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プロローグ

物語は、いつも本の中に眠っている。

ある時は英雄譚として、ある時は失われた歴史として。

そして、読む者の心がそれを呼び覚ます時――物語は現実に姿を変える。


けれど、その代償を知る者は少ない。

書かれた想いは、語られた真実は、ただ永遠に残り続けるわけではないのだから。


これは、一冊の本から始まった少女の記録。

やがて世界を揺るがす大きな物語へと繋がっていく、ひとりの司書の歩みである。

学問都市ナルセア。

 大陸の中央に位置し、ソルダリス王国の「知の都」と呼ばれてきたその街は、王国の文化と学術の中心地である。

 石畳の大通りは朝も昼も夜も賑わい、行き交う旅人や学者、商人の声で絶えることがない。

 市場には異国の布や香辛料が並び、広場では吟遊詩人が物語を語り、学生たちが議論を交わす。

 塔の先に掲げられた旗が風にはためくたび、この街が王国にとって特別な存在であることを誰もが思い知らされる。


 その都市の心臓部に建つのが、王国直属の国立図書館――「ナルセア大図書館」であった。

 灰白色の石を積み上げて築かれた外壁は、どこまでも重厚で、時の流れに削られてなお揺るぎない。 高くそびえるアーチ型の窓は天空の光を集め、扉をくぐる者を荘厳に迎え入れる。

 中へ一歩足を踏み入れれば、外の喧騒はたちまち遠ざかり、インクと羊皮紙の匂いとともに静謐な空気に包まれる。

 光を反射する大理石の床の上に整然と並ぶ無数の書架。

 その書架には、何十万冊もの本が収められ、その内容は料理のレシピから歴史、神話に至るまであらゆる分野を網羅していた。

 だがこれは国全体に広がる記録のほんの一部にすぎない。


 ソルダリス王国には、ナルセアを頂点として大小合わせて二十の図書館が存在する。

 それぞれの館は「館長(館司長)」によって治められ、軍の将官に匹敵する権限を持つ。

 司書たちは見習いから始まり、補佐、正司書、上級、主任と階級を重ね、館長の座を目指す。

 そして全館を束ねる唯一の存在――司書長。

 司書長のみが、王国の歴史を記す責務を担う。


 そのため、図書館は単なる学術の場ではない。

 王国の記録を一手に握るそれは、必要とあれば軍事や外交に介入する力さえ持っていた。

 王の勅命も、図書館の記録がなければ歴史に残らない。

 ゆえに人々は畏れと尊敬を込めて、そこを「記録の塔」と呼んだ。


そして、その塔の片隅で働く一人の若き司書がいた。

彼女の名は、アリア・リュミエール

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