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平穏なコンビニバイト生活を送りたいのに、呪印のせいで美女たちが密着してくる件〜人生底辺のバイト生活崩壊中〜  作者: 崖っぷちしゃちょー


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第15話「隠された宝」

───────────────────────


【12月9日(月) 午後3時 碧水晶の洞窟・深層】


───────────────────────


 隠し通路は、想像以上に狭かった。


 大人一人がやっと通れる程度の幅。天井も低く、シオリさんは何度か頭をぶつけそうになっている。


「……狭いわね。これ、本当に正規のルートなの?」


「さあ。でも、魔力の流れはこの奥に向かってますよ」


 俺は壁に手を当てながら、慎重に足を進めた。


 通路の両側には、入り口付近とは比べ物にならないほど高密度の水晶が埋め込まれている。


 それぞれが淡い青色の光を放ち、まるで海の底を歩いているような錯覚を覚えた。


 空気は冷たく、湿っている。どこかで水が流れる音がかすかに聞こえる。


 そして——空気が、甘い。


 蜂蜜のような、花のような、濃密な香りが鼻腔を満たす。


 これは魔力の『匂い』だ。入り口付近とは桁違いの濃度。


 俺は『鑑定』を発動させながら進んだ。


【名称:魔力水晶(中品質)】→【価値:C(1キロ5万円)】

【名称:魔力水晶(高品質)】→【価値:B(1キロ50万円)】

【環境:高濃度魔力領域】→【警告:長時間滞在で魔力酔いの危険あり】


「おお……入り口付近とは桁が違いますね。ただ、魔力濃度がかなり高い。シオリさん、大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫よ。A級の私が、この程度で——」


 シオリさんの言葉が、途中で途切れた。


「……あら?」


 彼女がふらりとよろめく。


 俺は慌てて彼女の腕を掴んだ。


「シオリさん!?」


「だ、大丈夫……。ちょっと、目眩が……」


 シオリさんの頬が、ほんのりと赤く染まっている。


 目は潤み、吐息が少し荒い。


 まるで——酒に酔っているような。


「魔力酔いだ……」


 俺は呟いた。


 高濃度の魔力環境に長時間滞在すると発症する状態異常。A級異能者でも、この濃度の魔力に曝されれば無事ではいられない。


 症状は、平衡感覚の乱れ、視界の歪み、思考・判断力の低下——そして、神経過敏。


 つまり、体の感覚が異常に鋭敏になる。


「シオリさん、引き返しましょう。このまま進むのは危険です」


「だ、大丈夫よ……。まだ、歩ける……」


 シオリさんは強がるが、明らかに足取りがおぼつかない。


 俺は彼女の腕を自分の肩に回し、体を支えた。


「無理しないでください。俺が支えますから」


「……ん、ありがと……」


 シオリさんが、俺の肩に体重を預けてくる。


 柔らかい感触が、俺の脇腹に押し当てられた。


 (っ……! 当たってる……!)


 着痩せするタイプだと聞いていたが、密着すると分かる。この人、とんでもない爆弾を隠し持っている。


「ねえ、ユウマ君……」


「は、はい!?」


「あなた、平気なの……? この魔力濃度で……」


 言われて、俺は気づいた。


 確かに、俺は全く平気だ。甘い匂いは感じるが、目眩も吐き気もない。


 なぜだ?


 俺はCランク相当の魔力しか持たない。本来なら、シオリさんより先にダウンしているはずだ。


「……ちょっと待ってください」


 俺は周囲を見回した。


 壁一面に埋め込まれた高純度の水晶。その表面は鏡のように滑らかで、俺の姿をぼんやりと映し出している。


 (これなら、いけるかもしれない)


 俺は水晶の前に立ち、そこに映る自分の姿に向けて『鑑定』を発動した。


 普段、自分自身を鑑定することはできない。だが、鏡や反射面を通せば——


 青白いウィンドウが展開される。


【名称:橘 悠真】

【種族:人間?】

【称号:深淵を覗き返した者】

【状態:呪印(深淵の王)——Loss】

【特殊効果:魔力吸収(周囲の魔力を自動吸収し、体内で変換)】

【備考:高濃度魔力環境下でも魔力酔いを発症しない】


「……魔力吸収」


 俺は呟いた。


「どう、したの……?」


「俺の呪印に『魔力吸収』って効果があるみたいです。周囲の魔力を勝手に吸い取って、体内で変換してる」


 だから、この高濃度の魔力も、俺の体が片っ端から吸収している。


 結果として、魔力酔いを発症しない。


「呪印の副作用が、皮肉にも俺を守ってるってことですね……」


 シオリさんは熱っぽい目で俺を見上げた。


「便利ね……。ずるいわ……」


「便利っていうか、代償がデカすぎるんで、あんまり喜べないですけどね……」


 俺は苦笑しながら、シオリさんを支えて歩き続けた。


 ◆ ◆ ◆


 さらに五分ほど進んだ時、通路が突然開けた。


「うわ……」


 俺は息を呑んだ。


 そこは、巨大なドーム状の空間だった。


 天井は高く、見上げると星空のように無数の水晶が瞬いている。


 だが、俺の目を引いたのは、部屋の中央にそびえ立つ『それ』だった。


「なに、あれ……」


 シオリさんも、酔った目のまま絶句している。


 高さ三メートルはあろうかという、巨大な結晶の塊。


 色は深い藍色。その表面には、まるで薔薇の花弁のような模様が浮かび上がっている。


 そして何より——結晶全体から、圧倒的な魔力が放射されていた。


 俺は『鑑定』を発動した。


【名称:蒼薔薇の結晶群クラスター

【ランク:A】

【分類:天然魔力結晶(超高純度)】

【推定価値:3億円以上(国家買取対象)】

【特性:魔力増幅、魔法触媒、回復促進】

【備考:この規模の天然結晶群は、世界でも数例しか確認されていない】


「……三億」


 俺は声が震えた。


「シオリさん、これ、三億以上ですよ。国家買取対象」


「さん、おく……。すごい、ね……」


 シオリさんは俺に寄りかかったまま、とろんとした目で結晶を見上げている。


 完全に酔っ払いの反応だ。普段のクールな彼女からは想像もつかない。


 (……魔力酔い、思った以上にヤバいな)


 俺は結晶に近づき、その表面に触れようとした。


 その時だ。


 ピクリ。


 視界の端で、何かが動いた。


「——ッ!」


 俺は咄嗟に後ろに跳び、シオリさんを抱えて地面を転がった。


 直後、俺たちがいた場所を、巨大な『舌』が薙ぎ払った。


 ドゴォッ!!


 岩の地面が抉れ、破片が飛び散る。


「きゃっ……!」


 シオリさんが小さく悲鳴を上げる。


 魔力酔いで神経が過敏になっているせいか、衝撃に対する反応が大きい。


「シオリさん、敵です! 戦えますか!?」


「た、たぶん……」


 頼りない返事だ。


 だが、敵の姿が見えない。


 舌だけが、虚空から伸びてきたように見えた。


「どこだ……!」


 俺は必死に周囲を見回す。


 天井。壁。地面。


 どこにも、それらしい敵影はない。


 だが、俺の『目』は、わずかな違和感を捉えていた。


 (……いた。壁の色が、微妙にズレてる)


 俺は視線を固定し、『鑑定』を発動した。


【名称:結晶カメレオン(クリスタル・シャモン)】

【ランク:B+】

【分類:擬態型魔獣】

【特性:周囲の環境に完全同化。熱探知・魔力探知も無効化】

【弱点:擬態解除時の0.3秒間、体表が軟化する】

【状態:空腹(縄張り防衛モード)】


「シオリさん! 壁に擬態してます! 右斜め上、二時の方向!」


「りょ、了解……!」


 シオリさんがふらつきながらも右手を掲げた。


 氷の槍が生成される——が、いつもより小さく、形も歪んでいる。


 パキキキキッ!!


 氷槍が『壁』に突き刺さった。


 ——だが。


「外れた……!?」


 氷槍は壁を砕いただけで、敵には届いていない。


 カメレオンは擬態を解き、天井へと跳躍していた。


 その姿が、初めて露わになる。


 体長四メートルはある巨大なトカゲ。全身が水晶のような鱗で覆われ、長い舌が獲物を狙って蠢いていた。


「くっ……魔力酔いのせいで、狙いが……」


 シオリさんが悔しそうに歯噛みする。


 カメレオンは再び壁に張り付き、一瞬で周囲の色に溶け込んだ。


 消えた。


「シオリさん、俺に任せてください」


「でも、私が戦わないと……」


「俺が位置を教えます。シオリさんは、俺の合図で撃ってください」


 俺はシオリさんの肩を掴み、彼女の目を見た。


「攻撃の瞬間、擬態が解けます。その0.3秒間だけ、体表が軟化する。そこを狙ってください」


「0.3秒……」


「信じてください」


 シオリさんは酔った目のまま、しかし確かに頷いた。


「……分かったわ。任せる」


 ◆ ◆ ◆


 静寂が支配する。


 俺は息を殺し、周囲を睨んだ。


 (……いた)


 天井の隅。わずかに光の屈折が乱れている場所。


「来ます。天井、十時の方向。三、二、一——」


 ビュンッ!!


 巨大な舌が、俺目掛けて射出された。


「今だッ!!」


 俺が叫ぶと同時に、シオリさんが動いた。


「『氷槍・三連トリプル・ランス』!」


 三本の氷の槍が、空中で軌道を変え、舌の根元——カメレオンの口内へと殺到する。


 ズドドドッ!!


 擬態が解けた瞬間の、軟化した体表を貫く。


「ギィィィィッ!!」


 断末魔の叫びと共に、カメレオンが天井から落下してきた。


 その巨体が、真っ直ぐ俺たちの方に——


「やば……ッ!」


 避けられない。


 俺は咄嗟にシオリさんを抱えて跳んだ。


 だが、足元の水晶の破片に足を取られ、バランスを崩す。


「きゃあっ……!」


 シオリさんを巻き込んで、俺たちは地面に倒れ込んだ。


 ズシャァァァン!!


 直後、カメレオンの巨体が、俺たちのすぐ横に墜落した。


 危なかった。あと一秒遅れていたら、俺たちは潰されていた。


「……っ、はぁ、はぁ……」


 俺は荒い息をつきながら、体を起こそうとして——


 固まった。


 俺は、シオリさんの上に覆いかぶさっていた。


 そして、俺の右手は——彼女の胸を、がっつり鷲掴みにしていた。


 むにゅ。


 指が沈み込む感触。弾力と柔らかさが、掌に直接伝わってくる。


「んっ……!?」


 シオリさんの体が、びくんと跳ねた。


 その反応が、いつもより大きい。


 ——そうだ。魔力酔いで、感覚が過敏になってる。


 つまり、今の彼女は——


「あ、っ……やっ……」


 シオリさんの顔が真っ赤に染まる。


 目は潤み、唇は微かに開いて、荒い吐息が漏れている。


 いつものクールな氷の魔女の面影はない。


「っ……ゆ、ユウマくん……そこ、だめ……」


 甘い、蕩けるような声。


 普段の凛とした声とは全く違う。


 (やばいやばいやばい……!!)


 俺の心臓が爆発しそうなほど跳ねる。


 このまま動かないと、俺の理性が限界を迎える。


 だが、手を離そうとした瞬間——


「……っ、ひゃっ……!」


 シオリさんの体が再び跳ねた。


 手を離す動きですら、過敏になった彼女には刺激になってしまったらしい。


 (どうすりゃいいんだこれ……!)


 俺は顔を背け、必死に冷静さを取り戻そうとした。


「し、シオリさん! すみません! 今すぐどきますから!」


「……っ、は、早く……」


 俺は慎重に、できるだけ刺激を与えないように体を起こした。


 心臓がバクバクいっている。


 手のひらに残る柔らかい感触が、いつまでも消えない。


 (事故だ……断じて故意じゃない……でも、あの声は……あの反応は……)


 やばい。色々とやばい。


 ◆ ◆ ◆


 しばらくして、シオリさんの魔力酔いが少し落ち着いてきた。


 とはいえ、まだ顔は赤いし、俺と目を合わせようとしない。


「……さっきの件」


「す、すみませんでした! 本当に事故で——」


「責任、取れるの?」


 シオリさんが、潤んだ目で俺を睨んだ。


 いや、睨んでいるつもりなのだろうが、魔力酔いのせいで目が潤んでいて、全然怖くない。むしろ、どこか艶っぽい。


「あんな……あんなことしておいて、『事故でした』で済むと思ってるの?」


「いや、あの、それは……」


「私、こういうの初めてなのよ……? あんな風に触られたの……」


 シオリさんの声が、少し震えている。


 魔力酔いのせいか、普段の鉄壁のクールさが完全に崩れていた。


 いつもの氷の魔女はどこへ行ったんだ。目の前にいるのは、拗ねた子供のような女性だ。


「しかも、あんな状態の時に……っ」


 彼女は自分の体を抱くようにして、そっぽを向いた。


「忘れられるわけ、ないじゃない……」


「シオリさん……」


「……責任、取ってよね」


 小さく、呟くような声だった。


 俺は困惑した。


「あの、どう責任を取ればいいんですか……?」


「……知らない」


 シオリさんは、そっぽを向いたまま答えた。


「自分で考えなさい」


 理不尽だ。


 だが、その横顔は耳まで真っ赤で、怒っているのか照れているのか分からない。


 (……これ、どうすりゃいいんだ)


 俺は途方に暮れながら、頭を掻いた。


 呪印より厄介な問題を抱えてしまった気がする。


 俺たちはカメレオンの死骸を検分した。


 シオリさんが氷の刃で腹部を裂くと、中から拳大の魔石が転がり出てきた。


【名称:結晶カメレオンの魔石】

【ランク:B】

【価値:800万円】


「800万……。悪くないですね」


「ええ。これは私たちのものよ。大物以外の戦利品は、探索者の取り分だから」


「マジですか」


 俺は目を丸くした。


 800万。コンビニで何年働けば稼げる金額だ?


「で、本命はあっちね」


 シオリさんが指差したのは、蒼薔薇の結晶群だ。


「このサイズは持ち出せないわ。本部に連絡して、回収班を呼ぶ」


 シオリさんが通信機を取り出す。


「あの結晶群は、オークションにかけることになるわ。国家買取対象だから、各国の政府機関や大手ギルドが競り合うはず」


「オークション……。いくらくらいになるんですか?」


「最低でも三億。競り合えば、五億は超えるかもしれないわね」


 五億。


 俺の脳みそが、その数字を処理しきれない。


「で、落札額の半分が影守りの取り分。残り半分が、発見者である私たちの報酬よ」


「半分……? つまり、二億五千万を、俺とシオリさんで……?」


「ええ。折半するなら、一人あたり一億二千五百万円ね」


「い、いちおく……」


 俺は声が裏返った。


 一億二千五百万円。


 コンビニの時給1200円で計算すると——いや、計算したくない。一生かかっても届かない数字だ。


「それに、道中で回収した水晶や、このカメレオンの魔石も私たちの取り分よ。合わせれば、一億五千万は超えるんじゃないかしら」


「い、一億五千……」


 俺は膝から崩れ落ちそうになった。


 シオリさんが呆れたように溜息をつく。


「しっかりしなさい。これでも、S級ダンジョンの報酬に比べれば可愛いものよ」


「いや、俺の金銭感覚がバグりそうなんで、ちょっと待ってください……」


 俺は深呼吸して、頭を整理した。


 一億五千万。


 途方もない金額だ。コンビニの時給1200円で働いている身からすれば、天文学的な数字。


 だが——


「……これで、バチカンへの根回しはできますか?」


 俺は現実に戻って尋ねた。


 シオリさんの表情が少し曇る。


「正直に言うと、まだ足りないわ」


「え……」


「バチカンの枢機卿クラスを動かすには、億単位の『誠意』が必要よ。一億五千万は大金だけど、聖遺物の情報を引き出したり、聖女のランクアップ試験を有利に進めたりするには……最低でも、あと数億は欲しいところね」


「数億……」


 俺は蒼薔薇の結晶を見上げた。


 青い光が、祝福のように俺たちを照らしている。


 (一歩は踏み出した。でも、道のりはまだ遠い——)


 バチカンの壁は、想像以上に高い。


 だが、確実に前進はしている。


 今日の成果で、ゼロがイチになった。次は、イチを十にすればいい。


 ——もっとも、さっきの「事故」を思い出すと、また顔が熱くなる。


 あの柔らかい感触。あの甘い声。あの蕩けた表情。


 そして——「責任、取ってよね」という、拗ねたような声。


 「どう責任を取ればいいんですか」と聞いたら、「自分で考えなさい」と返された。


 理不尽だ。完全に理不尽だ。


 でも、あの時のシオリさんは——なんというか、可愛かった。


 普段のクールな彼女からは想像もつかない、無防備な表情。


 (……やばいな。変なスイッチが入りそうだ)


 俺は頭を振って、余計な考えを追い出した。


 金を稼ぐことに集中しろ。呪印を解くことに集中しろ。


 まだ数億足りない。次のダンジョンを探さないと。


 責任の取り方は……まあ、追々考えよう。


(第15話 完)

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