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平穏なコンビニバイト生活を送りたいのに、呪印のせいで美女たちが密着してくる件〜人生底辺のバイト生活崩壊中〜  作者: 崖っぷちしゃちょー


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第9話「酸の女王」

【前回までのあらすじ】

装備職人・源造の工房を訪れた悠真。

Aランクの指輪を発見し、鑑定眼を認められた。

だが「魔力の使い方がド下手くそ」と言われてしまった。

───────────────────────


【12月4日(水) 夕方5時 都内某所・和田堀公園】


───────────────────────


 送迎車が到着したのは、黄色い規制線が張り巡らされた公園だった。


 和田堀公園。


 杉並区にある、善福寺川沿いの緑地公園だ。普段なら犬の散歩やジョギングをする人々で賑わっているはずだが、今は人影がない。


 西日が木々の隙間から差し込み、川面をオレンジ色に染めている。冬枯れの桜並木が、規制線の向こうで寒々しく立ち並んでいた。


 警察車両が数台。私服の隊員たちが慌ただしく動き回り、無線機の雑音が飛び交っている。一般人には「ガス漏れによる立入禁止」と説明しているらしいが、俺の目には真実が見えていた。


 公園の一角にある公衆トイレの前に、空間がねじれたような黒い渦——『影門シャドウゲート』が口を開けている。


 まあ、こうなるだろうとは思っていた。


 新品の防具を手に入れた直後に、それを試す機会が来るというのは、物語のお約束というやつだ。俺の人生がいつからラノベになったのかは知らないが。


「状況は?」


 車を降りたシオリさんが、現場待機していた隊員に尋ねる。歩くたびに、パンツスーツの下で豊満な双丘がふわりと揺れた。


「はっ! 影門発生から4時間経過。先行して突入した調査隊5名からの連絡が途絶えました。無線も通じません」


「ランクは?」


「魔力測定では『Dランク』です。本来なら、調査隊の手を焼くようなレベルではないのですが……」


 Dランク。


 一般の銃火器でも対処可能な、比較的危険度の低い影門だ。


 そこでプロの部隊が行方不明になるというのは、明らかに異常だった。


「分かったわ。私が突入する」


 シオリさんは振り返り、俺に顎をしゃくった。


「行くわよ、ユウマ君。私の後ろから離れないで」


「……え、俺もですか?」


 俺は思わず聞き返した。


 調査隊がやられた場所に、たった二人で突っ込む? しかも片方は非戦闘員の俺だ。


「応援部隊を待ってはいられないわ。それに、この影門の入り口を見て」


 シオリさんが指差した先。公衆トイレの入り口と融合した影門は、大人が一人やっと通れるほどの狭さだった。


「内部構造も狭い洞窟型よ。下手に人数をかけても、射線が通らずに同士討ちになるだけ。少数精鋭で隠密行動を取るのがベストよ」


「いや、精鋭って……シオリさんはA級でしょうけど、俺は鑑定しかできない一般人ですよ?」


「分かってるわよ」


 シオリさんは俺の言葉を遮り、真っ直ぐに俺の目を見た。


「火力は私一人で足りるわ。Dランク程度の魔物なら、百匹いても薙ぎ払える。……だから、あなたに戦闘力なんて求めていない」


「じゃあ何を……」


「『情報』よ。先行部隊が全滅しかけているということは、ここには『見えない罠』があるはず。それを見抜けるのは、あなたの目だけ」


 シオリさんは腰のホルスターから、護身用の小型拳銃を取り出し、俺に手渡した。


「自分の身を守る最低限の武器はこれ。あとは、私の背中が最強の盾よ」


 ……そこまで言われると、断りにくい。


 というか、シオリさんの目が「断ったら凍らせる」と言っている。


「……はぁ。分かりましたよ。これ、時給出ます?」


「出すわ」


「なら行きます」


 俺は諦めのため息をつき、重みのある銃を握りしめた。


 シオリさんの背中を追って、黒い渦へと飛び込む。


 ◆ ◆ ◆


 グニャリ、という不快な浮遊感のあと。


 視界が開けると、そこは薄暗い鍾乳洞のような場所だった。


 ジメジメとした湿気。カビと土の匂い。天井からは水滴が垂れ、遠くで何かの鳴き声が反響している。


「……魔力反応が乱れてるわね」


 シオリさんが手のひらに氷の結晶を浮かべ、照明代わりに掲げる。青白い光が洞窟内を照らし出すが、その光は数メートル先で闇に吸い込まれていた。


「私の魔力探知が効きにくい。壁の鉱物が魔力を吸収しているみたい」


「なるほど。だから無線も通じなかったんですね」


 俺は目を細め、洞窟全体を『鑑定』した。


 視界に情報がオーバーレイ表示される。


【エリア名:吸魔の洞窟(D-Rank)】

【環境特性:魔力吸収(小)、視界不良】

【敵性反応:多数(潜伏中)】


「……シオリさん、この洞窟、ただのDランクじゃないかもしれません」


「どういうこと?」


「環境自体が罠です。壁全体が魔力を吸う性質を持ってる。魔法を撃ちすぎると、ガス欠になるのが早まります」


「……なるほど。魔法を節約しながら戦う必要があるわけね」


 シオリさんは舌打ちし、氷の結晶を小さくした。


 俺たちは慎重に奥へと進む。


 数分歩いたところで、地面に何かが落ちているのを見つけた。黒く焦げたような機械の残骸だ。


「調査隊の無線機ね」


 シオリさんが拾い上げようとする。


「待ってください! 触らない方がいい!」


 俺の声に、シオリさんの手が止まる。


「それ、焦げてるんじゃないです。『溶けてる』んです」


 俺は残骸を指差した。


【名称:影守り支給用無線機(破損)】

【状態:強酸による溶解】

【付着物:溶解スライムの粘液(強酸性・透明)】


「強酸……? でも、スライムなんてどこにも……」


 シオリさんが周囲を見渡す。


 岩肌と水たまりがあるだけの、殺風景な通路だ。


 だが、俺の『目』にはハッキリと見えていた。


 天井の岩肌にへばりつく、透明なゼリー状の物体。


 水たまりに擬態して待ち構える、液状の怪物たち。


「上です! 天井に張り付いてます!」


「ッ!?」


 俺の警告と同時に、天井からボタボタと液体が降ってきた。


 ただの水滴ではない。岩をも溶かす強力な酸の塊だ。


「氷盾!」


 シオリさんが瞬時に頭上に氷の傘を展開する。


 ジュワァアア! という音と共に、氷が溶かされ、白煙が上がる。


「透明なスライム……! 肉眼じゃ水滴と区別がつかないわ!」


 シオリさんが驚愕の声を上げる。


 そう、こいつらの厄介なところは「透明」であり「魔力を持たない」ことだ。魔力探知に頼るシオリさんのようなタイプには天敵と言える。


「位置、言いますね! 時計の針で! 12時の方向、天井に二体! 3時の壁面に一体! 足元の水たまりにも一体潜んでます!」


 俺は次々と座標を叫んだ。


 普通の人には見えない「透明な敵」も、鑑定スキルの前では【名称】のタグがついた「的」でしかない。


「了解!」


 シオリさんが右手を振るう。


 パキンッ! パキンッ!


 正確無比な氷の礫が、俺の指定した座標を射抜く。空中で「何か」が弾け飛び、凍りついて地面に落下した。


 氷の中に閉じ込められたのは、醜悪な核を持つアメーバ状の魔物だった。


「ナイス指示よ。これなら戦える!」


「まだ来ます! 奥から大群です!」


 通路の奥から、津波のように押し寄せる透明な気配。


 数は二十……いや、三十近い。


「数が多いわね……。広範囲凍結で一掃する!」


「待ってください! その中に反応があります!」


 俺はシオリさんの袖を強く引いた。


 群れの中央。スライムたちに取り囲まれるようにして、五つの微弱な生体反応がある。


「調査隊です! 生きてます! スライムの体内に取り込まれてますが、まだ消化されてません!」


「なんですって!?」


 シオリさんが動きを止める。


 広範囲魔法を使えば、スライムごと中の人間も凍死させてしまう。かといって、一体ずつ狙い撃つには数が多すぎる。


 躊躇している間にも、酸の波は目前まで迫っていた。


「くっ……どうすれば!」


 シオリさんが焦りの表情を見せる。


 俺は必死に思考を回転させ、迫りくるスライムの群れを『鑑定』しまくった。


 弱点は? 性質は? 何か、一発逆転の手はないか?


 ……あった。


【名称:溶解スライム】

【弱点:核の凍結】

【習性:高純度の魔力に強く引き寄せられる】

【備考:集合体として行動時、リーダー個体の命令に従う】


 リーダー個体。


 俺は視線を走らせ、群れの一番後ろに隠れている、一際小さな個体を見つけた。他のスライムとは違い、核が赤く光っている。


「シオリさん! 一番奥! 赤い核の小さいやつ、見えますか!?」


「ええ、見えるわ!」


「あいつが司令塔です! あいつを凍らせれば、群れの統率が崩れます!」


「任せて!」


 シオリさんが踏み込む。


 迫りくる雑魚スライムが俺たちに飛びかかる。だが、酸の粘液は俺が着ている『黒竜のインナーベスト』の表面でジュッと音を立てて弾かれた。ドラゴンの皮は酸にも強いらしい。


 シオリさんも全身に薄い氷の膜を纏い、酸を防いでいた。


「道を開けなさいッ!」


 シオリさんが氷の剣を生成し、スライムの波を切り裂く。


 そして生まれた一瞬の隙間。


「——貫け!」


 彼女の指先から放たれた極細の氷針が、30メートル先の暗闇を切り裂き、赤い核をピンポイントで貫いた。


 キィィィィン……!


 ガラスが割れるような音が響く。


 その瞬間、襲いかかってきていたスライムたちが、糸が切れたように動きを止めた。


「今です! 人質を救出しましょう!」


 統率を失い、ただの液体に戻りかけたスライムたちの中から、俺たちはドロドロになった調査隊員たちを引きずり出した。


 装備は溶けかかっているが、命に別状はなさそうだ。


「……ゲホッ! 副隊長……!?」


 隊長格らしい男が、粘液まみれの顔を上げてシオリさんを見た。


「私の新しい相棒よ。彼がいなかったら、あなたたち全滅していたわ」


 シオリさんの言葉に、隊員たちは驚きと感謝の目で俺を見た。


 だが、俺の意識は別のところに向いていた。


 まだ終わっていない。違和感が残る。


「……シオリさん、おかしくないですか?」


「何が?」


「こいつら、酸で装備を溶かすような奴らです。なんで人間である隊員たちを、すぐに溶かして食べなかったんでしょう?」


 俺の疑問に、シオリさんもハッとした顔をする。


 そう。捕食目的なら、取り込んだ時点ですぐに消化を始めるはずだ。なのに、彼らは生かされていた。まるで『保存食』のように。


 俺は改めて、足元で消滅しかけているスライムの残骸を鑑定した。


 そして、隠されていた『備考』の続きを見つけた。


【習性:捕獲した獲物を生かしたまま巣穴へ運ぶ】

【目的:『女王クイーン』への献上】


「……まずいですね」


 俺は背筋が凍るのを感じた。


「シオリさん、スライムはただの働きアリです。こいつら、獲物を『女王』に捧げるために運んでたんです」


「女王……?」


「つまり俺たち、『女王の食料庫』から餌を盗み出した泥棒ってことになります」


 その言葉が終わるか終わらないかの時だった。


 ズズズズズ……ッ!!


 洞窟全体が激しく揺れた。天井からパラパラと岩屑が落ちてくる。


「な、なんだ!?」


 調査隊員が悲鳴を上げる。


 揺れは、洞窟の最深部——俺たちが来た方向とは逆の闘から近づいてくる。


「餌を横取りされて、持ち主がお怒りのようです」


 俺が言った直後、地面が爆発した。


 土煙の中から現れたのは、見上げるほど巨大な、半透明のゲル状の巨人——『酸の女王クイーン・アシッド』だった。


【警告:エリアボス覚醒】

【名称:酸の女王クイーン・アシッド

【ランク:C+(変異種)】

【状態:激怒(餌を返せ)】


 シオリさんが氷の剣を構え直し、不敵に笑う。


「……なるほど。泥棒の罪は重いわよ。覚悟しなさい!」


 ◆ ◆ ◆


 戦闘は、想像以上に過酷だった。


 酸の女王は、通常のスライムとは桁違いの耐久力を持っていた。シオリさんの氷魔法を受けても、表面が凍るだけで核には届かない。


 しかも、体内から無限に子スライムを生み出し続ける。


「キリがないわね……!」


 シオリさんが舌打ちする。


 彼女の息が荒い。この洞窟の魔力吸収特性のせいで、消耗が激しいのだ。


「シオリさん、核の位置が分かりました! 体の中央やや下、人間で言えば腹部のあたりです!」


「了解……! でも、あの厚さを一撃で貫くには……!」


 シオリさんの表情が険しくなる。


 女王の体表は分厚いゲル層で覆われている。通常の氷魔法では、核に届く前に溶かされてしまう。


「魔力、どれくらい残ってますか?」


「……大技を一発。それで最後よ」


 一発。


 つまり、外せば終わりだ。


 俺は女王の動きを睨みながら、必死に鑑定結果を読み解いた。


 核の位置。移動パターン。防御の薄い箇所。


 ……あった。


「シオリさん! 奴が攻撃モーションに入る瞬間、腹部のゲル層が薄くなります! その一瞬を狙ってください!」


「分かったわ……!」


 シオリさんが大きく息を吸い込む。


 彼女の周囲の空気が、急速に冷えていく。吐く息が白くなり、地面に霜が走った。


 女王が腕を振り上げる。


 巨大な酸の塊が、俺たちに向かって振り下ろされようとした——その瞬間。


「——凍てつけ、『氷槍・穿貫アイス・ランス』ッ!!」


 シオリさんの右手から、人の背丈ほどもある巨大な氷の槍が射出された。


 空気を切り裂く轟音。


 槍は女王の薄くなった腹部を真っ直ぐに貫き——


 ドガァァァンッ!!


 核が砕け散る音が、洞窟中に響き渡った。


 酸の女王の巨体が、ゆっくりと崩れ落ちていく。


 半透明だった体が濁り、液状化し、ただの水たまりへと還っていった。


「……やった、のか?」


 俺は呆然と呟いた。


「ええ……終わったわ」


 シオリさんが膝をついた。


 魔力を使い果たしたのだろう、顔色が真っ青だ。


「シオリさん! 大丈夫ですか!?」


「平気よ……ちょっと、魔力切れなだけ……」


 彼女は弱々しく笑った。


 俺は慌ててシオリさんの肩を支えた。


 ◆ ◆ ◆


 戦闘が終わり、俺たちは調査隊員を連れて影門を脱出した。


 外に出ると、応援部隊が到着していた。隊員たちは医療班に引き渡され、シオリさんも魔力回復のために医療テントへ連れていかれた。


 俺は一人、規制線の外で待機していた。


「お疲れ様、ユウマ君」


 しばらくして、顔色が戻ったシオリさんがペットボトルの水を持ってきた。


「……どうも」


 俺はそれを受け取り、一気に半分を飲み干した。


 喉が渇いていた。緊張で、口の中がカラカラだったのだ。


「あなた、凄いわね」


「そうですか? 俺は後ろで見てただけですけど」


「あの状況で、冷静に情報を拾い続けた。普通の人なら、パニックになって何も考えられないわよ」


「……まあ、シオリさんが戦ってる間、俺にできることはそれくらいしかないですから」


 俺は肩をすくめた。


「謙遜しなくていいわ。あなたがいなかったら、調査隊は死んでいた」


 シオリさんが、珍しく真剣な目で俺を見た。


「……ありがとう、ユウマ君」


「いえ……時給分は働きましたよ」


 俺がそう言うと、シオリさんは小さく笑った。


「本当に、あなたって人は……」


 その時、俺は自分の腕に違和感を覚えた。


 戦闘中、スライムの酸を浴びた箇所だ。インナーベストで胴体は守られていたが、袖口から露出した手首のあたりに、飛沫がかかったはずだった。


 火傷のような痛みがあったはずなのに——


「……あれ?」


 腕を見ると、傷がなかった。


 いや、正確には、傷があった痕跡はある。皮膚がうっすらと赤くなっている。だが、火傷そのものは消えていた。


「どうかした?」


「いえ……なんでもないです」


 俺は首を振った。


 何だろう、この違和感は。


 俺の体に、何か変化が起きているのか?


 ……まあ、考えても仕方がない。今は生き残れたことを喜ぶべきだろう。


 俺は深いため息をつき、疲れた体を送迎車に預けた。


 シオリさんは報告書を書くために本部に残るらしい。俺は送迎車で自宅まで送ってもらえることになった。


 損得で言えば、今日は完全にプラスだ。時給も出るし、命も助かった。


 ……ただ、俺の腕に起きた謎の現象だけが、心の片隅に引っかかっていた。


(第9話 完)

【あとがき】

お読みいただきありがとうございます!


Dランクゲートで透明スライム「酸の女王」との戦闘!

危機一髪でしたが、なんとか生還。


そして悠真の体に謎の変化が……?

超回復能力が発現したようですが、これは呪印の影響なのか——。


次回、聖女との邂逅!


少しでも面白い、続きが気になる!

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