな黒髪を、動きやすいポニーテールにまとめた美女。


 肌は陶磁器のように白く、切れ長の瞳は、俺という存在を品定めするように細められている。


 着ているのはタイトなパンツスーツだが、その立ち居振る舞いには、鍛え上げられた戦士特有の隙のなさがある。


 場違いなほど美しい。


 だが、その背後に漂う魔力の圧は、俺の肌を粟立たせるほど濃密だった。


 ◆ ◆ ◆


 自動的に、俺のスキルが発動する。


 彼女の頭上に、青いウィンドウが浮かび上がった。


【氏名:如月 シオリ(きさらぎ しおり)】

【年齢:26歳】

【スリーサイズ:92-58-89(Gカップ)】

【所属:内閣府特務機関『影守り』第一実働部隊・副隊長】

【ランク:A級異能者】

【スキル:氷結操作(Glacier Control)】

【異名:氷の魔女(Ice Queen)】

【思考(表層):『逆鱗の魔力反応を追跡……この店から強い残留魔力。店員が何か知っている可能性あり』】


 A級。


 国内に百人もいないと言われる、トップクラスのエリートだ。


 しかも『氷の魔女』。


 裏社会では知らぬ者のいない、影守りのエースじゃないか。


 そんな化け物が、なんでこんなしがないコンビニに来るんだよ。


 ——あと、Gカップ?


 スーツ姿だと分かりづらいが、着痩せするタイプなのか。


 ……いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。


 ◆ ◆ ◆


「単刀直入に聞くわ」


 副隊長と呼ばれたその女性は、カウンター越しに俺の顔を覗き込み、冷徹に告げた。


「直前に店を出た男——権田というブローカーね。彼、何を置いていった?」


「は、はい? 権田さんなら、いつものようにお酒を買って……」


「とぼけないで」


 副隊長の瞳が、剣呑な光を帯びる。


 バックヤードから漏れる冷蔵庫の駆動音だけが、やけに大きく響いた。


「この店周辺で、局所的な高濃度魔力反応を検知したわ。S級相当の波長よ。権田ごときが扱える代物じゃない。彼がここへ持ち込み、そして持ち出した。そうね?」


 ……バレてる。


 完全にロックオンされていたらしい。


 俺を取り押さえている男たちの腕に、僅かに力がこもる。


 思考する俺の耳元で、取り押さえている男の一人が短く告げた。


「副隊長、一般人との問答は時間の無駄です。とりあえず『本庁』へ連行し、脳波スキャンにかければ真実は分かります」


「……そうね。緊急事態だもの、許可するわ」


 副隊長があっさりと頷く。


 男が俺の腰に手を伸ばし、手錠のような拘束具を取り出そうとした。


 その瞬間、俺の脳内でありとあらゆる思考がスパークした。


 ◆ ◆ ◆


 マズい。脳波スキャンだと?


 あれは表向きは安全とされているが、実際には脳の記憶野に強引な魔力干渉を行う荒療治だ。


 運が悪ければ記憶障害、最悪の場合は廃人になるリスクがある。


 俺は必死に、今の状況におけるメリットとデメリットを天秤にかけた。


 このまま黙秘を続け、一般人として振る舞うか?


 ——いや、それは悪手だ。彼らにとって一般人は「守る対象」であると同時に、作戦の邪魔になれば排除すべき「障害物」でしかない。記憶処理され、ポイ捨てされるのがオチだ。


 では、鑑定スキルを明かすか?


 ——これには巨大なデメリットがある。


 未登録の異能者であることがバレれば、俺の「平穏な日常」は完全に崩壊する。


 国家に目をつけられ、一生「便利な道具」として飼い殺しにされるかもしれない。


 自由を失うリスクだ。


 だが……唯一のメリットが、そこにある。


 それは、俺が排除できない重要人物に昇格できることだ。


 このエリート女(副隊長)が喉から手が出るほど欲しがっている情報を、俺だけが持っていると示せれば。


 俺は「ただの容疑者」から、対等な「取引相手パートナー」になれる。


 廃人になるか、自由を賭けた交渉に出るか。


 答えなんて、決まっている。


(……ふざけんなよ!)


 俺の中で、覚悟が決まった。


 大人しくしていれば、どいつもこいつも。


 俺の平穏な生活を、なんだと思っていやがる。


 俺は深く息を吸い込み、腹に力を入れて叫んだ。


「——その拘束具、『未覚醒者保護法』の適用外だろ!」


 ピタリ。


 男の手が止まった。


 副隊長の眉が、怪訝そうにピクリと動く。


「……なんですって?」


 ◆ ◆ ◆


 俺は拘束が緩んだ一瞬の隙を突き、体を捻って男の腕から逃れると、カウンターを背にして副隊長と対峙した。


 ここからは、情報戦だ。


 俺の最大の手札スキルをテーブルに叩きつけ、自分の価値を売り込む。


「アンタらが『影守り』だってことは知ってます。裏社会の秩序を守る正義の味方なんでしょう? だったら、一般人を令状なしで脳波スキャンにかけるのは、手続き上マズいんじゃないですかね。副隊長さん」


 店内を沈黙が支配した。


 男たちが動揺して顔を見合わせる。


 だが、副隊長だけは違った。


 彼女の瞳から事務的な色が消え、代わりに獲物を狙う猛獣のような、鋭い興味の光が宿る。


「……あなた、何者?」


 副隊長が右手を軽く振るう。


 その指先に、微細な氷の結晶が舞った。


 威嚇だ。


 下手に嘘をつけば、俺の首から上は氷漬けにされるだろう。


 俺は両手を挙げて降参のポーズを取りながら、視界に映るウィンドウの情報を読み上げた。


「ただのコンビニ店員ですよ。……少しだけ、目がいいだけの」


「目がいい?」


「権田が持っていたのは、黒い石でした。大きさはこぶし大。形状からして、ただの鉱石じゃない。あれは生物の一部……おそらく『竜の鱗』だ」


 副隊長の目が驚愕に見開かれた。


「見ただけで、そこまで分かったというの? ……まさか、鑑定スキル持ち?」


「ええ。しかも、ただの鱗じゃない。あれは『深淵の王の逆鱗の欠片』……新宿ゲート最深部のボスの素材だ。アンタらが血眼になって探してる理由も、それでしょ?」


 ハッタリではない正確無比な情報。


 それがもたらす衝撃は、銃弾よりも重い。


 副隊長は数秒間、俺を凝視し——やがて、氷のような表情を崩して、ふっと口元を緩めた。


 それは美しくも、どこか獰猛な笑みだった。


「……なるほど。状況が変わったわ」


 ◆ ◆ ◆


 副隊長は俺を捕まえようとしていた男たちを、片手で制した。


 その瞳の中で、冷徹な計算が走るのを俺は感じた。


「おい、離しなさい」


「副隊長!? しかしこいつは未登録の……」


「本庁に連行して脳波スキャン……なんて悠長なことをしている時間はないのよ」


 副隊長は鋭い口調で部下を黙らせると、俺の方を向いた。


「あの『逆鱗の欠片』は、持っているだけで強力な魔物を引き寄せる、歩く災害誘発機よ。一刻も早く回収しなければ、新宿が火の海になるわ。手続きに数時間もかけていられない」


 彼女はそこで言葉を切り、俺の目を覗き込んだ。


「それに、今の私たちのセンサーでは、ただ『強い反応がある』ことしか分からない。隠密スキル持ちの権田をピンポイントで追うには精度が足りないの。……けれど、あなたなら?」


「……残り香のように残った魔力の痕跡が見えます。それを辿れば、奴の居場所まで案内できる」


「決まりね」


 副隊長は満足げに頷いた。


 彼女にとって俺は、もはや「容疑者」ではなく、事件解決に不可欠な「生きた高性能レーダー」に昇格したのだ。


 ◆ ◆ ◆


「驚いたわ。まさかこんな場末のコンビニに、未登録の『鑑定士』が埋もれていたなんて。……逃がすわけにはいかないわね」


 彼女はゆっくりと俺に歩み寄ってきた。


 良い匂いがした。


 柑橘系の香水の奥に、凍てつくような魔力の匂いが混じっている。


 彼女はカウンター越しに、俺の名札を指先で弾く。


「タチバナ……ユウマ君、と言ったかしら」


「は、はい」


「その『目』、どこまで正確なの?」


「……コンビニ弁当の上げ底を見抜くくらいには」


 俺の軽口に、副隊長は小さく鼻を鳴らした。


「いい度胸ね。選択肢をあげるわ」


 彼女は顔を近づけ、逃げ場のない距離で囁いた。


 近い。


 柑橘系の香りが鼻腔をくすぐる。


 そして——彼女が身を乗り出した瞬間、スーツの胸元が俺の腕に押し付けられた。


「——っ!?」


 柔らかい。


 着痩せするタイプだとは思っていたが、想像以上のボリュームだ。


 スーツの下に隠されていた膨らみが、俺の腕に確かな弾力を伝えてくる。


 だが、副隊長本人はまったく気づいていない。


 彼女はそのまま顔を近づけ、俺の目を覗き込んだ。


「一つ。今すぐ私たちに同行して、権田の追跡に協力する。報酬は弾むし、あなたの身の安全も『影守り』が保証するわ」


「……ふ、二つ目は?」


 俺は動揺を必死に隠しながら聞き返す。


 腕に感じる柔らかさが、思考を乱してくる。


「公務執行妨害と重要物資隠匿の容疑で逮捕。暗い取調室で、私がじっくりとカツ丼を食べさせてあげる」


 実質、選択肢なんてないようなものだった。


 やはり、俺は『道具』として目をつけられたらしい。


 だが、俺を利用しようとするその合理性は、今の俺にとっても好都合だ。少なくとも脳を焼かれる未来は回避できた。


 ここから先は、俺の仕事ぶり次第で待遇を良くしていくしかない。


 俺は大きなため息をつき、着ていた制服のエプロンを脱ぎ捨てた。


 その拍子に、副隊長の胸が俺の腕から離れる。


 ——正直、少し名残惜しかった。いや、そんなこと考えてる場合じゃない。


「……時給発生しますか? それ」


「特別手当を出してあげるわよ。さあ、行くわよ、鑑定士君」


 副隊長が踵を返す。


 俺は男たちに促され、深夜のコンビニを後にする。


(店長、ごめん。早退します)


 田中店長には悪いが、「橘くぅん、また急に休んでぇ」と間延びした声で愚痴を言われるのは明日の話だ。


 こうして俺は、廃棄弁当の処理をするはずだった深夜の時間に、世界の命運を左右するS級事件の捜査へと巻き込まれることになったのだった。


(第2話 完)

【あとがき】

お読みいただきありがとうございます!

シオリに捕まった悠真。

S級事件の捜査に巻き込まれることに……。

コンビニの廃棄弁当処理は明日に持ち越しです。

店長、ごめんなさい。

次回、権田を追跡開始!


少しでも面白い、続きが気になる!

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