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残虐王は 死神さえも 凌辱す  作者: 寄賀あける
第1章 ふたりの王子

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秘められた誓い

 レナリムに着替えさせられたスイテアが王の寝所に行くと、リオネンデはジャッシフと大きなテーブルに地図を広げて何やら話し込んでいるようだった。スイテアに気が付くと、急に二人とも口をつぐんだ。

「その辺りに控えていろ」

リオネンデがスイテアに(めい)じる。


 リオネンデは地図を(にら)み付けている。親指を(あご)に、人差し指の第二関節辺りを(くちびる)に当てている。考え事をするときのリューデントをスイテアは思い出していた。同じ仕種で同じ表情で、リューデントも考え事をしていた。


 黙り込んだリオネンデに(ごう)を煮やしたジャッシフがとうとう、

「だったら、その指を見せてみろ」

と、リオネンデに迫る。チッとリオネンデが舌打ちをする。その指(・・・)とは昨夜、リオネンデが自ら傷をつけた小指のことだろう。娘に()まれたと言う、リオネンデの言葉を疑っているのだ。


「では、ジャッシフ、そうだとしたらどうだ(・・・)と言うのだ?」

「どうもしない。俺は『真実』が知りたいだけだ。隠し事などされれば、おまえが俺を裏切っているように思える」


 裏切りねぇ……俺の後宮の女と寝ているおまえがそれを言うか、と内心思うリオネンデだが、すでに許したものを蒸し返せはしない。


 リオネンデが声を(ひそ)める。

「あぁ、おまえの想像通りだ、ジャッシフ。自分で自分の指を傷付け、その血を()()の血と偽った――後宮に入れるには処女(おとめ)でなくてはならない。形だけでも証拠を残した。それだけの事だ」


 フンとジャッシフが鼻を鳴らす。が、リオネンデに(なら)って声を潜める。

「ならばなぜ、俺に打ち明けておかない? その小細工が露見したとき、知らないままでは善後策を打てない」

「秘密を知る者は少なければ少ないほうがいい――まぁ、そう怒るな。おまえを騙すつもりなら、ドラゴンの小刀を見せはしない」

「……確かにその件がなければ、あのまま騙されるところだった。リューデントさまが小刀を渡したという事は、リューデントさまが(・・・・・・・・・)処女(おとめ)を奪ったということ。すぐに気が付かないわたしも迂闊(うかつ)だった」

「子がいるかもしれないとまで、おまえは口にしたのにな」

これにはジャッシフが顔を赤くする。


「少なくとも後宮の女たちはあの娘の乙女を奪ったのは俺だと信じている。レムナムに言うなよ――この話は終わりだ」

レムナムの名を出されれば、引け目を感じるジャッシフだ。黙らざるを得ない。


 (しか)めっ面をするジャッシフを面白そうに眺めてから、リオネンデは再び地図に目を落とした。

「北部山地を抜ける隣国へのルートはやはり無理そうか?」

リオネンデの指が地図を撫でる。

「あの山は起伏に富み、うっそうと茂っているうえ、沼や湿地が点在してます。それゅえ、こちらから攻め込めないし、あちらからも攻めて来られない――山を隔てたニュダンガとは長年、戦が起きておりません。隣接しているように見えて、実は隣接していないも同然なのです」


 ふむ、とリオネンデが腕を組む。

「つまりニュダンガは、グランデジアが攻め込んでくるとは思っていない、という事だな」

「まさか、ニュダンガに攻め込むお積りで?」

驚くジャッシフをリオネンデがジロリと(にら)む。

「サシーニャからの情報によると、先だってのゴルドントの虐殺、仕組んだのはニュダンガの間者だ」

「それは……確かに?」

「サシーニャはときどきヘマを踏むが、不確かな報告はしない」

「ふむ……サシーニャの魔法による尋問(じんもん)(あらが)える者はいないらしいですからね。でも、だからと言って、あの山が越えられるかと言われれば、なんとも」

なんとも(・・・・)ではなく、なんとかしろ」

ニヤリとリオネンデが笑う。


「無茶を言わないでください」

「ニュダンガと接しているのはあの山だけだ。回り込むとなれば、ニュダンガ以外と手を組むか、先に侵略して道を作るかしかない。面倒だし、時間も(かね)もかかる。ジャッシフ、知恵を絞れ」

「リオネンデ、何かいい案はないのか?」

「あればおまえに(めい)じるか? ほかに用がないなら、去れ。さっさと行って考えてこい」


 それならば、とジャッシフが溜息を吐く。

「ニュダンガが欲しいなら内部から取り崩すのはいかがですか? ニュダンガ王の近くで反逆を起こし ――」

「欲しいのは陸路だ。考えのないヤツだ。そんな方法で国の体勢を崩しても、我らがニュダンガに辿り着く前にニュダンガを取り囲む国に横取りされるだけだ……楽をしようと思うな。サッサと行け」

なおも何か言いたげなジャッシフだったが諦めて、王の寝所を退(しりぞ)いた。


 リオネンデは暫く(あご)に指を当てて地図を睨み付けていたが、思い出したように

「スイテア、こっちに来い」

スイテアを呼んだ。スイテアが近寄ると、グイッと腕を引いて自分の前に立たせ、地図を見ろと言う。


 そして後ろから抱きすくめ、耳元で(ささや)いた。

「ここがマニシエ山地だ。判るか?」

左手でがっしりスイテアを抱きしまたまま、右手で地図を撫でる。

「そしてここが……」

地図の上のリオネンデの指が南下し東へ移る。

「四年前、リューデントがおまえに逃げろと言ったリッチエンジェ」

きゅっとスイテアに緊張が走る。抱きすくめているリオネンデにそれが伝わるのは簡単だ。リオネンデがニヤリと笑みを浮かべる。


「リッチエンジェには乳母が住んでいるはずだった。そこに(かくま)われているはずのおまえを探しに行ったが、乳母は殺された後だった。おまえはどこに逃げていた?」

「それは……わたしが行った時には既に兵が集まっていて――」

「それで?」

「どちら側の兵か判らず、ここは危険だと思いました。それで、郊外ではなく人目の多い王都のほうがいいと思い ――」

「それで?」


 リオネンデの手が地図から離れ、スイテアの胸を(なぶ)り始める。

「旅芸人の一座に(もぐ)り込みました。王都に向かっていると言うので」

「旅芸人? なんという一座だ?」

リオネンデの手がスイテアの乳房をギュッと(つか)む。痛みでスイテアが顔を(しか)めた。


「……ガンデルゼフト。でも、あの人たちには関係ありません」

「ガンデルゼフト? うん、知っている。女だけで、踊りや曲芸を見せるやつらだな。芸だけじゃなく、身体も売る」

スイテアの乳房を掴むリオネンデの手にさらに力が入る。


「おまえも売っていたのか?」

「痛いっ!」

たじろいだリオネンデが手に込めた力を(ゆる)める。


「わたしはっ! 小間使いで、舞台に立つことも客を取らされることもなかった。ガンデルゼフトのジャジャはわたしの身の上に同情を――」

「しっ! 声を控えろ。控室のヤツらに聞かれる……身の上? どんな身の上話をした?」

「――後宮から逃げた、とだけ」


 力を緩めたリオネンデの手は、今度は優しく乳房を撫で始めている。

「スイテア、おまえ、この四年、俺以外と性交(まぐわ)ったか?」

「そんなこと……」

ふとスイテアに疑問が浮かぶ。が、それをよく考える余裕はない。


「四年前と比べて、かなり感度が上がっている。誰かと(ねんご)ろになって、仕込まれたんじゃないのか?」

「そんなこと!」

思わずスイテアが叫び、振り返ってリオネンデの顔を見ようとする。抱きすくめるリオネンデはそれを許さない。

「声を控えろと言った――リューデントは一生おまえ以外と(むつ)みあったりしないと(ちか)った。おまえもリューデントだけと誓ったはずだ。おまえ、裏切ったのか?」


 スイテアの耳元でそう囁きながらリオネンデは、耳たぶを甘噛みし乳房を撫で、もう片方の手を下へと忍び込ませていく。

「なぜそれを?」

「リューデントの事はなんでも知っている。おまえとどんな言葉を交わし、どんなふうにおまえを可愛がり、どう身体を重ね、おまえがどんな声を出すのかも、すべて知っている」

「……監視していた?」

「そう思えばいい……それで? 裏切ったのか?」

「裏切るなど――あっ……」

リオネンデの愛撫に抗えず、スイテアが身悶(みもだ)える。


「ならばなぜ、おまえのここはこんなに濡れている? すぐにでも受け入れられるくらいに――四年前はここまで(・・・・)ではなかったはずだ」

「それは、それは……」

「それは?」

再びリオネンデが乳房を掴む。怒っている? スイテアが頭のどこかでそう感じている。


「リューズさまを思って、その……」

「リューデントを思って?」

「自分で致しました――」

「……」

がっしり自分を捕まえていたリオネンデの腕から力が抜けて、スイテアが崩れてしゃがみ込む。


 思わず仰ぎ見るとリオネンデは、スイテアを見詰めていた目を()らした。


 リオネンデは大きく息をしている。自分を治めようとしているようだ。少し顔が(あお)()めているように見えなくもない。


 やがて大きく溜息(ためいき)()くと、スイテアの腕を掴んで立ち上がらせる。そのまま寝台に向かい投げるようにスイテアを放り込むと自分も膝を立てて寝台に乗り、スイテアに(またが)って見おろした。


 そしてやはり囁くような声で言う。

「リューデントは俺が殺した。そしてすべてを奪った。すべてを継承した。おまえもその中の一つだ」

リオネンデがスイテアの衣装を()ぎ取っていく。

「おまえが自分で自分を慰めたりすることのないよう、これからは俺が可愛がってやる。おまえは俺の物だ。リューデントは死んだのだ」

リオネンデは上衣を脱ぐと、スイテアに(おお)(かぶ)さり唇を(むさぼ)った。

「リューデントの事は忘れろ。これからは俺だけを愛せ」

熱に浮かされているようなリオネンデの囁きに、心は(そむ)いても身体は背けないスイテアだった――

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