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残虐王は 死神さえも 凌辱す  作者: 寄賀あける
第1章 ふたりの王子

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盗賊の首領

 寸刻後、森の出口では置き去りにされた(あみ)を使って、総勢十二人が一纏(ひとまと)めに転がされていた。ジャッシフが選んだ精鋭が、盗賊(ごと)きに(おく)れを取るはずもない。


「さぁて、どうするかな」

盗賊を見下(みおろ)ろしながらサシーニャがニヤリと笑う。

「街まで引きずって行くのも面倒だ。ここで首を落とすか?」

(むくろ)はそのあたりに放っておけば、(けもの)が始末してくれるだろう……盗賊の何人かが青ざめ、何人かはガタガタと震えだす。リオネンデが『そう揶揄(からか)うな』と笑う。


 盗賊は取り逃がした者も含めれば十七人と大所帯だ。そしてサシーニャは、それ(・・)だけ(・・)ではないと見ていた。ここに来ていたのは大掛かりな盗賊団の、たぶん下っ端の一部に過ぎず、(めい)じた者がいるはずだと予測した。


「おまえたち、本拠はどこだ? 首領がいるのだろう? 首領の名を言え――誰か一人が口を開けば、全員、(いのち)は助けてやるぞ」


 捕らえた者どもにサシーニャが詰め寄る。が、その首領が怖いのか、それともほかに何か理由があるのか、誰も口を開かない。


 じりじりと時間が過ぎる。捕らえるにもそれなりの時間を使った。このまま片が付かないと、ベルグ到着はいつになることか。下手をすれば野営する羽目になる。


 ちっと舌打ちしてサシーニャがペリオデラに命じる。

「誰でもいい。指を落とせ。小指から一本ずつだ」

ペリオデラがカッシネラに(うなず)くと、カッシネラが剣を抜いた。

「さて、誰にする? 自分の指を切ってくれと言う者があれば申し出ろ」

盗賊たちに剣先を向けてカッシネラが(すご)む。


 さりげなくサシーニャが動きリオネンデの前に立った。敵意をむき出しに、こちらを見ている誰かがいる。護衛兵たちはまだ気づかない。リオネンデが剣に手をかけた、その時――


「弓だ!」

サシーニャが叫ぶ。驚いたカッシネラが(ひる)む。ペリオデラが剣を抜き放ち、カッシネラの寸前で矢を叩き落とした。が、次の矢が来ない……ふむ、とリオネンデが(うな)る。


 矢が放たれたほうを見ると、男が木の陰に隠れている。まだ若そうだ。

「先ほどの矢とは全く違う。あの矢に射抜かれたくはないな」

クスリとリオネンデが笑った。


「そこの木に隠れたおまえ、おまえたちの首領を今すぐ呼んで来い。話次第で、こいつらを返してやろう」

サシーニャが射手に呼び掛けた。


 気配を探ればその男を含め姿を隠しているのは全部で五名。持つ弓も先に脅してきた連中とは違う上等なもの、そして射手の腕も格段上、かなり鍛錬しているはずだ。そして何しろ気迫が違う。向こうも精鋭を送り込み、仲間を助けに来たと見える。


 ならばここは、やはり是が非でも根本(・・)を絶っておかねばと思うサシーニャだ。寄集めのザコを統率する、腕っ節も知恵もある首領の存在はもはや確定した。

「さぁ、どうした? そんなところに隠れていても、仲間を助けられないと判っているだろう? おまえの弓はなかなかのものだが、それとて我らに届くものではない」


 すると

「それはどうかな?」

と、(いら)えがあった。サシーニャが『フフン』と笑う。


「随分と自信があるようだが、こちらにおまえの仲間が捕らえられていることを忘れてないか? 温和(おとな)しく出てこなければ、こいつらを殺すと脅すことだってできるのだぞ?」

サシーニャのこの言葉に、捕らえられた者たちの中から悲鳴が上がる。木に隠れた何者かが息をのみ、グッと緊張を高めたのが伝わってくる。


「まぁ、そんなに(いじ)めるな」

そう言って、前に出てきたのはリオネンデだ。

「何もおまえたちをどうこうしようとは思っていない。尋ねたいことがあるのだ。首領を呼んで来い」

サシーニャが、さりげなくリオネンデを後退させようとするが聞くリオネンデではない。そっと、『何を考えているのだ?』と耳打ちするが鼻で笑って答えない。


「おまえたち、縄張りがあるのだろう?」

サシーニャを無視して、リオネンデがさらに前に出る。話しかけた相手とは別の場所から、ギリギリと弓を引く音がする。護衛兵が二人、リオネンデを守るべく、音とリオネンデの間に立ち(ふさ)がった。


「おまえたちの縄張りに、ベルグ街道の途中、サーベルゴカへの分岐点、あの辺りは入るのか?」

「グリニデ街道の始点のあたりはズッゴの縄張りだ。俺たちじゃない」

「やはり盗賊にも(まと)め役がいたか……そのズッゴとはどんなヤツだ?」


 フンと木陰の男が鼻を鳴らす。

「いけ好かないヤツだ。手下に仕事を丸投げするのは判る。俺だってそうだ。だが俺は稼ぎのすべてを(かす)め取ったりしねぇ」

「ほう、ズッゴと言う男はすべてを自分の(ふところ)に入れるか。先に抜いておいたらどうだ?」

「おめぇ、馬鹿か! バレたら半殺しにされる。下手すりゃ、あの世へ行くことになる」


 ふぅん、とリオネンデが不快を(あらわ)にする。馬鹿と言われたのが面白くなかったのだろうと、木陰の男は思ったようだが、実は違う。ズッゴのやり方が面白くなかったリオネンデだ。


「ベルグの向こう、カルダナ高原を縄張りとしている者はいるか?」

「やっぱ、あんた、馬鹿だな。あんな誰も通らない山、誰が欲しがるんだ?」

「では、マニシエ山地、北部山地のあたりはどうだ?」

「それは……」

男が口籠(くちごも)る。


「あそこに盗賊はいない」

ふぅん、とリオネンデ、今度は愉快そうな顔をする。

「では、何がいる?」

「マニシエ山地から北部山地を通りぬけ、ニュダンガへ、あるいはその逆。案内をして代金をとる者がいる」


 サシーニャが驚いてリオネンデの顔を見る。リオネンデはそれを気にすることもなく質問を続けた。

「その案内人とおまえの関係は? この盗賊どもの首領はおまえなのだろう? そしてその案内人たちを取り(まと)めているのもおまえ、違うか?」

木陰の男はさらに緊張を強め、そして答える様子がない。


 リオネンデがクスリと笑う。

「首領を呼べと言っても呼ばない。そのうえ俺の質問にすらすらと、躊躇(ためら)うことなく答えている。首領に(はか)らずそんなことができるのは首領のみと思ったが、違っていたか?」


 男がほっと息を抜き、木陰から姿を現した。リオネンデの指摘に、反論しても無駄だと思ったのだろう。舌打ちしてこう言った。

「いかにも……俺がこの森からベルグ、ドスタム湖からマニシエ・北部両山地からニュダンガ南部を取り仕切るワダだ」

そして手を挙げると、リオネンデを狙っている弓を降ろさせた。


「で、あんたは誰だ? 俺が名乗ったのだから、名を教えろ。ただの貴族じゃなさそうだ。王の兵にも見えない。何者だ?」

サシーニャが動こうとするのをリオネンデが止める。

「その前に答えて貰おう――ニュダンガ南部をどのくらい押さえている? そしておまえはニュダンガに(くみ)する者か? それともグランデジアに忠誠を誓う者か?」


「ふん、もったいぶりやがって……が、まあ、いい。ここまで言ったんだ、教えてやろう――ニュダンガ南部、北部山地の山間には十五の村がある。俺はそこを牛耳っているわけじゃない。が、村長(むらおさ)(かね)(にぎ)らせて、便宜を図らせている。で、ニュダンガもグランデジアも俺には関係ない。仲間が飢えずに暮らせれば、グランデジアだろうがニュダンガだろうがどっちでもいい」


「なるほど……ならば(かね)次第(しだい)でニュダンガ、グランデジア、どちらにも付くということだな?」

ワダと名乗った男が薄く笑う。

「ま、そういうことだな」


「では、俺がおまえに(かね)を積めば、俺の役に立ってくれると思っていいな?」

「おや、俺を使いたいってか? 俺を雇うのは(やす)かないぞ?」


「おまえともどもおまえの手下も雇おうじゃないか。なに、手下全員を俺のために働かせようというわけじゃない。俺の依頼を遂行するのに必要な人数をおまえが使えばいい。だが、報酬はおまえたち全員の暮らしが立つよう保証しよう。ただし盗賊をやめ秘密は守ってもらう。そして裏切りは許さない」


 ワダがリオネンデを見つめた。

「あんた……いったい誰なんだ?」

「俺の条件を飲んで、おまえが俺の下で働くと約束するなら教えよう」

リオネンデもワダを見つめた――

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