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残虐王は 死神さえも 凌辱す  作者: 寄賀あける
第6章 春、遠からず

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難癖を つける

 スイテアが淹れてくれた熱い茶を受け取るサシーニャ、

「塔に戻ってジャジャと通達文の打ち合わせ、それから着替えてもう一度ここに。例の物は塔の居室に届いているので、それをこちらに持ってきて、そのあとは館に帰って休みます」

そう言うとすぐさま茶に息を吹きかけ始め、

「なんだったら、例の物はチュジャンエラに届けて貰おうかな?」

と呟く。


「そうすればわたしはジャジャと打ち合わせが終わったら館に戻れる……着替えも向こうでいいし、どうせならゆっくり湯を使いたいし」

「サシーニャさま、お届けは僕がしますけど、お湯に浸かって眠らないでいられますか? すっごく心配です」

それには苦笑しただけで答えず、サシーニャがリオネンデに向かう。


「金貨と(うつわ)はワダに預けました。ベルグに保管するよう指示しています」

「器は工場(こうば)の倉庫にでも入れるのか?」

「はい、同じような商品の中が一番隠しやすいかと……ワダには戦況が落ち着いたらジロチーノモさまと連絡を取るよう言ってあります」


「ジロチーノモは婚儀の引き出物が用意できないんじゃないかと心配しているだろうな」

「勘のいい方ですから、わたしがこのままにしておくはずがないと思っていらっしゃると思います」

「どうせあるのだからそれを渡せばいいものを、なんでガラス杯に変更する?」

「バイガスラに代替品は二ヶ月かかると言ってあるのですよ? それなのに、すぐにジッチモンデに届けられたりしたら、カラクリを見破る人が出かねません」

「焼失したのではなく盗まれた? さては金貨を奪ったのもグランデジアだったと言われそうだな。ガラス杯は数が揃ったか?」

「数日中には二脚一組、四十組が揃うとワダが言っていました。充分婚儀に間に合います」


「で、ジッチモンデ金貨はどう処理する?」

「これは我らがバイガスラ王宮に入り込めれば解決する問題。ジョジシアスの館で見つけたと言えばいいだけの話です」

「なるほどね。なんとしてでもバイガスラ王宮、ジョジシアスの館に辿りつくしかないな」

「侵入口は確保してあります。問題はそこまで行けるかどうか……」

「ビピリエンツに潜入させていたワダの手下の帰国組は、無事出国できたのか?」

「ワダは抜かりないと言っていました」

「それなら心配ないな」


「明日は昼までに一度こちらに顔を出したのち、魔術師の塔で出立の支度をいたします――フェニカリデから派遣する軍の総指揮はペリオデラ、夕刻には西門から行軍いたしましょう」

「うん、手配は済んでいる。チュジャン、滞りないな?」

もちろんです、チュジャンエラが元気な声で答えた――


 魔術師の塔に戻ったサシーニャはジャルスジャズナの執務室に行き、諸国への通達文の作成に取り掛かっている。


「えぇ、海上では遠隔伝心術が使えなかったんです」

「ほかの術は使えたのかい?」

「どうなんでしょう? 使う必要がなくて。試してみればよかったですね――なんだか、魔力の停滞を感じたんだけど、グレリアウスは何も感じないって言ってました」


「魔力の停滞? 魔力膨張が止まった?」

「……そうなんでしょうか? 体内の流れが変わったような?」

「体内の流れって?」

「うん? 身体を巡る魔力の流れですよ」

「サシーニャは、そんなのを感じてるんだ?」

「って、ジャジャは感じないんですか?」

二人の魔術師が互いに探り合うように見つめ合う。が、見つめ合ったところで答えが出るものでもない。

「ま、落ち着いたら調べてみるよ」

ジャルスジャズナがそう言って話を打ち切った。


 サシーニャが塔に戻ったと、蔵書庫にいたルリシアレヤたちにも伝わっていて、通達文の作成が大詰めを迎える頃、ジャルスジャズナの執務室に押し掛けてきた。


「仕事中なんですけど?」

苦笑するサシーニャ、ジャルスジャズナは

「せっかく来たんだからお茶でも飲んでいきな」

と迎え入れてしまう。


「ここらでわたしらも休憩したいと思ってたんだ」

「わたしは休憩よりも、早く終わらせて帰りたいんですけどね――でもいいか、話しておかなきゃならないこともありますから。バーストラテも一緒に聞いてください」

お茶の用意に水屋に行こうとしていたバーストラテをサシーニャが引き留め、ジャルスジャズナが水屋に向かう。


「バイガスラと(いくさ)になる見込みです」

顔色を変える二人、バーストラテはいつも通り無表情、(もっと)も魔術師間の伝達で知っていたのだろう。


「わたしは明日の夕刻、軍と同行し国境に向かいます。バイガスラの宣戦布告をうけたのち、(ただ)ちにフェニカリデに戻りますが、それからは魔術師の塔に於いてリオネンデ王とともに全軍の指揮を執ることになります。またチュジャンエラも塔に籠り、魔術師を監督することになります――お二人には(いくさ)が終結するまで、魔術師の塔への出入りを遠慮していただきます」


「サシーニャさまは戦場(いくさば)にはお()にならないのね?」

訊いたのはエリザマリだ。

「バイガスラ軍がニュダンガ・ダンガシクにまで侵攻してくるようなことがあれば赴くこともあるかもしれません。が、そうならないと見込んでいます――お二人の安全は保証いたしますのでご安心ください」


 サシーニャが『頼んだよ』とバーストラテに向かう。それにバーストラテが黙って頷く。


「今夜も塔でお仕事ですか?」

ルリシアレヤが恐る恐る尋ねた。

「いえ、今夜はわたしもチュジャンエラも館に戻り、明日に備えます――だからと言って、話を聞きに来ようなどと思ってはいけませんよ。実は昨日の朝起きてから一睡もしてないのです。館に帰ったら休もうと思っているので邪魔しないでください。それに見送りも不要。何しろ慌ただしいので、お相手する余裕がありません」

そこへジャルスジャズナが盆を持って戻ってきた――


 暫く塔に入れないのなら本を借りていくと、お茶を終えたルリシアレヤたちが蔵書庫に戻る。それを見送ってから作業を再開させ、通達文作成は清書を残すのみとなった。チュジャンエラが軍部との打ち合わせを終えてジャルスジャズナの執務室に来たのはそのころだ。

「それじゃあジャジャ、あとは任せてもいいですね? わたしはチュジャンと自室に行って、そのまま街館に帰ります」


 チュジャンエラは『例のもの』を受け取るとすぐにジャルスジャズナの執務室に戻り、完成した通達文を預かって、王の執務室に向かった。通達文にリオネンデ王の署名を貰うためだ。『例のもの』をリオネンデに渡し、署名された通達文を預かってジャルスジャズナの執務室に戻った。ジャルスジャズナは()()()を使って、王の署名の入った通達文を国境に配備された魔術師たちに送る――明日の朝までには諸国の王に届くだろう。


 いっぽう館に戻ったサシーニャは、湯を使っている(あいだ)中、チュジャンエラが『起きてますか?』と遠隔伝心術を送ってくるので辟易していた。ゆっくり湯に浸かる気分も失せて早々に切り上げている。湯殿から出るとき、いつもの癖で鏡に映った自分の背中をチラリと見る。湯で温められた背中には紅色の鳳凰(ほうおう)が、(あい)も変わらず浮かび上がっていた――


 ◇◆◇


 グランデジア国王リオネンデ・グランデジアが諸国の王に通達する――今般、バイガスラ国ジョジシアス王より、窃取および放火の疑いが我が国に掛けられているが、これは事実無根である。


 そもそもバイガスラ国が窃取されたと主張する金貨は、我が国がジッチモンデ国に売却した物品代金であり、バイガスラ国がジッチモンデ国より預かり、我が国に引き渡す予定だったものである。つまり、所有権は(はな)から我が国にある。()って盗む理由がない。放火についても、焼失したのはジッチモンデ国への売却品であり、焼失は我が国にとっても損失と考える。


 金貨の所在不明は受け取りに出向いた我が国王子の目の前で発覚したが、このときもバイガスラ国は王子が窃取したと疑っている。しかし、我が国王子に窃取は不可能とバイガスラ国が認め、即座に疑いは取り下げられている。また火災発生時、我が国王子はバイガスラ王宮内で同国国王と面談中であり、同国が主張する放火は成し得ない。


 それにも関わらず、宣戦布告通達書では我が国王子を窃盗及び放火の首謀者と断定している。尚且(なおか)つ、その根拠・証拠をバイガスラ国は明示していない。これは我が国に反証させないためだと考えられる。なにゆえバイガスラ国は我が国に反証されては困るのか?


 グランデジア国王リオネンデ・グランデジアの名を以って告発する。バイガスラ国の我が国に対する宣戦布告の大義とされる事案は、バイガスラ国が自ら引き起こしたものである。以下にその根拠を(しる)す。


一、我が国王子の証言によると、金貨の保管場所はバイガスラ王宮・国王ジョジシアスの私館、ジョジシアス王の居室内部の一室である。当該の部屋には窓がなく、出入りできるのは居室に繋がる扉のみである。金貨はこの部屋に置かれた箱に入れられていたとバイガスラ国は言っている。部屋には箱だけが置かれ、部屋の扉および箱は施錠され、ジョジシアス王の側近が管理する鍵において、我が国王子の立会いのもと開錠されている。しかし、開錠された箱の中に金貨は存在せず、ジョジシアス王と当該側近がその場では、金貨の所在は不明と我が国王子に説明している。


一、ジッチモンデ国への引き渡し予定の物品を保管している倉庫に於ける失火の第一報が入ったのは、前述の商談が金貨紛失により中断され、我が国王子がジョジシアス王の館を辞する直前である。我が国王子は従者ともども消火への助力を申し出て、前述のジョジシアス王側近とともに失火現場に駆け付けている。生憎(あいにく)、ジッチモンデ国に権利が移るべき物品は消失し、修復不可能であることは我が国王子が確認している。そしてこの倉庫の鍵もまた当該側近が管理していた。


一、金貨保管部屋および失火倉庫において、バイガスラ国言うところの床下に通じる横穴を我が国王子は認識していない。これは我が国王子に同行していた我が国上級魔術師と、金貨の保管部屋については護衛兵二名、倉庫については同五名から同じ証言を得ている。横穴についてはその存在自体を我が国は疑っている。


 以上のことから当該事案は、我が国王子の到着にあわせてバイガスラ国が仕組んだものと推測する。我が国には事前に金貨および商品の保管場所を知り得ようもなく、ジョジシアス王側近が管理する総数三本の鍵の存在を知る(よし)もない。とうぜん入手するのは不可能である。依ってバイガスラ国が主張するように我が国王子の仕業では有り得ない。それを我が国王子が首謀者だと根拠なく主張することに悪意を感じざるを得ず、バイガスラ国に対し真相を明らかにするよう要請するとともに、謝罪を求める。


 我が国は戦乱を望むものではない。が、バイガスラ国が捏造を認め、撤回・謝罪しない限り和平の道はないと考えている。


 今回の件に諸国を巻き込むのは誠に遺憾、諸国には諸国のお立場があるものと承知しているが、干渉するのはお控えいただくよう欲する――グランデジア国王リオネンデ・グランデジア

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