利用規約
すべてが暗闇だった。
上から降り注ぐ一筋のスポットライトだけが、ただ一人を照らしている。
その先は、完全な闇。
シシド・トーヤは中央に立ち、腕を組んでいた。
彼の目の前には、浮かぶメニュー画面。
複数選択形式の画面が表示される。
そこに通知が現れる:
《ラスト・クエスチョン》
続いて、落ち着いた女性の合成音声が流れる。
『この世界で、ひとつだけを守れるとしたら――何を選びますか?』
新たな選択肢が表示された。
【知識】
【仲間】
【名声】
【富】
シシド・トーヤは、ためらうことなく選択した。
『判定完了』
すぐに別のウィンドウが現れる:
《配属役職:東星王国の元帥》
「……元帥? っていうか、ストーリーじゃ王国全滅してる設定じゃなかったか? なんで今さら評議会にポストがあるんだよ……」
ファンファーレも音楽もなく、淡々としたチェックボックスと利用規約が浮かび上がる。
《ホライゾン・アーク没入型教育プログラム:放送契約》
『シミュレーション内での選択は、娯楽または学術目的で記録・分析・公開される場合があります……』
トーヤはニヤリと笑った。
「出たな……小さい文字のやつ」
音声が読み上げる中、彼はすべてスクロールし終え――
[同意する] を押した。読み上げは途中で途切れた。
次のメニューが表示される:
《ホライゾン・アーク:フィード公開設定》
「……今度は何だよ」
そこには4つの選択肢が並び、下には小さな注釈が添えられている:
【長押しで詳細表示】
彼は適当にひとつを長押しした。
☐ フル収益化
【スポンサー関連コンテンツすべてに対応:ブランドグッズ、ギャンブル系イベント、商品PRクエスト、プロモNPCとのイベント、広告付き視聴者特典など。
※視聴数優先の演出が入る場合あり。】
トーヤは鼻で笑った。
「はいはい、そういうやつね」
《公開プロフィール》
☑ 匿名アバター使用
☐ 実名・学生プロフィール公開
☐ 完全公開・交流許可
彼は迷わず一番上にチェックを入れる。
「名声は……まあ、そのうちでいいや」
《スポンサー収益プログラム》
☐ フル収益化
☑ 限定収益化
☐ 完全オプトアウト
少しだけためらった後、彼は「限定収益化」にチェックを入れる。
「どうせデータは抜かれるんだ。せめて昼飯代くらいは稼がせてもらおうか」
《監視レベル》
☐ 常時監視
☑ イベント時のみ記録
☐ 最小限のログ
この項目にはしばらく指を止めたまま、無言のまま選ぶ。だが、その迷いは明らかだった。
《感情フィードバック機能》
☑ 有効
☐ 無効
「これ使えるな。感情まで読み取れるってなら……“ダイナミック”ってのがどれほどか、試してみようか」
そして、最後のメニューが表示される:
《NPCシナリオ連動機能》
【※2つ以上選択でフルシミュレーション開放】
☑ NPC感情リンク
NPCがプレイヤーに対し、個別かつ持続的な感情(愛情・執着・憎悪など)を形成します。これは通常のNPC反応を超えたもので、セリフや行動に影響し、予期せぬイベントが発生することもあります。
☑ NPC関係イベント解放
NPCとの感情に基づいたシナリオイベントが発生可能になります。恋愛、友情、ライバル関係、宿敵化など、多様な関係性がプレイヤーとのやり取りに応じて発展します。
☑ NPCイベント自動配信
NPCとの関係性に関わる個人的なシーンが、事前通知なくライブ配信される場合があります。
☐ 視聴者NPC参加
抽選で選ばれた視聴者がNPC役としてイベントに登場。
☐ バイラルシナリオ導入
視聴者の人気投票で、特定NPCイベントが“ファン考案シナリオ”に置き換えられる可能性あり。
トーヤは、さほど真剣な様子もなく、数項目をタップした。
『設定完了。
シミュレーション接続開始。
シシド・トーヤ様、健闘を祈ります。
物語を生きろ。未来を創れ。』
光が消えた。
再び、完全な暗闇。
目を開けているのか、閉じているのかも分からないほどの闇。
――その時、感じた。
温かくて、柔らかくて、重い……何かが、自分の上にある。
呼吸が顔にかかる。ゆっくりと、近すぎるほどに。
感覚が戻り、それがブランケットや機器パッドではないと理解した瞬間――
彼は目を開けた。
すぐ目の前に、女性の顔。
微笑み。あたたかい吐息。
「……目が覚めたのね、ダーリン。」




