91.これから
「エレナ。私の嫁にこない? 私にはエレナという癒やしが必要なんだ」
目の下にくまを作り疲れた様子のランハートが、私の顔を見るなりふらふらとだけどものすごい速さで目の前まで来て告げた。
「また来たのか? 王族ともなればすることも多いはずだが暇なんですね」
「忙しいに決まっている。現に学園にいく暇もないくらいだ」
すかさず、やらんぞと私の腰に手を回したベアティは言い返す。
ベアティは今後子爵家の近くの領地と爵位を手にする予定だ。
立場を確立したベアティは相手がこの国の王子であっても怯むことはなく、むしろ邪魔だとばかりに顔をしかめる。
「息抜きくらいいいだろう? 誰かさんが一気に片付けるから本当にやることが多くて困っているんだ」
「それなら最初から管理できていれば問題なかったことだ」
「はいはい。ごもっともな意見をありがとう。ベアティの活躍がなければ、ここまで大々的に動けなかったからありがたく思っているよ。できれば事後も君の力を貸してほしいところなんだが、君は要請に応えないし」
「俺はエレナのためにしか力を使わない。それは国がする仕事だし、今はエレナといることが優先だ」
ぽんぽんと繰り広げられるこの会話は、ここ最近の定番だ。
むしろ仲が良いなと思うくらいで、ランハートも実は対等に物を言い合えることが嬉しいのか生き生きしている。
「エレナお嬢様、お茶をどうぞ」
同じくこの光景に慣れベアティと反対側に座っていたシリルに進められるまま、私はカップに口をつけた。
「美味しい。落ち着くわ」
「エレナお嬢様の癒やし担当が僕だからね。今はリラックスタイムだからそこの二人は気にしないで」
にこにこと笑みを浮かべ、これ好きでしょと私の大好きな焼き菓子が乗った皿を前に置く。
シリルはベアティが帰ってきてもこれまでと態度は変えず、いつものようにそばにいてたまに毒舌を発揮していた。
しかも、癒やし担当と本人が言うだけあって、屋敷にいる時は耳としっぽを出しっぱなしだ。
今も触っていいよと頭を差し出されて、堪えきれずその頭を撫でた。すると、嬉しそうにぱたぱたとしっぽを振る姿に、どうしてもにやけてしまう。
――可愛い。
何かと誘惑してくるシリルに癒やされながら、出されるまま手を伸ばし菓子を堪能していると、目の前に座っていたミイルズとアベラルドがお菓子の箱を出してきた。
「これも美味しいよ。それにしてもすごいね。ベアティは成長するにつれて竜人の血が濃く出てきたんだって? ハーフって不思議。今後どうなるんだろうね~」
「こっちのチョコは限定品だよ。まあ、エレナ嬢への執着は変わることなく、むしろ増していくのは簡単に想像できるよね」
その視線は私の腰に回された手に向かっている。
横は絶対譲らないとのベアティのわかりやすい主張。
竜人族であることと番であることの愛の重さは人族では計り知れないところがあり、あまり感情を荒げると周囲に影響を及ぼすので、公の場以外ではベアティの好きなようにさせていた。
「ベアティの手綱を握るのはエレナちゃんだけだね~。しんどかったら言って? 竜人の番といっても半分人族なんだから、縛りを解く方法とかあるでしょ。エレナちゃんのためなら何でも言うこと聞くから遠慮せずに言ってね」
「そうだな。そういう意味でも目がますます話せないよね。これからも監視が必要だよね。エレナ嬢のそばは退屈しない」
こちらもにこにこととんでもないこと告げる双子。
あの日は本当に助かったが、何かと理由をつけては私たちの前に現れ気づけば一緒にお茶をしたりと完全に懐かれてしまった。
そして、まだ監視は続くらしい。
「そんないいものではないですし、そうそう目新しいことはないと思いますよ。私はゆっくりする予定ですから」
今後も何か起こると思われているのも心外だ。
私はのんびりゆっくり平穏に生きたい。そのためにいろいろ頑張ってきたが、原悪がいなくなりこれからはまったり過ごすのだ。
「僕はエレナお嬢様のそばにいられればそれで。僕たちは切っても切れない絆がありますからね」
そういって、ぴこぴこと獣耳を動かし誘惑してくる。つい、その耳に手を伸ばして気づく。
――ああ、これって飼い主以上恋人未満でもいいからってやつ?
ベアティへの気持ちに罪悪感を覚えずにいられるようにしつつ、しっかり自分の立ち位置を確立してくるシリルのしたたかさに気づき、どのような顔をすればいいのかわからない。
こちらでわいわいと盛り上がっていると、ベアティの腕に力が入る。
ランハートも勧める前にとすんと座り、シリルが入れた紅茶に手を付けた。
「ゆっくり? それは無理だろう。王都に出回っている子爵家縁の製品もそうだが、聖女として国内に限らず国外にも名が知れ渡ってきたんだ。のんびりゆっくりなんてまだまだ先だな。私に明るい未来を見せた責任は取ってもらおう。エレナと一緒に動く公務も増えるだろうから今から楽しみだ」
そうだった。
聖女として名が通ってしまったため、しかもハーフとはいえ竜人族の番。私の動向はどうしても注目を浴びざるを得ない。
こんなつもりじゃなかったと落ち込んでいると、ベアティに手を掴まれた。
「大丈夫。俺が必ずエレナを守るし、エレナの道を邪魔するやつは焼き尽くすから。エレナは望むように動いたらいい」
「焼き尽くしたら道がなくなっちゃうよ」
過激な発言に苦笑すると、ベアティはどこまでも真剣な眼差しで私を見た。
「今世も来世も、そのまた次も、何度生まれ変わっても俺はエレナのために生きる。離れても絶対、捜してみせる。エレナのそばが俺の居場所だ。邪魔する者は許さない」
それくらい大事だと伝えてくれているのだけど、何度転生してもずっと一緒というのは、たまには自由というか、違う人生を生きていたいとは思わ、あっ、はい。
恨めしそうな表情に思考を止める。死んでも、どこまでも追いかけてくるらしい。
――ちょっと、次の生までとかしつこすぎない?
頼もしいと喜ぶべきか、自由がないと嘆くべきか。
だけど、出会って初めて放った言葉が殺してくれだったベアティが、生きる希望を、さらに生が終わってもその先を望むようになった。
やり直しの人生の中で、それは泣きたくなるくらい嬉しい。
生きているだけで、一人ではないだけでこんなにも明るい気持ちになれる。
男性陣の絡み方にちょっと失敗したかなと思うこともあるがこれもこれでいいじゃないかと、言い合いながらも楽しそうに話す彼らの話に耳を傾けた。
FIN.
最後までお付き合いありがとうございます!
死に戻り前の解き明かしと、エレナと五人の関係を無事まとめることができてほっとしております。
ブクマ、いいね、評価と日々励みをいただきました。誤字報告も助かりました!
本当にありがとうございました(*・ω・)*_ _)ペコリ
次作は恋愛軸強めのものになります。
興味が沸きましたら連載の際にはまたお付き合いいただけたら幸いです。
またどこかで出会えることを……。
橋本彩里




