第18話「共犯者」
【前回のあらすじ】
御子柴の報復により、ウロボロスの追手が襲来。
首都高での激しいカーチェイスの末、悠真は鑑定能力で弱点を見抜き、反魔の石で結界を破壊。
追手を撃退した二人は、芝浦PAで「共犯者」として乾杯を交わした——
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【12月10日(火) 午後2時 霞が関・影守り本部】
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昨夜の死闘から十二時間後。
俺は影守り本部の会議室で、天城局長と向き合っていた。
「——以上が、昨夜の経緯です」
シオリさんが報告を終える。
彼女の頬には、まだ小さな絆創膏が貼られていた。ガラスの破片で切れた傷だ。
局長は腕を組んだまま、しばらく沈黙していた。
重厚な革張りの椅子が、ギシリと音を立てる。
「……ウロボロスか」
低く、唸るような声。
「厄介な連中に目をつけられたな」
「申し訳ありません。私の判断で闇ルートに接触したことが——」
「いや、責めてるわけじゃない」
局長が手を振った。
「御子柴との接触自体は悪い判断じゃなかった。聖遺物の情報網を持つ人間は限られる。……ただ、予想以上に根が深かったということだ」
局長はデスクの上のファイルを開いた。
「ウロボロス。裏社会の最大勢力であり、闇ギルド、密輸、暗殺——ありとあらゆる違法行為に手を染めている犯罪組織だ」
俺は黙って聞いていた。
昨夜の追手たちの練度は、素人目にも分かるほど高かった。あれが組織の『末端』だとしたら、本体の戦力は計り知れない。
「幸い、昨夜の部隊は御子柴の私的な依頼だったようだ。組織の正式な任務ではない」
「つまり、ウロボロス本部は俺たちを標的にしているわけではない……?」
「今のところはな。だが、油断はするな。御子柴が組織に報告すれば、状況は変わる」
局長の目が鋭く光る。
「特に——橘。お前の『鑑定眼』は、連中にとって垂涎の的だ。どこにお宝が眠っているか分かる能力なんて、犯罪組織からすれば喉から手が出るほど欲しい」
「……気をつけます」
俺は深く頷いた。
コンビニ店員が、犯罪組織に狙われる身になるとは。人生、何があるか分からない。
◆ ◆ ◆
会議が終わり、俺とシオリさんは本部のカフェテリアに移動した。
午後の日差しが、大きな窓から差し込んでいる。
俺はアイスコーヒーを、シオリさんは紅茶を注文した。
「……疲れましたね」
「そうね。昨夜はほとんど眠れなかったし」
シオリさんが優雅にカップを傾ける。
その仕草は相変わらず絵になるが、目の下にはうっすらと隈ができていた。
「シオリさんこそ、傷は大丈夫ですか?」
「これ? 大したことないわ。魔力で治癒を促進してるから、明日には消えるわよ」
彼女は絆創膏に触れながら、少し照れたように笑った。
「……それより、昨夜はありがとう。あなたがいなかったら、どうなっていたか分からないわ」
「俺は石を投げただけですよ。運転も戦闘も、全部シオリさんがやったじゃないですか」
「その『石を投げた』が決定打だったのよ。……本当に、あなたって不思議な人ね」
シオリさんが俺を見つめる。
その瞳には、複雑な感情が渦巻いていた。
「戦闘能力はゼロ。魔力もCランク相当。なのに、いつも土壇場で状況をひっくり返す」
「鑑定チートですから」
「チートって……。まあ、否定はしないけど」
彼女はくすりと笑った。
◆ ◆ ◆
しばらく、穏やかな沈黙が流れた。
カフェテリアには他に人影はなく、静かな時間が過ぎていく。
「……ねえ、ユウマ君」
「はい?」
「昨夜、私たちは『共犯者』になったわね」
シオリさんが紅茶をかき混ぜながら、静かに言った。
「闇ブローカーとの接触。犯罪組織との戦闘。……これって、完全に違法行為よね」
「まあ、そうですね」
「正規の手続きを踏まずに動いた。報告も事後。……本来なら、処分されてもおかしくないわ」
彼女の声には、どこか自嘲的な響きがあった。
「でも、後悔はしてないの。あなたの呪印を解くためなら、多少のルール違反は——」
「シオリさん」
俺は彼女の言葉を遮った。
「俺のために、そこまでしてくれる理由は何ですか?」
ずっと聞きたかったことだ。
A級エリートの彼女が、なぜここまで俺に肩入れしてくれるのか。
任務だから? それだけとは思えない。
シオリさんは少し驚いた顔をしたが、やがてふっと笑った。
「……最初は、罪悪感だったわ」
「罪悪感?」
「あなたを巻き込んだのは私よ。あの夜、コンビニに押しかけて、無理やり協力させて——結果、あなたは呪印を刻まれた」
彼女の目が伏せられる。
「だから、責任を取らなきゃって思った。あなたの呪いを解くまで、絶対に見捨てないって」
「……」
「でも、今は違うの」
シオリさんが顔を上げた。
その瞳は、真っ直ぐに俺を見つめていた。
「あなたと一緒にいると、楽しいのよ。ダンジョン探索も、闇ブローカーとの交渉も、カーチェイスも——全部、スリリングで、刺激的で」
彼女の頬が、わずかに赤く染まる。
「私、こんな風に誰かと『対等』に冒険したことなかったの。いつも『A級魔導士』として、周りから距離を置かれてた」
「シオリさん……」
「だから——」
彼女は少し照れたように、視線を逸らした。
「これからも、一緒に戦ってくれる? ……私たちの『老後資金』を稼ぐために」
——老後資金。
その言葉に、俺の心臓が跳ねた。
「私たちの……老後?」
「あ」
シオリさんが固まった。
自分の言葉の意味に、遅れて気づいたらしい。
「ち、違うわよ!? 変な意味じゃなくて!」
「いや、俺は何も——」
「あくまで『ビジネスパートナー』としての! 将来的な活動資金って意味で! 別にあなたと一緒に住んで、結婚して、子供を育てて、老後を過ごすとか、そういう——」
「だから、そこまで言ってないですって!」
具体的すぎる否定が、かえって怪しい。
シオリさんの顔が、みるみる真っ赤に染まっていく。
いつもの冷徹なエリートの仮面が、完全に剥がれ落ちていた。
……この人、本当に可愛いところがあるな。
「と、とにかく! 深い意味はないの! 忘れなさい!」
「はいはい、分かりましたよ」
俺は笑いながら、アイスコーヒーを飲んだ。
だが、心の奥では——
『私たちの老後』という言葉が、妙に嬉しかったりする自分がいた。
◆ ◆ ◆
その時、シオリさんのスマートフォンが鳴った。
「……はい、如月です」
彼女は素早く表情を切り替え、電話に出た。
「……はい。……はい、分かりました。すぐに向かいます」
電話を切ると、シオリさんは俺を見た。
「局長からよ。新しい任務が入ったわ」
「任務?」
「ええ。……『聖女護衛任務』ですって」
俺は目を丸くした。
「聖女って——マリアさんですか?」
「そうよ。どうやら、教団側から正式に護衛の依頼が来たらしいわ」
シオリさんが立ち上がる。
「詳細は局長室で聞くわ。……行きましょう、ユウマ君」
「ちょ、ちょっと待ってください。俺も行くんですか?」
「当然でしょ? あなた、マリアに気に入られてるんだから」
シオリさんがニヤリと笑った。
「聖女様の『お気に入りの店員さん』として、しっかり働いてもらうわよ」
「いや、俺コンビニ店員なんですけど……」
「今さら何を言ってるの。……行くわよ」
俺はため息をつきながら、彼女の後に続いた。
聖女護衛任務。
マリアさんとの再会。
そして——バチカンへの道が、また一歩近づく。
……時給、ガッツリ期待していいんですよね?
(第18話 完)
【あとがき】
お読みいただきありがとうございます!
「私たちの老後資金」発言、シオリさん動揺しすぎですね。
悠真も満更でもなさそうで……。
次回「聖女護衛任務」
マリアとの再会! スイーツの力は偉大です。
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