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残虐王は 死神さえも 凌辱す  作者: 寄賀あける
第1章 ふたりの王子

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正直な盗賊

 それで、俺に何をさせたいんだ? と、ワダがリオネンデに訊いたのは一通り肉が行き渡り、周囲の人影がそれぞれの(ねぐら)に消えてからだった。


 ワダの言葉にリオネンデとサシーニャが目を見かわす。


「北部山地を抜けてニュダンガに行きたい」

そう言ったのはリオネンデだ。

「ニュダンガ国に知られずに、あの山を抜けて攻め込む――そのために知恵を貸して欲しい」


 ワダがリオネンデの顔を見つめる。

「山越えで兵を動かす気か? ニュダンガ攻めなら一万、いや、それ以上必要なはずだ」


 ワダの言葉をサシーニャが聞き(とが)める。

「なぜおまえが兵力を測れる?」


「ニュダンガの兵力は一万、ならばそれ以上と言っただけだ」

「なぜニュダンガの兵力を知っている?」

さらにサシーニャが問い詰めた。


「ニュダンガ側の山村には兵の配置がない。ここは平和だと村長が言うので、盗賊でも出たらどうするんだと訊いた。そのとき村長が言った。ニュダンガの兵は一万、それをグランデジア以外の国との境に配備している。ここには盗賊さえも来ない、高山のおかげだと村長は笑った」


 それを聞いてリオネンデがふぅん(・・・)と笑い、サシーニャと目くばせする。その様子にワダが狼狽(うろた)える。


「な、何か可笑(おか)しなことを言ったか?」

「たかが山村の(おさ)が、国の兵力を把握している不思議さだな」

リオネンデの指摘にワダがハッとする。そんなワダを尻目にサシーニャが(こぼ)す。


「当初の計画通りとはいかなくなった」

「うん……」

リオネンデも難しい顔をする。


「山村に潜むのは難しいってことだな。村長と言っても国から意を含められているか、斥候を兼ねて派遣された軍人だ」

「軍人か……捕らえるのが困難なうえに、中央への伝令を阻むのにも苦労する」


「潜むつもりだったんだ? 王、自ら?」

ワダの質問に、リオネンデとサシーニャが声を合わせて笑う。


「少数に分けて山を越えさせ、山村に兵を集め、数が揃ったところでニュダンガに攻め込む、そんなことを考えていた」

「あぁ、それじゃあ俺に、ニュダンガへの道案内をさせようと?」


「そんなところだな」

サシーニャが面白くなさそうに言う。

「が、この計画はやはり無謀だ。潜めばそのまま絡め捕られ兼ねない」


 フン、とリオネンデが鼻を鳴らす。

「サシーニャ、ダメだとばかり言わず、少しは知恵を絞れ」


「そう言うあなたはどうなのです? 何かお考えがおありか?」

「ない!」

すっぱりと言い切ってリオネンデが笑う。


「ないが、そうだな……ニュダンガの兵力を知っていた村長は何人だ?」

「え? いや、俺が聞いたのは一人だけだ」

ワダが慌てて答える。するとリオネンデが

「ならば他の村長が兵力を知っているとは限らないな――ワダ、そのあたりを探れるか?」

と笑む。


 もちろん、と答えようとするワダを制し、サシーニャがリオネンデに意見した。

「危険だ。ワダに下心がないと見抜いていたから、相手は兵力を口にした。探るつもりで聞いてみろ、すぐに気付かれるぞ」


 するとワダを見てリオネンデがニヤニヤと言う。

「そうだな、この正直者、顔に出そうだな」


「正直者?」

「そうさ、俺の問いにペラペラと迷いなく答えてた。嘘が()けない性分なんだな。俺が王に仇する者と判断した途端、殺気を迸らせた。おまえは間者(かんじゃ)には向かない」

ワダに返す言葉はない。


 リオネンデが(あご)に手をやり考え込む。サシーニャがその様子を黙って見詰める。そのサシーニャにワダがそっと尋ねる。

「あんたはその……王の腹心ってのは判る。で、その……」


「何が言いたい?」

サシーニャが、ムスッとワダに訊き返す。

「いや……寝床だが、王と一緒でいいのか?」


 プッとリオネンデが吹き出し、サシーニャが怒りで蒼褪(あおざ)める。

「ふん! リオネンデは寝相が悪いと聞いている。それに男色の趣味もないそうだ。お陰でわたしは今のところ難を逃れている――寝台は別々に用意して貰いたい」

ワダにイライラと言うと、今度はリオネンデにサシーニャが向き直る。


「あなたも! 誤解されるたび、そんなに笑うな。なにが面白いんだ?」

「いやいや、サシーニャ。美しすぎるのも困りものだな――ワダ、この男は我が国の筆頭魔術師だ。しかも王家の守り人だ。敬意を忘れるなよ」


 筆頭魔術師と言われようが、王家の守り人と言われようが、それがどんなものなのかワダには判らない。だが言葉の感じから、高位に座る人なのだとは察せる。いや、待て。筆頭魔術師? 噂に聞いたことがある――マジマジとサシーニャを見て、ワダが思う。そうか、だからフードを被ったままでいるんだ……


「まぁ、そう(かしこ)まることはない。街中ではかえって不自然に映る――おまえ、さっきわたしが魔法使いと知った時、『てっきり』と言い淀んだな? あれは『てっきり、王の愛人だと思った』と言いそうになったんだろう? 二度とそんな誤解をするな」

サシーニャの物言いは静かだが、奥に憤りを感じるワダだった。


 そんな事よりも、とリオネンデがサシーニャに向かう。

「いっそ、情報操作するか?」

「情報操作? 王のお好きな手だ――どんな誤情報を流すおつもりで?」

「北部山地を超えてグランデジア軍が攻めてくる……これをワダに山村に流してもらう」


 ふむ、とサシーニャがうなる。

「悩ましいところですね――誤情報だと笑い飛ばされればよし、本気にされて軍備を整えられてしまえば打つ手がなくなる」


「どっちに転ぶと思う?」

「そうですね。そんな噂を流したと仮定して考えてみましょう――誰がどう考えたって北部山地を大軍で超えるのは無理と言うもの。本気になどされない」


「うん、それで?」

「ベルグの街ではそんな噂で持ち切りだと、ニュダンガの山村で噂になれば、村人たちは不安に揺れる。心配ないと言う村長に、どれくらい護りの兵を国はよこしてくれるのか、尋ねる」

「答えを聞いてその村長を見極める、か」


「北部山地を超えられるはずがないと答える者と慌てて中央に打診すると答える者は、中央とは繋がっていない ―― 心配ない、すぐに近くの兵を寄こしてくれると答える者、村人に守りを固めろと言い出す者、この辺りは大いに怪しい」


「そうか、なるほどな……が、まだ時期ではないな」

「えぇ、攻め込むと決めてからでよろしいかと」


「と、言うことだ、ワダ。その時は活躍を期待しているからな」

目を白黒させているワダにリオネンデが笑んだ。

「ニュダンガ攻略はまだまだ準備不足ってことだ。ま、おまえはどうにも嘘が吐けないようだから、この仕事、おまえの手下にやらせろ――それより先に手を借りたいことがある」


 ドジッチ川をカルダナ高原で()き止め、ベルグの水害を抑えたいとリオネンデが言った。

「大掛かりな工事になる。現在、崩壊している堤だって、その前に直さなくてはならない――人足を集められるか?」


「カルダナ高原で堰き止める?」

「大きな溜池を作り、大量の水が一気にベルグへ流れ込まないようにしたい――いずれはその溜池から水路を伸ばし、グランデジアで水に困る場所がないようにするつもりだ」


 ワダがまじまじとリオネンデの顔を見る。

「そんなことが果たして……果たしてできるんでしょうか?」


「さぁな」

と、リオネンデが笑う。


「俺が生きているうちには完成しないだろうな。だが、始めなければいつまで経ってもできはしない。水が行き届けば、今よりは豊かな生活ができると俺は思っている。王侯貴族ではなく、ワダ、おまえたちのような者たちが、だ――どうだろう、人足を集めてくれるか? 食いはぐれている者の中に、きつい仕事だがやってくれそうな者がいるか? 給金も、それ相応の(がく)を考えている」


 リオネンデが真直ぐにワダを見つめ、サシーニャはワダに穏やかな視線を投げている。そして王の言葉を補足する。


「カルダナ高原は人が足を踏み入れていない場所だ。赴くだけで危険が伴う。はっきり言って命の保証もできない。そこへ行って働こうという者を集めて欲しいと王は言っている――ワダ、できないと断っても王は(とが)めたりしない。怖がらず、そして遠慮せず、思った通りに答えればいい」


 ワダは王を見つめ、サシーニャを見つめた。そして言った。

「俺たちの暮らしに役に立つものを作るのに骨惜しみなんかしない。俺は……俺は王の役に立ちたい」

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