61.対策と派閥
シリルの両親、大勢の命がかかっているため、絶対失敗は許されない。
それを考えるとプレッシャーに押しつぶされそうになるが、何もしなければ何も変わらない。
シリルのムーンライトブルーの瞳と視線が絡まる。
自暴自棄になりかけていた過去を持ち、死に戻り前はおそらく自ら奴隷に身を落としマリアンヌに支配されていた。
もう二度と同じことを繰り返させはしない。
その美しい輝きを濁らせないためにも、必ず助け出したい。シリルに家族との時間を取り戻してあげたい。
小さく頷きにこっと笑うと、強張っていた表情が少し緩みシリルも小さく頷いた。
その姿に、心臓がぎゅっと締め付けられるように痛む。
「警備や護衛だが、どんな魔法が施されているかわからない。当日、もちろん魔法使いも配置されているだろう。それにどう対応するつもりだ?」
ランハートに視線を移すと、目を輝かせ好戦的で挑むような表情をしてこちらを見ていた。
このような顔をするときは煽っているのではなく、私が策を持っていると確信して聞いているだけだとこの一か月の付き合いでわかってきた。
ランハートはじっくり腰を据えるときと動くときの落差が激しく、今は答えを早く聞きたい、つまり期待しているのだ。
信用するなら百パーセントだと言っていたが、まさにそれを体現するかのような態度にむずがゆくなる。
「こちらも準備をしてきました。能力が秀でている獣人たちに、同じような志を持っている魔法使い、この問題で動く人たちはたくさんいます。そして何より、私がいます」
私の聖女スキルは悪意に対してかなり有効だ。
スタレット侯爵の力がどこまでのものかわからない以上気は抜けないが、死に戻り前と違ってレアな聖女スキルを持っている。
これに関して、マリアンヌの強奪とどう関係しているのかわからないが、持てる者は最大限に使うべきだ。
「この機に相手の戦力を一気に削いでいきたいです」
敵の魔法使いの中に精神干渉を受けている人がいたなら、そこから解放できれば彼らは戦力外となり、スタレット侯爵の駒は減る。
直接戦えなくても、そうやって私も敵を減らしていくことができる。
むしろ、魔法使いにこそ私の力はかなり有効だ。
「わかった。ならば、被害を最低限に抑えるためにも私たちも動こう」
「表立って動いてもいいのですか?」
「陛下が正気に戻り一か月。そろそろスタレット侯爵もおかしいと気づくころだ。もしかしたら気づいているのかもしれないが、表立っては何もできない。様子見をしているときに、こちらから仕掛けることは有効だ。むしろ、公になれば表立って抗議できないのは向こうだし絶好の機会だ。それでいいな?」
そこで、ランハートはベアティを見た。
シリル、そして双子もベアティへと視線を向ける。
「俺も声をかけておきます。必ず成功させるし、この作戦はエレナ様が肝だ。命にかけて俺がエレナ様を守ります」
声をかけておくというのは、冒険者だろう。
ベアティの人脈は意外と広く、そして、ここでもなぜか最後の判断は自然とベアティに仰がれるようになっていた。
ランハートではなく、ベアティ。
強者である気配と言われればそうだが、ここに私の知らない、死に戻り前にマリアンヌが敬称呼びをしていた何かがあるのではないかと思っている。
正直、両親をはじめ周囲のこの対応は気になるけれど、ベアティが自ら話さなければ私は訊ねるつもりはない。
理由は簡単で、ベアティが私に害することはしないと信じているから。それ以外のことは、必要になればまた話してくれるだろう。
「奴隷魔法の契約を解除できる人物を数名用意しておく」
「はい。ひとまず、逃がした相手を匿える場所も用意していただけたら助かります」
「わかった」
さすが王族。
ランハートがいるだけで、事後の安心感がすごい。
「僕たちも救出できるまで情報を引き出してくね~。ただ」
ミイルズがそこでアベラルドへと視線をやると、続く言葉を彼が引き取った。
「無事救出できたら、これを最後に彼女の取り巻きでいるのは抜けたい。さすがに精神的に苦痛になってきた」
双子は妹の治療のために会うたびに確認していたが、もともとマリアンヌに好意的に接しているため精神干渉する必要がないと思われているのか、特に黒い靄がかかっているのを見たことがない。
だが、気持ちが態度に出てくるようになると危険なため、そろそろ頃合いなのかもしれない。
「情報は大事なのでできる限り正確なことを知りたいですが、終わればお二人の好きなようにしてください」
彼らが今後私たちの邪魔をするとは思わない。
シドニーが無事完治したこともあり、シリルの両親の件が終わればこのような関係を終わりにするのはちょうどいいだろう。
そう思って頷くと、双子は顔をぱぁっと輝かせた。
「好きに? やった。これでエレナちゃんのところにいける」
「そうだね。怒るだろうけれど、怒らせとけばいいし」
こっちに来るつもりらしい。
なぜそうなるのか。
「お二人までこちら側にいるとスタレット嬢はさらに気を悪くしそうですし、そもそもこちらに来たところで何もありませんけど」
「今更だし、僕らがエレナちゃんのそばにいたいだけだから。好きにしていいなら好きにさせてもらうよ」
「そうそう。ベアティとシリルだけでも目立っていたのに、ランハート殿下まで合流している時点でもう僕らが入ったところで変わらない」
「だから、派閥を作っているわけでもないですし、入る、入らないではないかと」
そっちでマリアンヌと対抗するつもりは微塵もない。むしろ、余計な火種はごめんだ。
図らずとも、死に戻り前のマリアンヌの取り巻きがこちらに揃ってしまうが私が望んだことではない。
「もちろん。僕たちも、彼らもエレナちゃんのそばがよくているだけだから、エレナちゃんは気にしないで」
うーん。ナチュラルに寄ってきた。
――このまま、マリアンヌの元取り巻きたちと交流していいのだろうか。
ふと不安になり、頭に過った思考に今はそれどころではないとその考えを振り払った。




