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平穏なコンビニバイト生活を送りたいのに、呪印のせいで美女たちが密着してくる件〜人生底辺のバイト生活崩壊中〜  作者: 崖っぷちしゃちょー


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第1話「深淵の王の逆鱗」

【前回までのあらすじ】

深夜のコンビニ店員・橘悠真は「真贋鑑定」の異能を隠して生きていた。

ある夜、変装した聖女マリアがスイーツを爆買いに来店。

悠真は裏口から逃がしてあげ、コネ作りに成功した。

───────────────────────


【12月3日(火) 深夜3時 新宿】


───────────────────────


「いらっしゃいませー」


 俺、橘悠真たちばな ゆうまは、死んだ魚のような目で、誰もいない入り口に向かって声を上げた。


 深夜三時。


 自動ドアが開く軽快なチャイム音が、静まり返った店内に虚しく響く。


 店内に漂うのは、廃棄時間を過ぎたホットスナックの酸化した油の臭いと、強力な業務用洗剤の混ざった独特の空気。


 頭上では、寿命が近い蛍光灯がジジ、ジジ、と不愉快な羽音のようなノイズを立てている。


 客はいない。


 入ってきたのは、ビル風に煽られた枯れ葉が一枚だけだった。


「……はあ」


 俺はレジカウンターに頬杖をつき、ガラスに映る自分の顔を見る。


 伸びかけの黒髪に、隈の浮いた気力のない瞳。


 どこにでもいる、くたびれた二十五歳のフリーターの顔だ。


 ◆ ◆ ◆


 東京都新宿区、歌舞伎町の外れ。


 煌びやかなネオンの残骸と、吐瀉物のシミが点在するアスファルトの境界線にあるこのコンビニは、俺にとっての『聖域セーフエリア』だ。


 時給1,200円。


 決して高くはないが、深夜帯は客も少なく、店長も優しい。


 その店長——田中勤、48歳——は、いつも額に汗を浮かべた小太りのおじさんだ。


 「橘くぅん」と間延びした声で俺を呼び、美顔器を巡って妻と修羅場中らしい。


 たまにリフレッシュサロン帰りの香水が強すぎてバレバレなのはご愛嬌だ。


 今日は早番で上がったから、店には俺一人。


 静かで、平和で、退屈な夜。


 ——だが、俺の視界には、普通の人間には見えない『情報』が常に溢れている。


 ◆ ◆ ◆


 俺は手元にあった売れ残りの『手巻きおにぎり(ツナマヨ)』へと、気だるげに視線を落とした。


 網膜のピントを、現実のその先へと合わせる。


 瞬間、視界が青白く発光した。


 おにぎりの上に、半透明のホログラムウィンドウが浮かび上がる。


【名称:手巻きおにぎり(ツナマヨ)】

【品質:E】

【状態:廃棄推奨(消費期限まで残り10分)】

【備考:具材の充填率が規定より5%少ない。製造ラインの不具合による誤差】


「……具材ケチってんじゃねえよ、工場。誤差じゃねえだろ」


 俺の固有スキル『真贋鑑定トゥルース・アイ』。


 対象を見ただけで、その物質の名称、品質、価値、そして『隠された情報』までをも丸裸にする能力だ。


 SF映画に出てくるARグラスのようなこの視界は、俺が望もうと望むまいと、世界の裏側を暴き立てる。


 普通なら、骨董品の目利きや、あるいは研究機関で引く手あまたの能力かもしれない。


 だが、俺はこの力を隠し、こうして時給1,200円の夜勤バイトとして日常にしがみついている。


 理由は単純。


 この世界が、十年前に"壊れて"しまったからだ。


 ——そして、俺自身も。


 ◆ ◆ ◆


 ガラス越しに見える外の景色は、一見すると平和な東京の夜だ。


 だが、そのアスファルトのさらに下、大深度地下には、無数の亜空間——通称『影門シャドウゲート』が口を開けている。


 政府はこれを「地盤沈下による危険区域」として封鎖し、一般市民には真実をひた隠しにしている。


 だが、実際にはそこは異形の怪物が跋扈し、現代の物理法則を無視した資源が眠る魔境だ。


 俺のような、ゲートの影響で特殊能力に目覚めた『異能者』たちは、政府や裏社会の組織に管理され、モルモットのように扱われるか、危険なゲート探索に動員されるのがオチだ。


 そんなのは御免だ。


 俺はただ、平和にスマホゲームをして、温かい布団で眠りたいだけなんだ。


 だから俺は、末端ブローカー相手に小遣い稼ぎをする程度に留めている。


 彼らは俺を「目利きのいい買取屋」程度にしか思っていないし、それでいい。


 組織に目をつけられない、このくらいの距離感がちょうどいい。


 ◆ ◆ ◆


「……そろそろ来る頃か」


 俺が壁の時計を見上げたその時、再びチャイムが鳴った。


 今度は枯れ葉ではない。


 生臭い風と共に、泥と埃にまみれた茶色いトレンチコートの男が入ってきた。


 強烈な異臭が鼻をつく。


 ドブ川のヘドロのような臭いと、鉄錆のような——血の匂い。


 常連客の権田ごんだだ。


 猫背で、目元は落ち窪み、病的なほど肌が白い。


 表向きはホームレスだが、その正体は影門から持ち出された素材を売りさばく、裏社会の末端ブローカーである。


「よう、兄ちゃん。いつもの」


 しゃがれた声と共に、薄汚れた手がカウンターに置かれた。


 爪の間には黒い土が詰まっている。


「はいよ。ワンカップとチキンですね」


 俺は表情筋を殺し、慣れた手つきでレジを打つ。


 営業スマイルと敬語は完璧だ。接客業の賜物である。


 権田は小銭を探してポケットをまさぐりながら、濁った黄ばんだ瞳でニヤニヤと笑った。


「今日はツイてたぜ。浅い層で『魔結晶のクズ』を拾ってな。これで三日は豪遊できる」


「そりゃよかったですね。……あんまり深入りしないでくださいよ、最近『影守り』の巡回が厳しいらしいですから」


「はんッ、あの役人崩れの異能者どもか。俺の隠密スキルなら見つかりゃしねえよ」


 権田は鼻を鳴らし、ポケットからクシャクシャの千円札を取り出そうとした。


 その時だ。


 破れたポケットの裏地から、小銭と一緒に『黒い石ころ』がこぼれ落ちた。


 カラン、でも、ゴトッ、でもない。


 ズゥン……と、重い鉛を落としたような、奇妙に腹に響く音がした。


「おっと、いけねえ。ただの石っころだが、記念に拾ってきたんだ」


 権田が慌てて拾おうとする。


 俺は何気なくその石に視線を向け——


 ——そして、呼吸を忘れた。


 ◆ ◆ ◆


 ドクンッ!!


 心臓が早鐘を打つ。


 視界が、警報色である毒々しいレッドに染め上げられた。


 脳内を直接揺さぶるような警告音と共に、禍々しい深紅のウィンドウが視界を埋め尽くす。


【名称:深淵の王の逆鱗(欠片)】

【ランク:S(国家機密級)】

【品質:極上】

【属性:闘 / 破壊】

【起源:新宿大深度地下迷宮・第99層『王の間』】

【推定市場価格:50億円以上】

【備考:所持しているだけで周囲の精神を汚染する。また、強烈な魔力波を発しており、半径5km以内の高ランク感知者に位置が露見する】


(……は?)


 俺は全身の毛穴が収縮するのを感じた。


 背中を冷たい汗が伝う。


 Sランク? 50億?


 いや、それよりも『第99層』だって?


 現在、政府最強の部隊ですら、新宿ゲートの到達記録は『第40層』のはずだ。


 なぜ、こんなどこの馬の骨とも知れないブローカーが、人類未踏破である最深部の、しかもボスの体の一部を持っている?


 その石は、店内の白い蛍光灯の光をすべて吸い込むように、不気味なほどの漆黒を湛えていた。


 ただの石ころじゃない。


 これは、核弾頭のスイッチが床に転がっているようなものだ。


 ◆ ◆ ◆


「……兄ちゃん? どうした?」


 俺が固まっているのを不審に思ったのか、権田が顔を近づけてきた。


 ドブの臭いが濃くなる。


 濁った瞳が、俺の動揺を見逃すまいと探るように動く。


 ヤバい。


 ここで動揺を見せれば、俺が何か知っていると怪しまれる。


 信頼できる末端ブローカー相手ならともかく、権田はまだそこまでの関係じゃない。


 そして何より——Sランク素材を見抜けるほどの鑑定眼を持っていることがバレれば、組織に目をつけられる。


 『影守り』のような正規組織に俺の能力が知られたら、自由は終わりだ。


 拉致され、死ぬまでアイテム鑑定マシーンとして酷使される未来が待っている。


 俺は奥歯を噛みしめ、瞬時に『無気力なコンビニ店員』の仮面を被り直した。


「いえ……お客さん、それ」


「あ?」


「燃えるゴミの日、明日なんで。ゴミ落とさないでくださいよ」


「……ケッ、相変わらず愛想のねえガキだ」


 権田は興味を失ったように鼻を鳴らすと、安堵の息を吐いた。


 石をポケットにねじ込み、ワンカップをひったくって店を出て行く。


 ウィーン……ガシャン。


 自動ドアが閉まる音が、やけに大きく聞こえた。


 ◆ ◆ ◆


 俺はその場にへたり込みそうになる膝を必死に支え、額に滲んだ冷や汗を手の甲で乱暴に拭った。


「……とんでもないもん持ち込みやがって」


 心臓の鼓動がまだ落ち着かない。


 備考欄の警告が正しければ、あと数分もしないうちに、この店周辺には血眼になった組織の連中か、あるいは強力な魔物が集まってくるはずだ。


 早く逃げたほうがいいか?


 いや、今シフトを抜ければ逆に怪しまれる。


 防犯カメラにも俺の姿はばっちり映っている。


 どうする。どうすれば日常を守れる?


 思考をフル回転させようとした、その時だ。


 俺の視界の端で、新たなウィンドウが激しく点滅した。


 ◆ ◆ ◆


 それは、先ほどの鑑定結果とは違う——俺自身への緊急警告だった。


 『緊急警報アラート』。


 真贋鑑定の派生スキルで、自分に危険が迫った時に自動で発動する。


緊急警報アラート:敵性存在接近中】

【対象:『影守り』エージェント】

【数:3名】

【距離:店舗裏口まで残り5メートル】

【脅威レベル:A級1名、B級2名】


「……マジかよ」


 俺は絶望的な気分で天井を仰いだ。


 薄汚れた天井のシミが、俺を嘲笑っているように見える。


 A級が来てる。


 しかも三人。


 完全に包囲されている。


 どうやら、俺の平穏なコンビニバイト生活は、今日この瞬間をもって終わりを告げたらしい。


 ◆ ◆ ◆


 静寂の中。


 ふいに、店舗の自動ドアが開く音がした。


 ウィーン。


 入ってきたのは、一人の女だった。


 黒髪のロングヘアが、冷たい夜風に揺れる。


 パンツスーツに身を包んだ長身の美女。


 切れ長の瞳は、まるで氷のように冷たく——そして、どこか妖艶だった。


 だが、俺の目を引いたのは顔だけじゃない。


 スーツの上からでも分かる、豊満な胸元。


 歩くたびに、その膨らみがふるりと揺れる。


 着痩せするタイプなのか、スーツの下に隠された曲線は予想以上のボリュームだった。


 ——いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。


 俺は反射的に彼女を『鑑定』した。


【氏名:如月 シオリ(きさらぎ しおり)】

【年齢:26歳】

【スリーサイズ:92-58-89(Gカップ)】

【所属:内閣府特務機関『影守り』第一実働部隊・副隊長】

【ランク:A級異能者】

【スキル:氷結操作(Ice Control)】

【異名:氷の魔女(Ice Queen)】

【思考(表層):『逆鱗の魔力反応を追跡……この店から強い残留魔力。店員が何か知っている可能性あり』】


 ——A級。


 しかも『氷の魔女』。


 裏社会では知らぬ者のいない、影守りのエースだ。


 そして——Gカップ。


 着痩せするタイプだったか。


 ……いや、だから今はそんなこと考えてる場合じゃねえって。


 彼女は店内をゆっくりと見回し、そして——俺を見た。


 冷たい瞳が、俺を射抜く。


「——そこのコンビニ店員」


 彼女の声は、凍てつくような冷たさを帯びていた。


「少し、話を聞かせてもらえるかしら?」


 俺の喉が、ゴクリと鳴った。


 深夜のコンビニに、国家機密級のアイテムと、A級の美女エージェント。


 ——俺の平穏な日常は、今夜、完全に崩壊した。


(第1話 完)

【あとがき】

お読みいただきありがとうございます!

A級エージェント・如月シオリ登場!

「氷の魔女」と呼ばれる美女が、悠真のコンビニに現れました。

国家機密級アイテムを巡り、平穏な日常が崩壊していく——。

次回、シオリとの対峙!


少しでも面白い、続きが気になる!

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