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二度目の人生は離脱を目指します  作者: 橋本彩里
紫と衝動

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52.のぞき部屋


「この時間帯、ここで待てば見えるはずだ」

「わかりました」


 小さなのぞき穴に身を寄せるように覗いているため、話すたびにランハートの声が耳をくすぐる。

 こそばゆさに身を縮めながら、私は外の様子をうかがった。


 私はとある部屋にランハートと一緒にいた。

 大人数で移動しバレるといけないため、ベアティとシリルは先ほどの部屋で待っている。


 ランハートの立場や王子が持っている情報から私たちをいいように動かすこともできたけれど、最後は頭を下げた。

 王族が公式ではないとはいえ、頭を下げるなどとんでもないことだ。


 さすがにここまでされると、相手が王族であることは推測できる。

 そのため、相手が誰なのか、どのような状態なのか、ここにいることばバレないだろうか、早く終わらせてしまいたい気持ちと、知る怖さもあり私の緊張は最高潮に達していた。


 身体に力が入っている私を見て、ランハートがふっと小さく笑う。

 頭上から息がかかり見上げると、緊張の面持ちながらもわずかに両目を細めランハートが私を見下ろしていた。


「彼らは随分と君を心配していたな」

「ええ。二人はとても私の身を重んじてくれているのですがたまにいきすぎることもあり、失礼があれば申し訳ありません」

「彼らもわきまえまがら我を出していたから問題ない。君を恩人であること以上に慕っているのがわかる。ここで私が君に何かすれば、身分など関係なく報復されそうだ」

「それは……」


 その先は続けられなかった。肯定も否定もできない。

 ベアティたちにその辺りの分別はついていると思いたいけれど、もし私に何かあれば何もしない彼らも想像できない。

 私は苦笑し誤魔化した。


「まあ、彼らの対応は想像ついたことだが、君のほうは意外だったかな。もっと彼らと依存関係にあると思っていたが違ったな」

「依存関係ですか?」


 それは観察と報告からの推察も入っているのだろう。

 確かにべったり感は否めないが、それぞれ個々ではやるべきことをやっている。観察していたのならベアティたちの活動は知っているだろうと思うと、腑に落ちない。

 それが顔に出ていたのだろうか、ランハートが苦笑し言葉を添える。


「少なくとも、彼らは君がいなければ制御できないというのがわかった」

「共有と共感、そして許容がなければ長年一緒に過ごせないので、互いに相手に身を預ける部分はあるとは思います。私も大事にされている自覚はありますし、彼らに応えられるようにと思って過ごしていますが……」


 意見を述べながら、ランハートのほうこそ意外な面が多いなと思う。

 もともと、紫の殿下は存在が遠いこともあり何を考えているのかわかりにくい人だ。


 死に戻り前はマリアンヌにべったりで寵愛し、充分な証拠もなく彼女に言われるがまま理不尽に私を糾弾し、塔へと閉じ込めた。

 そして領地はく奪の上に家族の追放は、スタレット侯爵家の力もあったが王家も絡まないとできないことだ。

 だから、ランハートに対してはほかの取り巻きたちとは違ってどうしても身構えてしまう。


 今は死に戻り前と違い、マリアンヌと距離を取っている。取り巻きもおり交流しているが、多くを語らずといったスタンスで特別親しい相手はいない様子だ。

 側近ともつかず離れず、ビジネスライクといった関係に見えた。

 ただでさえ、距離を感じ身構えている相手の行動にまだ気持ちや思考がついていかず、急な接近や頭を下げたことも含め、話して意外性が多いのはランハートのほうだろう。


「そういうところだ。君のほうが大人なんだな。そして彼らに対して甘い。だから、彼らも個々で高めながら依存度が上がって隙がなくなっていくのだろう」

「確かにそのように説明されれば思い当たる節はなくもないですが、恩ありきなので時期やきっかけさえあればすぐに変わると思います」


 彼らがまだ私のもとに留まっているのはランハートの言うように、刷り込みのような依存の部分も多少はあるのだろうけれど、恩をまだ彼らが返しきれていないと思っているからだ。

 傷ついたことのある彼らの心は複雑だ。

 だからこそ、傷に敏感でありその分優しくもあり、その形は歪であったりもするし、痛みを知るからこそ簡単に割り切れないこともある。


 だが個々の能力は非常に高く、とっくに独り立ちする実力は持っている。

 私とともに領地にこもっていたため、世間に対してはこれからだ。

 まだ彼らは過去との決着をつけられていないこともあり、それらが無事片付きしたいことを見つければ、あっという間に彼らは羽ばたいていくだろう。


「そう簡単な話ではないと思うがな。来たようだ」


 そのような話を小声でこそこそしていれば、いつの間にかターゲットがすぐそばまで来ていたようだ。

 瞬時に気持ちを切り替え、穴から見えるものに集中すべく視線を凝らした。

 数人の足音とともにやってきた人物、目の前の光景が信じられず私は目を見開いた。



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