85.規格外
声のほうに視線をやると、ランハートが多くの騎士たちを引き連れて出口を塞いでいた。
マリアンヌ側の人物たちを捕らえるよう指示し、ランハートは私たちのいる中央へと向かってくる。
その際にマリアンヌを一瞥したが、何も言わずにベアティに抱かれた私の前に立った。
「エレナはまた無理をしたのか」
すっと私の髪を優しく梳き、目を細めた。
それから視線をベアティに向けると、ベアティがなぜか取られまいと私を抱く腕に力を込める。
「で、ベアティは戻ってきたのか?」
「このべったり具合から確実だね。何があって何をしていたのかきちんと説明はしてほしいところだけど」
ランハートの質問に対し答えたシリルが、私の手を握ると私に向かってふにゃりと笑う。
「戻ってきてよかったね。もう本当に無理しないでね」
私への気持ちに対する複雑さを抱えながらも、ベアティの帰還を友人として喜び私の気持ちも尊重して微笑む姿にじわりと涙が出る。
シリルは私のすることをそわそわしながらも、信じてずっと見守ってくれていた。近くにいてくれて、何かあればすぐ動けるように守ってくれていた。
「シリルがずっと守ってくれているとわかっていたから集中できたよ」
シリルがいるから、インドラも私のそばから離れて動けた。
「そうそう。シリルがいるから僕らもそこまで焦らなかったし。だけど、ベアティは離れてたくせに結局一番美味しいところ持っていったよね~。ほんとずるい」
「まあ、エレナ嬢が一番安心するようだから見守るけど、おもしろくはないよね」
ミイルズとアベラルドが私の頬をつんつんし、ベアティの肩をぺしっと叩く。
シリルもインドラも、ミイルズもアベラルドも、そしてランハートやギルド長たちと、ここにいるすべての人たちが動いた。
これまで細々と活動し、マリアンヌやスタレット侯爵の支配から解放してきた人たちはいたが、どれもこれも公に証拠となるものは出せなかった。
幸い資金や物資と交渉材料はあったので、解放した貴族たちとの今後の交渉は両親たちに任せと確実にこちらの陣営は増やしてはいた。
そうやってできることはしてきたけれど、確実に彼らの悪事を晒すところまではいくことはできないでいたところに今回の件だ。
いろいろあったけれど、相手が仕組んだ舞台で追い詰め、確実にマリアンヌは化けの皮を剥ぐことができた。
優位性を示そうとした公の場で、自ら破滅の道を進んだマリアンヌは両手を後ろにくくられた状態で、床を濡らして恥ずかしくて顔を上げられないようだが髪を振りながら訴える。
「お願いだから、お父様を呼んで」
「そのお父様は自分のことで手一杯だろう」
スタレット侯爵のほうも進展があったようで、そのことにベアティも関係しているらしく、何が起きているのか私も知りたくてランハートへと問いかけた。
「何があったのでしょうか?」
「我々もスタレット侯爵家の悪事の証拠を掴むべく動いていたが、ここ最近ぽろぽろその証拠が見つかってな。エレナへと仕掛けが向いているのを機に、こちらも大々的に動かせてもらった。すまない」
「いえ。何事も機というものがありますから」
私の危機を利用したとしても、ランハートは私をも守るつもりで動いてくれたことはわかっている。彼は王族であり、国家として一番重要なことを見誤らないでくれてよかった。
国が、トップがつぶれれば、多くの者が困るのでそれでいい。
「それでだ。その証拠はどうやらベアティが内部に潜入し外に出していたようだ。突入時にも隠し部屋もあっさり見つかり、こちらは拍子抜けしたくらいだ」
「そんなことをしていたの?」
驚いてベアティを見ると、ベアティは苦笑した。
「すみません。捜査の過程で催眠をかけられそうになって、逆にそれを利用し少しかけた状態で動きました」
「少し?」
「自分の気持ちを抑えないとすぐにエレナ様のもとに帰ってしまいそうで。監視もあって下手な動きをするとバレる可能性もあったので」
なんか簡単に言っているが、相手の魔法を操作するってすごいことじゃないだろうか。
「そんなことができるんだね」
「はい。もう二度とエレナ様と離れないためにも精神干渉系の耐性つけるためにいろいろ試し習得しました」
「それは、すごいね」
周囲の男性陣を見ると肩を竦めたので、多分ベティだからできるのだろう。
一応褒めたが、ベアティが規格外なのを改めて痛感する。
「この女に触れられ話しかけられたら鳥肌ものだし、何の反応もせずそばにいるためにかけられた催眠を利用することにしましたがそれでもずっと気持ちが悪かった。一定期間エレナ様に反応しないようにも催眠がなければ無理だった」
ベアティはそこでずどんと表情を暗くした。
「そっか……」
「たとえ一時でも俺をコントロールし、エレナ様から離れさせようとした報いは受けてもらわないと。悪事の証拠を徹底的にあぶり出したのでもう二度とあいつに支配はさせないし、一生エレナ様から離れません」
マリアンヌを再び殺気を込めて睨みつけ、そして最後ににっこりと笑ったベアティは餓えた獣のような瞳で私を見つめた。




