49.強奪スキル
「ロレッタ。大丈夫?」
彼女の横に座り背中をさすると、ロレッタは弱々しいながらもゆっくりと身体を起こした。
「ええ。あまりのことに気持ちや考えがついていかなくて。すみません」
「いいのよ。知らないこと、考えもしなかったことばかりだと思うし」
「その、精神干渉というのは……」
聞いてもいいのだろうかとうかがうような視線に、私は問題ないと大きく頷いた。
奴隷契約を結んでいるため、決してこの情報は他人に漏れることはない。こういうときは互いにとって安心である。
私たちの事情を話すほうがロレッタも自分のことを冷静に考えられるだろうしと、これまでの経緯を赤裸々に話す。
「ここだけの話ね。彼らはスタレット令嬢から精神に干渉する攻撃を受けたことがあるの」
「攻撃ですか?」
「人の意思を曲げようとするもの。自分の思い通りに支配しようとする力を持っているというのが私たちの見解。そのため、私たちは彼女が世間の評価のように善人であると信じられなくて」
まずは最初からマリアンヌを疑っていたことを教える。
同じように疑えとは言わないけれど、もしかしたらロレッタの回復スキルを奪った張本人である可能性もあるので、盲目的に信じている状態は避けたい。
「――支配、ですか」
「言い方は大袈裟かもしれないけれど、自分を持ち上げてくれる人を好み、常に自分が優位でいたいタイプだと思うの」
「確かに……。これまでスタレット令嬢が身分的に上でしたので深く考えませんでしたが、言われてみれば節々にそういったものがあった気もします。自然と持ち上げるような発言を心がけていましたし、失敗すると不機嫌になられることもあったので」
怖いところは、周囲がそうだとそうしなければならないという同調圧力だろう。
マリアンヌはそういったことをコントロールするのがうまいのと同時に、そうすることが許されてもいる身分のため、ロレッタのように大抵の人は何も疑問に思わない。
「それと私は彼女にあまり好かれていないのと、彼らは逆に気に入られて狙われているの。そのため対抗策を得るために、彼女の動きを探っているところだった。あなたがいた奴隷商も彼女が出入りしていると聞き、何か手がかりを得られないだろうかと訪れたの」
そして、ロレッタと出会い、マリアンヌが強奪スキルを持っていた可能性が浮き上がった。
私は死に戻り前のこともあり、もうそうとしか考えられない。
死に戻り前は私のスキルを奪ったため、ロレッタのスキルを奪う必要がなかった。理由は簡単。同じものは二つもいらないから。
だけど、今回は私が領地にこもったからかスキルは奪うことができなかったため、ロレッタの回復スキルを奪うことにした。
ここで疑問なのが、私のスキルは聖女スキル。だけど、死に戻り前にマリアンヌが発表したのは、回復スキルだったことだ。
聖女様と崇められちやほやされることを望んでいたマリアンヌだと、聖女スキルを奪えたのなら絶対そう公表するはずだ。
そこに何か理由があるのかはわからないが、とにかく今回領地にこもったことで私は逃れることができた。
いや、ちょっと待って。
七歳の時に倒れたのはマリアンヌから何か飛んできたと思って避けたからだが、もしかしてあれが強奪スキルだったのではないだろうか。
すでに、あの時に私のスキルを奪おうとしていたとしたら?
強奪スキルも、精神干渉と同じように悪意あるものと判定され、黒い靄として見えた可能性はある。
それを避けたため、行き場のなくなったスキルがもとに戻りマリアンヌが倒れた可能性はないだろうか。
――あっ……、恐ろしいことに気づいてしまったかもしれない。
スキルも万能ではない。失敗すればペナルティーはあるはずだ。
そして、強奪スキルも奪ったスキルを利用する条件があるとすればどうだろうか。
死に戻り前、私は言いがかりでずっと塔に閉じ込められていた。
私の情けない姿を見るにしては、マリアンヌは頻繁に訪れてきた。
もしその行動の理由にスキルの条件が関係するのだとすれば、奪った相手を手元に置いておく必要があったと考えられるのではないか。
――ああ、待って!
さっきからそればかりだ。
次から次へと繋がっていく思考は衝撃的で、我知らずぶるりと身体が震えた。
これが本当なのだとしたらよくもそんな恐ろしいことをしていたと、それによって奪われたものの重さに胸が締め付けられる。
「聞いたいことがあるのだけど、スキルを失ってからも定期的にスタレット令嬢から誘われたりしなかった?」
「はい。スキルなど関係ないよと何度か誘ってもらいました。だから、侯爵令嬢のお気に入りとして使い道があると思い両親も私を見捨てなかったのだと思います。だけど、学園に入る前に急に考えを変えたようで……」
ああ、やはりそうだ。
私にロレッタを売ったことで商人はグルではないことになるが、マリアンヌ側が両親にロレッタを奴隷にすることをそそのかしたとすればどうだろうか。
奴隷としてそばにおいておけば、いつでも無抵抗のままロレッタと接触できる。だから、ご用達の商会を紹介したのではないか。
合法であるし悪いことにはならないと、お金も入るし双方いいなどと甘い言葉をささやいて。
「いくつか質問があるのだけど、スキルがなくなる前にスタレット令嬢に何か話しかけられたとか触れられたとかない?」
「特に変わったことは……。あっ、帰り際に彼女の従者に呼び止められて個人的に三人で話をしました。その時にこれから頑張りましょうねと手を握られて、そういえばその時にふっと大事な何かを抜かれる感じがしたかもしれません。一瞬だったし緊張していたので、今まで深く考えたことはなかったのですが、もしかしてその時に?」
ロレッタの戸惑いながら告げられる話に、私はベアティたちと顔を見合わせ深く頷いた。




