58.責任とは
睨みつけるように見られているが、そこに鋭さはなくどこか熱っぽくも感じて目が離せない。
だが、いつまで経っても視線が離れていかなくて、さすがに気まずくて口を開いたその時、ベアティが厭わしそうに声を上げた。
「ならそのまま参戦しなければいい」
「そうそう。そのまま黙っておけば平穏だよね。王子様は王子様のすべきことをしていたらいいと思います」
二人の言葉を無視して、ランハートは私を見たまま名を呼んだ。
「エレナ」
かなりマイペースなランハートに、ベアティとシリルがものすごく嫌そうに顔をしかめた。
思えばマリアンヌのしつこさから助けてくれたとはいえ、ここに来るまでも来た後も常にランハートのペースで、待機時間の多かったベアティとシリルは余計に面白くないだろう。
「なんでしょうか?」
だが、さすがに返事をしないわけにもいかずランハートに視線をやる。
顔の赤みは治まっているものの耳はまだ赤いまま、紫の目は私を捉えた。
「私はずっと君たちを、エレナを見てきたと言ったが覚えている?」
「はい」
いろいろあったが今日の話で、意外な繋がりに驚いたばかりだ。
こくりと頷くと、ランハートは言い聞かせるようにゆっくりと言葉を続けた。
「私は意識してエレナ・ランドールを見てきたということだ。どういう意味かわかるか?」
「えっと、つまり?」
とくん、と心臓が音を立てる。
真剣な眼差しが、先ほどの赤い顔が、今も赤く染めた耳が、これ以上聞いてはいけないのではと思うが、幻想的な紫の瞳に先を促すように見つめられ思わず聞いていた。
「もちろん合理的な判断で声をかけたが、私個人の理由は君と接点を持ちたかったからだ。そこの二人を見ていると面白くない気持ちになることが多かったが、その理由は今ならわかる」
「……」
「そのままわからなかったらいいのに」
無言でランハートと睨むベアティと、ふんっと不貞腐れたように告げるシリル。
すると、ランハートはにやりと笑う。
「さっきので傍観者ではいられなくなったから、私も彼らと同じように仲良くしていきたい」
意味深な言葉。
あと、ベアティたちと同じようにというのはどういうことだろうか。
一息つける場になればくらいの言葉で、偽りのない気持ちから出たものだが、これまでの距離感からまさかがっつりくるとは思わない。
冗談なのか、いろいろ調べて知っているランハートのそれが本気なら、これはややこしい人物が一人増えたことにならないか。
「仲良く? はいいですが、ベアティたちと同じというのは少し……」
「差別はよくない」
「差別ではなく、関係性の違いかと」
身分や過ごしてきた時間の密度が違う。
勘違いかもしれないけれど、最初にこちらの気持ちを提示しておかないと、ランハートはどんどんきそうだ。
「本音を出してもいいのだろう?」
「確かに言いましたが、日々の疲れとか、少し弱音を出す場所としてです」
「弱音を吐くなら、身心ともに近く感じれる位置にいたい」
「そんな極端な」
ゼロか百みたいな人だ。
そう思っていたら、本人の口から説明される。
「そういう立場だからな。それに、そこのベア……、まあ、今はいいか。信用すると決めたら百パーセント。あとは常に疑ってかかる。接点を持ったし、連携していくのだから一緒だ」
一緒かな?
口が上手いというか、押しが強いというか、内容的にもそこまで反撃するものでもなく、どのように返していいのか困ってしまう。
ベアティとシリルも強引なところはあるけれど、なんだかんだ私の意思を尊重してくれるからぐいぐい来られて言葉に詰まる。
「気になる女性と一緒にいたいと思うのは別に悪いことではないだろう? 様々な問題がある以上、無理強いするつもりはないし。とりあえず、彼らと同じフィールドに立とうと思って。蚊帳の外はつまらない」
「えっと」
本人が決めてしまったことに、どう言えばいい?
「そういうことだ。知ったのなら責任を取ってもらおうか」
そういうこと? 気になる女性?
なぜ、そうなるのか。
自分でばらしておいて?
「はぁ」
もう考えるのも疲れた。
ひとまず、スタレット侯爵家に対して共同戦線を張れていると理解していればそれでいい。なるようにしかならないだろう。
私が思考を放棄すると、ベアティたちがずいっと私の視界からランハートを遮った。
「何を急に出てきて勝手なことを言っているんですか? エレナ様の一番を譲るつもりはありませんし、そう簡単にエレナ様のそばにいることが許されると思わないでください」
「そうですよ。自分の職務に全うしていればいいのに。言っておきますが、エレナお嬢様は手強いんですよ。そう簡単に靡くと思わないでくださいね」
「ちょっと、二人とも」
何を言い出すのかと止めようと口を開いたが、視線で止められる。
ずっと見下ろされた状態なので、なんとなく発言しにくい。
「エレナ様。身分は関係ない。これは男と男の戦いです」
「そう、なの?」
「ああ。そうだな。個人の問題だから、ここに私も身分を持ち出すつもりはない。それに彼らに持ち出したところで意味もなさそうだしな」
意味もない?
とにかく、ランハートは二人が口を挟むことを問題としていないようだ。
なら、いいのだろうか。
いや、よくないよねと、これまでのようで少し違った意味にも聞こえてきてベアティを見る。
トロリと滲む甘さ、それに見え隠れするように飢えたような獰猛さを覗かせ私を見ていた。
とく、とく、と鼓動が早くなって胸が苦しくなる。
これ以上見ているとどうにかなりそうで助けを求めるようにシリルに視線をやると、にっこりと意味深に微笑まれた。
――えっ、これどういう意味?
この日、新たな問題が発覚したと同時に、これまで通り穏やかではいられない波乱の予感を抱えたまま限界を迎えた私は思考放棄した。
紫と衝動ここまでです。
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次章は聖女と離脱
引き続きお付き合いいただけたら幸いです。




