41.決意
アベラルドはびくぅっと身体を揺らし、ミイルズはその反応に不思議そうにしながら弟に確認を取る。
「いいよね?」
「うん」
アベラルドが頷いたので、ミイルズが話を始めた。
「僕たちはずっと高ランクの回復魔法が使え、なおかつその実力と人柄が信頼できる人を探している。だから、エレナちゃんがどうなのか確認したかったんだ」
予想通りの答えに、私は小さく頷いた。
「それであの水かけと水晶と今日の……」
とてもじゃないが、今後頼る可能性がある相手にするようなことではない。
呆れた声を出すと双子は申し訳なさそうに口を引き結び、ベアティとシリルは手厳しく言い捨てた。
「やり方は最悪だ。やっぱり聞く必要はない」
「そうだよ。あんなことしといて頼りたいとかクズすぎない?」
容赦ない二人の言葉に、双子は肩を落とす。
「それに関してはごめんなさい。僕らはもともと悪戯で相手の反応を見るのが好きで、ついでだから楽しもうと思って」
ミイルズがしょぼんとした口調で告げ、アベラルドが続ける。
「二人だと楽しみも倍増、怒られたときは半減されるからやめられなくて。あと、マリアンヌ嬢がエレナ嬢のことをライバル視しているみたいだから、僕ら態度を決めかねていた」
「そう。だから、まずはいつも通りが一番かと思ったんだよね」
その先に目的はあったけれど、彼らにとっては普段の遊戯の一つ。
それに巻き込まれた私たち。
真剣なのか遊びなのかわかりにくい彼らの行動だ。
だが、マリアンヌのことに触れられれば、私の経験上強く言えない。
いまだに死に戻り前のことを振り返っても、あそこまで追い詰められるまで自我が出せなかったのか、周囲もどうしてそこまで彼女を盲目的に信じることができたのか理解できないでいた。
ただ、今の彼らのこのセリフで、盲目的にマリアンヌを慕っているわけではないことがこれではっきりした。
それだけでも、彼らの言葉に耳を傾ける価値はあると思えた。
「ライバル視とは、同じ回復魔法が使えるからですか?」
「それもあると思うけど、エレナちゃん、人気があるんだよ。確か、ケビンだったかな。彼が絶賛したことから始まって、滅多に見れないレア度からも男性陣の間で話題に上がることが多くて。それをあまりよく思っていないみたいだから」
ケビンの名前に、一瞬びくっとする。
ベアティとシリルが「余計なことを」と、背後で言っているのが聞こえる。
悪口を言っているわけではなく、きっとよかれと社交の場に出ない私のために褒めてくれたのだろう。
けれど、そのせいで噂になりマリアンヌや双子に目を付けられたと思えば、私も余計なことをと思ってしまう。
「そうそう。気にしてないふうに装っているけれど、一番に注目されないと気が済まないのが言葉と態度の節々で感じるよ。そのわかりやすさが、おだてやすいし機嫌も取りやすかったのだけど」
「回復魔法もかなり高レベルだし、世間の評価通りの人物なら僕たちもこんなに悩まなかったのだけど、彼女に弱みを見せるのは気が進まなくて」
双子の言葉が止まらない。
少し前までは二人の意見は対立していたのに、この際だからげろっちゃえとばかりに心情を吐露する。
彼らは基本楽観主義なのかもしれない。今回のも彼らにとって遊戯の一つ。
その目的に対しては慎重であるようだが、ほかに関しては勢いで動いてしまうようだ。
関わりたくなかったマリアンヌと関わりができ、今回のことで彼女は私たちに完全に目をつけただろう。
きっかけは双子だけれど、マリアンヌの態度を見ていたら遅かれ早かれ二人はターゲットにされていたであろうし、私自身も気に食わないようなのでそこは程度の差だ。
――それにしても、性格悪い!
マリアンヌの空気を読まない発言や上から目線。
それらに対して、何も気づいていないところが彼女らしい。
アベラルドの説明では、ベアティたちのはっきりした拒絶さえも通じていない様子で、今後の動きが見えないとのことだった。
ベアティとシリルも負けていなかったこと、それに対して二人が悪く見られるようなことはなくてよかったと安堵するが、さらなる粘着が予想される。
私がそうだった。
彼らを気に入って自分のものにしようといった意味合いとは違うが、なぜかなかなか離してもらえず塔に閉じ込められた。
「そこまで話すということは、彼女ではなく私に頼りたいと気持ちが傾いていると受け取ってもいいのでしょうか?」
「僕たちを許すの?」
アベラルドがまたベアティを気にしつつ、おずおずと訊ねてくる。すっかり別人のようにこちらの意向をうかがうようになった。
私はベアティとシリル、そして双子たちへと視線を移動させ曖昧に微笑んだ。
これは許すとは少し違う。きっと、同情なのだと思う。
死に戻り前、何があったのかわからないけれど、黒い靄で顔が見えなかった取り巻きたち。
ベアティたちと過ごすうちに、彼らのことを放っておくことができなくなってきた。
私が双子に助け舟を出そうとしていることが気に食わないだろうベアティはぐっと私の腰に手を回し、シリルは手を繋いでくる。
だけど、言葉では私のすることを止めない。
双子に手を伸ばすのは、ベアティとシリルの存在が大きい。
彼らと過ごした日々が、死に戻り前の状態を他人事だと思えなくさせた。
マリアンヌに束縛されずに自由に生きるには、きっと彼らの黒い靄の件も片付ける必要があるのだと私は静かに頷いた。
赤と青の遊戯、ここまでです。
いつもお付き合い、ブクマ、評価、リアクションをありがとうございます!!
学園編(紫登場)に行くまでに、ベアティサイド入ります。
これまでに何度か視点を入れようと試みてきたのですが、いろいろ重いので彼がある程度の年齢になってから語るほうが伝わりやすいかと判断しやっとです笑
過去、現在、そして次章にも繋がるお話になるかと思います。お付き合いいただけたら幸いです。




