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残虐王は 死神さえも 凌辱す  作者: 寄賀あける
第1章 ふたりの王子

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連行された王

 王都フェニカリデ・グランデジア、西門前に控えていた護衛兵に護られ、リオネンデたちは王宮に戻っている。護られる、とは言葉の(あや)、王宮謁見(えっけん)()で待ち構えた大臣たちの前に引き出されたようなものだ。帰るなり後宮に逃げ込まれては引っ張り出すのも苦労と、一の大臣マジェルダーナの(めい)による。


 捕まってしまったものは仕方ない、仏頂面(ぶっちょうづら)で謁見の間に現れたリオネンデを、一の大臣に加え、二の大臣クッシャラデンジの二人がかりで責め立てる。リオネンデの帰都までは伏せておきたかった三の大臣ジッダセサンの病も知られており、病の蔓延(まんえん)を防ぐためジッダセサンの一族の幽閉、または追放を求めてきた。


 大臣がリオネンデに詰め寄る前に、今回の視察の要件はサシーニャが完璧に(・・・)報告し終えている。そこに口を挟む材料はない。だから余計に面白くない。そもそも王が自らベルグに赴く必要を感じていなかったが、認めてしまったものを蒸し返せはしない。では、どこに文句をつけようか?


 二人の大臣がリオネンデを責める理由は二つだ。


 一つ目は用意された護衛兵を連れず、たった五名のみを引き連れて王都を離れたこと。それも未明に誰に知られることもなく、まるで抜け出すような出立が王にあるまじき行いだったこと。


 二つ目は予定を二日も超えたこと。この二日の間に王都に何かあったらどうするのだ? やはりこれも王がすべきことではない。王都に変事が起きでもしたら、誰が責任を取る? 実際、ジッダセサンが重病となっている。


 その二つが本題だが、ジッダセサンの病は便乗させたとも考えられる。


 大臣の言い分は、リオネンデには口煩(くちうるさ)いジジイどもの小言(こごと)程度にしか響かない。判った、判った、これからは気をつけよう、で済ませるつもりのリオネンデだ。が、そんなことは二人の大臣も承知している。手応えを感じられないリオネンデから、矛先(ほこさき)がサシーニャに移る。


「サシーニャさま。あなたしか王をお止めできる立場のかたはいないと、お判りでしょう?」

マジェルダーナがサシーニャを睨みつける。サシーニャがちらりとリオネンデを見てから苦笑する。


「一の大臣は、わたしが王をお止めしなかったと(おっしゃ)いますか?」

「王家の守り人であるあなたなら、王に(めい)じることもできる。なぜそうなさらなかった?」


 横からクッシャラデンジがマジェルダーナを援護する。

「サシーニャさま。あなたもご自分のお立場をよくお考え下さい。王位を認め、なおかつ剥奪(はくだつ)する権限をお持ちの王家の守り人は、王に次ぎ守られねばならない存在ですぞ。それがたった五人の従者で王とともに都を離れ、万が一のことがあったらと思うと、このクッシャラデンジ、夜も安心して眠れませんでした」


 リオネンデもサシーニャも、心内ではクッシャラデンジを『嘘つきめ』と思う。どうせ高鼾(たかいびき)で寝ていたはずだ。が、決めつける根拠もなく、黙るしかない。


 さて、どうする? と、サシーニャがリオネンデを見るが、リオネンデに妙案があるはずもない。こんなこともあろうかと『西門は避けて、他の門から入りましょう』と言ったのに……(ほぞ)()むサシーニャだ。もっとも、東南北の門にも護衛兵を配していると言うリオネンデの予測があっていたか間違っていたかは、今更もう判らない。ましてそれは、大臣たちの前で言いだせることではない。


「王もわたしも、今の立場になって未だ四年ほど……至らぬ点もございましょう。今後とも、どうぞお導きのほどを」

ここは謝罪で済ませる方法を採るサシーニャに、リオネンデがフンと鼻で笑った。


「それよりも気になるのはジッダセサンさまの病……」

なおも言い募ろうとする大臣たちの口をサシーニャが封じた。


 ベルグへ赴く前、館の外に病状が漏れることなきようにと、きつくジッダセサンの息子ニャーシスに言い置いた。それが漏れていると言うことは、ニャーシスがしくじったのか? そうでなければジッダセサンの館には、誰かの手の者が忍び込んでいると言うことだ。


「ジッダセサンの病が重いとは、ヤツの館の者に聞いたのか?」

リオネンデがマジェルダーナとクッシャラデンジの顔を見比べて尋ねる。


「いや、まだ話は終わって――」

ジッダセサンの件に移る前に、なおもサシーニャあるいはリオネンデを責めたいクッシャラデンジだが、リオネンデに(さえぎ)られる。


「俺は無事に戻った。これ以上、何を望む?」

「いや……」


 王の無事、それ以上があるとはさすがに言えない。クッシャラデンジ、リオネンデの言葉に黙る。マジェルダーナは黙ってリオネンデを見つめ、サシーニャは心内(こころうち)でリオネンデを(ののし)る。もっと早くその言葉が聞きたかったぞ。


「聞いたところによると、サシーニャさまは都を離れる前に、ジッダセサンさまの病をご存じだったようですが?」

そう言ったのもクッシャラデンジだった。王の護衛の人数と帰還の遅延をこれ以上責めても自分に利がないと悟ったのだろう。それなら、こちらの件で責めると切り替えた。


「王の片割れさまへの祝いの品を王の執務室に届けたのは、ジッダセサンさまの名代ニャーシス。その折に臥せっていると聞き及びました」

すらすらとサシーニャが答える。


「判っていて、王ともども都を離れたと?」

「ジッダセサンさまは胸の病、で、あれば即刻容体が変わることもないと判断いたしました。薬剤もお渡ししております」


 ここで黙りきりだったマジェルダーナが口を開いた。

「胸の病……確かにニャーシスもそう言った。心配なのは、その病、他者に感染しないかということです」

「ご心配はございません」

サシーニャが決めつける。


「あれほど病状が進んでいて、ジッダセサンさまのお屋敷の誰にも未だ症状が出ていない。それが何よりもの証拠」

「ふむ……」


 マジェルダーナがリオネンデを見る。

「だが王よ、三の大臣を空席にしておくわけにも参りますまい」


「マジェルダーナ、冷たいな。回復しないと決まったわけでもなかろう。少しは待ってやったらどうだ?」

ジッダセサンの余命は三月(みつき)と、知っていながらリオネンデがマジェルダーナにそう答える。


「では、回復までの間、代行を置かれてはいかがか?」

マジェルダーナの提案に、リオネンデとサシーニャが顔を見合わせる。


「では、あと一月(ひとつき)様子を見ましょう。それより長引くようならば、代行を置くなり交代させるなり、協議いたしましょう」

サシーニャの答えに、『誰を代わりに立てよう?』と考え始めるリオネンデとサシーニャ、そして二人の大臣だった。

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