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冒険の書は図書館から〜本を喰らう少女〜  作者: picono
第2章 〜夜の囁きとカラス〜
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蔵書庫からの声

 写本室へと向かう廊下は、昼間の喧噪が跡形もなく消え、灯火石の白光が石の床を磨かれた鏡のように淡く光らせる。

 火気厳禁の図書館では、灯火石と呼ばれる光る鉱石が基本的に用いられている。

 油ランプの明かりより明るさが均一であり、影が濃く出にくいので写本や読書に最適な照明であるが、非常に高価であるため、一般家庭では普及していない。

 ナルセア大図書館において、例外的に炎があるのは、女性の彫像が持つランタン1つのみであった。

 これは、いつの時代の館長が言ったのか記録はないが、「温もりも必要だ」と特別に許したものだったらしい。


 写本室に戻るとアリアは羊皮紙を机に広げ、ペンをすべらせ始めた。

 元々は残業はするつもりはなかったけれど、さっき読んだ歴史書の作者の思いに当てられたのか、無性に書きたかった。

 灯火石の淡い光が、羊皮紙に刻まれる黒い線を優しく浮かび上がらせるたび、アリアの瞳に反射した。


 ――あと数行で、今日の写本は終わりにしよう。

 そう思っていた矢先だった。


「……?」


 ひそやかな声が、漏れるように聞こえた。

 呼吸を止め、耳を澄ます。

 羽根ペンの音ではない。風の音でもない。


 確かに――声だった。


 アリアは眼鏡の奥で碧眼を細め、羊皮紙を閉じる。

 心臓がどくんと跳ねる。

 図書館で時折、本から「気配」を感じることはあった。けれど、今のはただの感覚ではない。はっきりと「囁き」だった。


「……助けて」


 今度は確かに聞こえた。少女のような、けれどどこか遠くかすれた声。


 アリアは立ち上がり、写本室を出て廊下を見回した。

 人影はない。

 石造りの壁に掛けられた灯火石が、変わらず廊下に光を投げている。


 声は、さらに深い方から――蔵書庫の奥から響いていた。


 躊躇はあった。

 勤務を終えた後に蔵書庫へ入るのは、規則違反だ。

 けれど、あの声を放ってはおけなかった。


 他に駆けつけてくる人の気配もないい。

 アリアは足音を忍ばせながら廊下を進んだ。

 石床に響く靴音がやけに大きく感じられる。

 蔵書庫の重厚な扉の前に立つと、そこだけ空気が冷たいように思えた。


 深呼吸を一つして、アリアは扉を押し開いた。

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