73.この五人、お返し…
聡明さと強さ、そして幻想的な輝きを持った瞳が私を捉える。
「エレナ様の魅力は俺だけが知っていれば十分だと思っていますが、これまでの流れは気に食わない。根拠がどこにあるのか提示されないまま、一方的に悪いと責めるだけ。何もしてないヤツががたがた煩すぎる」
前半、付け加える必要があっただろうか。
だが、四人の心配をよそにベアティから出た内容は彼らと変わりないのでほっと息をつく。
――何が飛び出るかと思って変な緊張しちゃった……。
この国は身分も大事だが実力がものを言う。権力と実力を両方支配した者が強い。
だからこそ、貴族たちはこぞって強い実力者を支配したがる。時に権力者が食われ、支配権が変わることもある。
弱肉強食であり、だからこそ先手を打とうと貴族はあれこれ仕掛ける。
勝気な者はそれらに果敢に挑むし、実力はあっても争いを好まない者は、そういった権力争いに巻き込まれないように身を隠すこともある。
ベアティは子供の頃に囚われていたこともあり後者だと思っていたが、これでは変な形で目立ってしまう。
「言い方をもうちょっと気をつけよ?」
ベアティはベアティらしくいてほしいが、さすがにここは貴族たちが多く集う学園。
余計な争いを生まないためにも言葉遣いは大事だよと指摘するが、ベアティはなんで? と首を傾げた。
その際に、さらりと艶やかな黒髪がベアティの白い頬にかかる。
そんな些細な姿でさえも威厳があり、視線は吸い寄せられるが直視するにはあまりにも眩しくて不思議な感覚に陥る。
「どうせ言い方を整えても変わらない。敬うようなところがない相手に意味はない。エレナ様の笑顔を壊す者、俺たちの関係を壊そうとする者は全力で叩きつぶす」
ひどく静かだが、やけにその声は響いた。
さっきの場の支配といい、ベアティ個々の能力でいうと実力はギルドの活躍で名が知れて世間でも評価され、この場でベアティが最強であることは誰もが認めることだ。
そして、この国の王子であるランハートや、獣人や家族たちが認めているベアティの何かは、きっとそういった類いのものではないか。
攻撃的な言葉とは反対に、私を見る表情はとても甘くて蕩けている。
ここぞとばかりに好意を駄々洩れにさせ、俺にとっての一番だと表現してくる姿に苦笑する。
――本当、助けた時から変わらない。
ベアティにとって私は特別だ。
だからこそ、もっとわかれと周囲への牽制と、今まで我慢してきたものを敢えて見せつけているのだろう。
何度窘めても変わらず、結局絆されてここまできた。
やっぱり私にとってベアティはベアティで、守るべき対象で、そして守られてきた時間からすべてを受け入れたくなる。
甘えたで、やけに鋭くて、強くて、尋常ではない身体能力の持ち主で、私のための行動が重く優しい人。
彼が持つ何かが彼を守る楯となるなら安心だと思うくらいで、それは私にとってはどちらでもいいことだった。
ベアティが元気にこの世界を生きてくれたらそれでいい。
奪われてきた時間を死に戻り前のように奪われず、幸せだと思えるものにしてくれるだけでよかった。
それが、手を差し伸べ一緒に過ごしてきたからこその素直な私の気持ち。
だからこそ、気になりつつもその時が来るまで待っていた。
私を守りたいがための怒りという形で曝け出すとは、予想外というか、らしいというか、やっぱりベアティはベアティだと安堵さえ覚える。
「隠さなくていいの?」
「我慢の限度を超えたのでもう無理です。エレナ様には改めてお話しますが、その時は覚悟しておいてくださいね」
自信ありげな口調だが、その瞳の奥には不安に揺れていた。
近くで見ている私だけがわかる機微に、私はそっと目元を指でなぞった。
「心配しないで。どんなものを抱えていてもベアティはベアティだよ。私に向ける気持ちや態度が偽りじゃなければ、私は何を聞いても変わらないよ」
ベアティが自分でここまで言うからには重大な何かがあるのだろうけれど、もう私の心は決まっている。
にこっ、と笑うと、ほっと安堵の息をついたベアティは、はぁぁぁっと深く長い息を吐きながら甘えるように私の頭に顔をこすりつけた。
「エレナ様以外何もいらない」
「僕もだよ」
心からのベアティの呟きに、僕もいるよとシリルがすかさず声を上げる。
「僕らも忘れないでね。僕、何でも言うこと聞くよ?」
「芯はあるし情も深いけど、僕らが思いもよらない理由でふらっと手を離しそうで怖いね。監視が必要だ」
「責任を取ってもらう約束だからな。俺たちから逃げられると思わないことだ」
彼らが自分の側にいることは頼もしいと思ったけれど、これはどうなのだろうか。
一人、一人、取り扱いがちょっと面倒なのに、五人そろって、しかも連携されては私では手に負えない気がしてきた。
――い、今からでも、この五人、お返ししてもいい?
ふと、そう思った。
どこになんて明確なものもなく、死に戻り前にマリアンヌの取り巻きだったが、彼らの事情を知った今はマリアンヌだけは絶対ない。
ただ、ほんのちょっぴり思考に過っただけのそれを、全員が見透かすように私を見下ろした。
――思うだけでもダメなの?
何でわかるのだろうか。
もう、本当、何も言うまい。
無言の圧に誤魔化すように笑うと、ぎゅうっとベアティにきつく抱きしめられた。
いつまでも抱かれたままなのも困るが今そのことに触れたら逆効果になりそうで、さてどうやってこの場を終わらせられるかと視線を周囲へと巡らす。
ベアティの発言は触れれば爆発しそうに聞こえるのか、さっきの威圧で生徒たちは委縮してしまっている
マリアンヌを見ると身体を硬直させながらも、その表情はどこか恍惚としていた。




