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ID448:チュートリアル部屋

俺は、よく分からない広い部屋の中を、ひたすら走り回っていた。


テーブルからテーブルへ飛び移り、挙げ句の果てにはシャンデリアにぶら下がろうとしたり。


「……はぁ……はぁ……」


そして今。

高そうな椅子に座り込み、汗だくで息を切らしている。


この体。

性能は現実と変わらない。

そんなことを確認するためだけに、わざわざ体力を削った。


俺は手のひらを開き、声に出す。


「システムメニュー。」


ピッ、と音もなく、ホログラムウィンドウが手のひらに浮かんだ。

ドラッグで動かせるし、ピン留めもできる。

手は開いたままでなくてもいいらしい。


ウィンドウには、テキストログがずらっと並んでいた。


五分ごとの記録が延々と。

そして、最新のログがこれだ。


【06:55: ID448、シャンデリアから落下。】


「……ダサ……。」


俺は別のタブを開く。

ヒントタブ。

次はジャーナルタブ。

その次は……コンソールコマンド。


普通のMMOと変わらないコマンドリストだ。

ただ、打ち込むんじゃなく“音声入力”で実行する仕組みらしい。


……ステータスも、インベントリも、装備欄も無い。


――これ、本当に“VRMMO”なんだろうか。

フォーラムじゃ「たぶんMMOだろ」って話だったけど……メニュー画面が視聴者側に見えないから、みんな憶測でしか語ってなかったな。


目の前のウィンドウと、この環境。

組み合わせがひどくチグハグで、現実味と非現実の境界が曖昧になる。


肌に流れる汗の感触は、完全にリアルだ。

家具の質感も、部屋の空気も。

そして――


さっきまでベッドで一緒に寝ていた、あの金髪の巨乳女。


……NPCにしては、あまりにも“本物”だった。


試しに抱きついてみたら、半分寝ぼけたまま、普通に俺に抱きつき返してきたからな。

……下の反応まで普通に出た。


あの通知が出なければ、多分止まらなかったかもしれない。


《リマインダー》


【現在ライブ配信中:ID448 デビュー編】


あれを見て、ようやく冷静になったってわけだ。


結局、やることもなく。

俺は部屋の隅の机で、無意味に紙束を眺める羽目になった。


やりたくてやってるわけじゃない。

他に選択肢が無かっただけだ。


ドアは鍵がかかっている。

窓の外を見れば、ここは四階建ての屋敷の三階らしい。


……あの女を起こすのも面倒で、仕方なく紙を読むしかなかった。


中身は――

最近のニュースと、この王国の情勢報告。

どうやら俺は“東星王国の元帥”らしい。


ただし、不思議なことに。

どの書類にも“俺の名前”は書かれていない。

すべて、「東星王国軍務卿」とだけ書かれていた。


思い出した。

新入生オリエンテーションで言っていたな。


ここは“ロストクラウン”ワールド。


中世後期。魔法は存在しない。

技術は徐々に発展しつつある。


帝国は崩壊し、各地は群雄割拠の時代。

そんな設定だ。


そして、俺が配属されたのは……一応まだ“王国”の体裁を保っている地域。


一応な。


貴族は腐敗し。

経済は崩壊寸前。

そして極めつけは――


前王は、隣国の名もない領主に逃げた先で殺されたらしい。

“王”のくせに。


……笑えねぇ。


「――わぁあっ!」


突然、ベッドから声が上がった。


さっきまで寝ていた金髪女が、何か悪夢でも見ていたのか、急に跳ね起きた。


寝ぼけ眼のまま、俺を見る。


「……あなた。」


俺は自分を指さした。


「……俺?」


「……誰?」



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