82.証人
「なっ。お嬢様の治療を受けておいて言いがかりを!」
インドラが怒りの声を上げ、ぎろりと睨む。
今にも飛び掛かりそうなインドラの腕を掴みとどまらせ、私は再び男へと目を向けた。
「いいの。あなたのことは覚えています。それは私の顔を見て嘘偽りはないと言えますか?」
「ああ。嘘なんてついてない!」
男はびくっと肩を震わせたが、マリアンヌのほうへと視線をやり怒鳴るように言い捨てた。
噂について言われることは覚悟してやってきたが、証人を出してきた。脅されているのか、すでにお金を受け取ったかして逆らえない状態の男に何を言っても変わらない。
周囲がざわざわとしだす。
全員ではないとはいえどうやっても起きなかった人の目を覚まさせたマリアンヌと、人を殺したと言われる私がいることでさらにマリアンヌの聖人性が上がる。
単純だがかなり効果的な舞台だ。
憤るインドラとシリルを宥めながら、さて、とほくそ笑むマリアンヌと対峙する。
「ああ~、いたいた~」
「やっぱり絡まれてた」
どこから取り掛かればいいのかといまだに何の動きも見せないベアティに視線をやったところで、入り口からミイルズとアベラルドが一人の男性を連れてやってきた。
「ミイルズにアベラルド。どうしてここに?」
「何でも言うこと聞くって言ったのに頼ってくれないから、僕らも殿下を見習って役に立つところを証明しようと思って」
「そう。監視しておいてよかったよ。僕たちなしで進めるから、僕たちも勝手にしちゃった」
彼らには今日のことは直接話す時間はなかったが、どこからか聞きつけてやってきたようだ。
ふらっと遊びに来たとばかりに手を振る双子に驚いていると、えへへっと笑いながら告げられる。
緊迫した場面であまりにも緊張感のない様子にがっくりと肩を落とすと、双子は私たちの前まで来て一緒にいた男性を紹介した。
「王都でエレナちゃんに治療を受けた人たちは、元気に過ごしているのは居場所とともに確認済みだよ。彼だけなかなか見つからなかったけど、その男が死んだと言っているのがこの人ならこうして生きてるけど?」
「死人が出たどころか、以前より調子がいいと喜んでいる人たちばかりだった。ほら、証言して」
双子に連れられた男性を見ると神妙に頷き拳を握りしめ、マリアンヌのそばに立つ証人の男に向かって言った。
「俺は死んでいない。嘘をつくのはやめてくれ」
「なっ、俺は嘘なんてついてない」
きちんと裏は取ったとの双子の発言と死んだと噂される人物が現れたことで、これはどういうことかと周囲の疑惑の目がマリアンヌに向く。
先ほど喜んでいた人たちも、ひそひそと話しながら控えめにマリアンヌへと視線をやった。
「俺にお金を渡して療養するように言ったのはお前だよな? あとは任せておけって。隠れるだけで金がもらえるならとろくに話も聞かず一度は頷いたが、あんな噂の片棒を担がされるのは嫌だ。金は返す」
男性が麻袋を男に押し付ける。
「なっ」
「助けてもらった恩を仇で返すようなことはしたくない。エレナ様がいなければ、俺は仕事も婚約者も諦めなければならない状況だった。それを好転させてくれた人をはめようだなんて、周囲に顔向けできないことはしたくない」
この展開を予想していなかった男はどうすればいいのかとマリアンヌを見るが、マリアンヌはきょろきょろと周囲の様子をうかがい誰かを探しだす。
私をここに召喚したスタレット侯爵の姿はないが、段取りが変わってきて焦って父親を探しているのだろうか。
「はい。これで証明完了だよ~」
「きちんと裏を取ったものも記してあるから偽りないからね。マリアンヌ嬢、僕らは証拠を出したよ。エレナ嬢は潔白」
「むしろ風評被害だよね~。僕の記憶だと率先してエレナちゃんを貶めていたのはマリアンヌちゃんだと思うのだけど、かなりひどい行いだよ」
「どうやって責任とるの?」
あくまで口調は柔らかだが、びしっとマリアンヌに突きつけた。
先ほどまでは圧倒的に私が不利な状況だったけれど、双子のおかげでマリアンヌに一石を投じることができる。
「先ほどの回復もマリアンヌ様の実績ではありませんよね?」
わかっていますよとマリアンヌからブリタニーへと視線を向けると、さっとマリアンヌの顔色が悪くなった。
「この男が嘘をついただけです。私はかわいそうだと思って。確かに決めつけはよくなかったですが、私は奇跡を、彼らを回復させたのは事実なのにそれこそ言いがかりでは?」
放った一手が今度は完全不発に終わり焦ってはいるようだが、マリアンヌは自分の優位性を諦めていないようだ。
彼らを回復したからくりの証明はできないと、そこは覆されることはない自信があるのだろう。
せっかく双子にも援護ときっかけをもらったところだ。
ならば、こちらも順番にその自信と基盤を崩していこうと、マリアンヌたちの後方で待機していたギルド長へと合図を取った。




