72.片鱗
悔しそうに顔をしかめ双子を見ていたマリアンヌは、不服そうに私を見据えた。
「エレナさん。二人を、いいえ、そこにいる人たちに何をしたの?」
「何とは?」
双子から切り崩すことは無理だと判断したのか、再び私に憤懣をぶつけることにしたようだ。
「あなたみたいな辺境にいた田舎の令嬢が、ランハート殿下たちにここまで気に入られるなんておかしいじゃない。怪しい魔法を使ったとしか思えないわ」
「そんな都合のいい魔法があるのでしょうか? あったとしても、関係が薄っぺらなものは魅力を感じないので私は使いたくないです。そもそもそういった発想ができることが、スタレット様に心当たりがあるように思えてなりませんが」
みたいな、とか、田舎とか、言葉の端々に見下していることが伝わり取り繕えておらず、本性が出ちゃっている気がするのだがいいのだろうか。
自分が使っているから他人もそうかもしれないとの発想も低俗で、うんざりする。
「なっ! 使っているのではと問うているのに、そのような発言はおかしくありませんか?」
「ですから、私はそのような魔法があったとしてもいりません。それが答えです」
持っていないと主張しても、どうせ聞き入れられない。決めつけてかかられる。
ならば、大勢がいる前で自分の意見を主張するしかない。
死に戻り前は私がどれだけ主張しても、マリアンヌのために動いても、マリアンヌが素晴らしいからだと称賛はすべて彼女のものだった。誰も彼女を疑うことはなかった。
だけど今、私たちのやり取りに周囲がどちらを信じていいのか、また私側に立つ人たちがいることでいろいろ迷っているのがうかがえた。
私がすることは変わらない。
後ろめたいことなど微塵もないので、主張も態度も変える必要はない。
平常心を保つよう大きく深呼吸をし、思い通りにならない苛立ちと渇望を見せるマリアンヌの金の瞳を見据えた。
マリアンヌがきっと睨みつけ、口を開く。
「それって結局――」
「まだ言うんですか? 高貴なご令嬢ってこんなに意味が通じないものなのですか?」
「シリルは黙っててちょうだい。私はエレナさんに話しているの」
「名前を気安く呼ばないでください。これが貴族の会話? まともに相手するのがこれほど疲れる人は初めて。放っておいてほしいのに意味がわからない理屈で構いにくるし、高位貴族のご令嬢はハイエナかと思って僕はずっとあなたのことが怖かった」
マリアンヌの声を遮るように、シリルが思い出したと肩を震わせた。
もちろんシリルは怖がっていない。むしろ、怒りを込めた毒のこもった声だったが、マリアンヌには何も通じなかったようだ。
なぜかかわいそうな子を見る目でシリルに顔を向けた。
自分に自信がありすぎて、当たり前のように見下すその姿勢に辟易する。
「どうしてエレナさんなの? 私はあなたたちのことを思って、あと、彼女の今後を思って忠告しているだけなのよ。彼女、人を殺しているのよ」
マリアンヌの姿勢は変わらない。周囲の変化にも気づいていない。この先もきっと変わらない。
あまりにタフ過ぎて薄気味悪くなる。
こんなにも話が通じない。
死に戻り前も通じなかったが、今は周囲が皆彼女に賛同しているわけではないためか、余計にそれが際立ち異質さを放っていた。
「本当に何回繰り返したら……。僕、気持ち悪くなってきた。思っていてのそれ? ここから証拠が出てきたらむしろ作られたのかと疑っちゃうくらい、急に出てきたでたらめな話をいつまでするんですか」
「大丈夫だ。もしそうなったら必ず俺がその証拠を見つけ突きつける。どれだけ裏に潜って工作しようとしても、必ずだ」
「あっ、ベアティは出ちゃ……」
シリルの戸惑いの声が聞こえる。
「僕たちも頑張ったけど、やっぱり無理だったか」
「こうなるとは思ってたよ」
「ま、こうなったらしかたない」
双子とランハートが、かなり不安を煽る発言とともに肩を竦めた。
「皆さんはベアティへの認識がまだ甘いです。ああ、僕がぶつけている間は大丈夫だと思ったのに……。もう、知らない」
またしてもぼそっと呟くシリルの声に、本格的に心配になってきた。
どうやらシリルがここで前に出てきたのは、自身の思いをぶつけると同時にベアティへなんらかの配慮があったようだ。
「エレナ様を傷つけるヤツは俺が許さないので安心してくださいね」
ベアティを見ると、ゆったりと見惚れるような完璧な笑みを浮かべた。その瞬間、教室全体の空気が重くなる。
何名か、立っていられないと床に崩れ落ちた。
「きゃあ」
「どうした?」
ぐすっ、ぐすっ、と泣く女生徒まで出てきて場が混乱する。
私自身も見えぬ何かに支配されたように息苦しくなって荒く息を吐き出すと、ベアティが慌てて私を抱き上げた。
「ごめん。コントロール見誤った」
ベアティに抱かれると同時に、息苦しさはなくなる。
不思議に思い顔を上げると、ベアティが柔らかく目を細めた。
「そうだよ。ほかはいいけど、エレナお嬢様を苦しめるのだけはやめて」
「さすがにこのままでは話し合いにならない。話をつけるならつけるで構わないが、こちらが不利になるようなことはしないほうがいい」
「わかった」
シリルの苦言と、ランハートの助言でふっと全体の空気が軽くなる。
倒れていた者も順番に起き上がり、泣いていた者も落ち着いた。
だが、これまで以上に軽はずみな言動はできないとたとえようのない緊張感がこの場を占めた。
ベアティの正体の片鱗を見た気がして、しかも公の場での力の行使にどういうことだと眼差しで問う。
さすがにもう触れずにいるのは無理だとベアティをまっすぐに見つめると、出会ったときから惹かれてやまない美しい双眸を細め、ベアティは鮮やかに笑った。




