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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第16章 魔女帰省編
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ワルプルギスの夜、小さなドラゴンとささやかな前前夜祭

素材探しにいくフォレストミニドラゴンのペッカと主人公……。

夜に入り、俺たちは、明るい森を通っていた。

「おいペッカ、魔法灯……、明るすぎじゃないか?」

「けちけちするな。魔力を充電しているのは俺様だろ」


ペッカは相変わらずミニサイズになって頭の上に乗っている。


「だいたい俺が最初に入ったときは、そんなに明るくなかったけど」

「ふん、お前がいないときは森の奥は明るく照らし出されていたんだぞ」


知らなった……。

「まあ、ペッカがいればすぐに集め終わるだろ。庭みたいなものなんだろ?」

「それはそうだが、こんなものが本当に薬になるのか?」


描かれていたのは、木の皮や根っこ、キノコ、湧き水からきれいな石まで。

「ルルドナの入浴剤にするつもりだよ」


「魔女の考えていることはわからん」


**

ペッカの案内で順調に材料を集めていく。

「あとはキノコか……」

「キノコの生えている場所までわからんぞ。まあちょっと湿った場所に行ってみるか」


「そうだな、……ってあれ?」


俺らが足を向けた先、明らかにライトアップされたキノコの群生地があった。

「おい不用意に近づくな。明らかに怪しいぞ」

「そりゃ俺だってわかるよ」


「っと思って、ここで立ち止まるのもお見通しだ!」


後ろからの声を聞いた俺は、思わずしゃがみこんだ。

〈ブンッ〉

頭の上すれすれを何かが通過する。

「い、今のをよけただと……!?」


俺の頭の上を通過したのは、ワシ型のモンスター。

そう、それは昼間の……、鳥使いの名のりすらできない野郎だった。


**

「ファルコナ・タカジョー。鳥モンスターを操り、どんな素材も集めるエキスパートだ」

めっちゃ早口である。さらに続ける。

「魔王モール4号店の新薬調査部隊さ! 昼間はなぜか帰ってしまったが、この森の素材は俺がいただく!」


「……! 魔王モールの……4号店!」

俺たちが前回いったのは3号店。っていうか魔王モールって何号店まで出しているんだっけ。


「なぜ俺様たちがここに来ることがわかった!」

「ふ、こちらもいま、その伝説のキノコを見つけたところさ」


「……そんなにすごいキノコなの?」


「……はい、今のなし! あれ、大したキノコじゃないよ!」

俺は思わず腕を出してツッコミする。

「おせーよ!」


「くだらん芝居に付き合わんぞ!」

〈ブオォォーン〉

ペッカがウッドドラゴンを召喚する。精巧なつくりの木で作られたドラゴンが召喚される。

――俺が戦ったときより、随分と小型だ。


「ほう! 完成度の高い加工召喚だな! だがこちらの本物の鳥のスピードにはかなわんだろう!」


四方からワシ型モンスターが攻撃してくる。

速い!

木製ドラゴンは防戦一方だ。


「速いな……! だがこちらは数で押し切らせてもらう!」

次々と小型の木製ドラゴンを召喚するペッカ。


「俺が操れる鳥の数に勝てるかな!?」

鳥モンスターがどこからともかく集まってくる。その姿は実に多彩で、フクロウ、コンドル、カラス、ツバメ、……ムクドリ、ヒヨドリ、スズメ……。

いやちょっと戦いに向いていない感じの鳥も交じってない……?


「にしても、……ちょ、多すぎ! 鳥とドラゴンのダンスパーティーかよ!」

もう数百匹の大乱戦になってしまった。

ていうかただお互いに飛び交っているだけ。

魔法灯で照らされたドラゴンと鳥モンスターが上空を行きかう。

まるで飛行戦闘機の戦いだ。


俺はペッカに耳打ちする。

「ペッカ! フクロウ型の奴だけ倒せるか? いや、動きを封じるだけでいい!」

「フクロウ……? お前、まさか……!?」


「ああ……! そのまさかさ!」


「くそっ、5秒だけだぞ!」


ペッカの周囲に魔法陣が展開される。


同時に、フクロウモンスターが多くのドラゴンに取り押さえられる。

「いまだ!」


その瞬間、すべての魔法灯が消える。ペッカが自分の魔法灯と、キノコの前に置いてあった魔法灯を消したのだ。

――そう、フクロウ以外の鳥は、夜目がきかない。

「おおおおー!」


「ふ、古典的な手段を……! 操っている人間を狙うのは定石! その対策をしていないと思うな!」

相手は短剣を構えたようだが、関係なかった。


「なっ!」

ファルコナーは、魔法灯を付け、驚愕した。

何せ目に映ったのは、――ハニワだったのだから。


**

ハニワの兜で思い切り頭突きして、相手を倒した。伸びきった相手を見下ろしながら言う。

「ま、暖かい季節だからここに置いていても風邪ひかないだろう」

俺のハニワの兜はオートで敵の攻撃を防ぐ効果があるからできる芸当だ。相手が剣の達人とかだったら防げないけど。


何より、明かりをつけたとたん、ツヤツヤのハニワが突然目の前に現れたら……誰だって混乱する。

「お前、ああいう戦い方はやめたほうがいいぞ」


「勝ったからいいじゃん。今までだってこのくらいギリギリで勝っていただろ?」

「そうじゃない……。まあ、ここで長々と説教するわけにもいかないな。キノコを採って帰るぞ」

不満そうなペッカに首をかしげながら、俺は最後の材料を採取し、店へと戻った。


**

「これでよし。あとは魔力が回復しやすいよう、月明りを当てればいい。明日にはある程度回復するだろう」

俺とペッカの材料を受け取った魔女ヒルデは、自前の薬とすりつぶしたり火を通したりして、ルルドナの入ったお椀の水に注いだ。不思議な光が彼女を包む。


「さて、飲もうか」

間髪おかずに、魔女が酒瓶を出す。


「え、祭りは明日では?」

「前前夜祭だ。それにこれは私が作った特性漢方酒。飲めば金運が上がるぞ」


どんな酒だよ。

「……怪しすぎます。そもそも何が入ってるんですか?」

「もちろん、健康にいいものばかりさ。魔山芋、魔銀杏、あとは……君たちがさっき取ってきた薬草」

「さっきのキノコ、入ってないでしょうね!?」

「魔霊芝(レイシ)かい? 入ってるけど?」

「やっぱりかーー!」


**

「飲みますー!」すっかり酒好きになったガディが手を挙げる。

「お前ら、楽しそうなことしているな! オイラも飲む!」

聞き慣れたコロコロ音とともに、スラコロウが転がってきた。

「ちょっと、全員飲むのはまずいって! 誰か一人は店番してないと」俺が声を上げる。

すると――。

「俺様が飲まないでやる」

へそを曲げたペッカがつぶやく。もしかすると、さっきの暗闇が怖かったのかもしれない。


それを聞いたヒルデは、おちょこで酒を飲みながら小さくつぶやく。

「おや、逆効果だったかな?」

「え? どういうことです?」

俺が聞き返すがヒルデはあいまいに笑うだけだった。


「いや、……なんでもない。さあ、酒の味の感想を聞かせてくれ」


ガディは口元をにやけさせながら、おちょこをくいっと傾けた。

「ふぅ……うん、やっぱり漢方っぽいです! 苦味がこう、じわじわと身体にきますね!」

「その“じわじわ”が効くんだ。時間差でくるの、快感だろう?」

「ガディに変なこと教えないでくださいよ」


俺は苦笑しながら、カウンターで小皿のつまみをつついているペッカを見た。

「ペッカは……本当に飲まない?」

「いま飲んだら負けた気がするからな」


「あーあ、へそ曲げモードか」

俺がぼそりとつぶやくと、ヒルデがまたニヤリと笑う。

「そうやって拗ねられるって、いい仲間を持ったようだね、今の家主は」

「そうですかね……?」


「君たちみたいに素直じゃない子が“気にしてる”って態度に出せるのは、居場所がある証拠さ」

その言葉に俺は、ふと魔王モールでのルルドナの無防備な寝顔を思い出した。

あれも、俺が無意識に“気を使わせすぎた”せいかもしれない。

俺は漢方酒をあおって伝説の魔女に尋ねる。

「……あの、師匠。俺がとっさに体当たりで戦ってしまうのって、かっこよく言えば自己犠牲的に戦ってしまうことって、そんなに悪いことでしょうか」


「……悪くはないよ。けど、それは“信頼できる仲間が近くにいる”ときだけにしておいたがいいね」


「仲間がいるときだけ……?」


「仲間を突き放し、孤独な場所で自分を削るのは……ただの搾取だよ」


うまく呑み込めなかったが、グサッと胸に刺さるその言葉。


「……やっぱり、師匠はレベルが違いますね」

俺がぼそりと漏らすと、ヒルデは苦笑して言った。


「そりゃあね、こっちは“精神に干渉する魔女”だから。人の心の歪みと献身はよく見える」


「はは……手強い師匠だ」

「当然だろう。弟子が無茶して潰れたら、……師匠の、沽券にかかわる」

ヒルデはそう言って、ぐいっと酒をあおる。 その顔がどこか、寂しさを含んでいるように見えた。


その瞬間、ペッカがぽつりとつぶやいた。

「……オレ様だって、強くなりたいんだぞ」

場が一瞬静まる。

「……」

そう、特にこの雑貨屋のメンバーは異常だ。スコリィやイゴラくんはともかく、神の子の魂を融合させたライムチャートちゃんに、四大元素精霊の娘のガディ、特別な解呪魔法が使えるスラコロウ。ドラゴンなのに弱いほうに分類されている。


「いつも“弱いドラゴン”って言われている気がする。いつか――誰よりも……」

「ペッカ……」

「……いや、忘れてくれ。誇り高きドラゴン族が何を言っているんだ……。いやいや、この際だ、言うぞクタニ、今の俺様ではお前の無茶な戦い方をフォローできない。あんな戦い方はもう、するな」

そう言って、ちょっとだけつまみをつまむペッカ。

スラコロウが転がっていき彼の背中をたたく。


俺は目をつむり、頭を下げ、言葉をかみしめる。

「ああ、わかった。精進する」

自分でも驚くほど優しい声が出た。


「……じゃあ今夜は、みんなで強くなりましょー! ね?」

天女の姿のガディがそう言って杯を掲げる。

「強くなるって、酒にか?」

スラコロウがにやにや笑って酒をすする。


「……おい、俺様にも一杯くれ」

俺は黙って移動し、ペッカの前に自慢の陶器を置き、酒を注ぐ。

「かんぱーい!!」

宴はまだ続く。

月明かりの下、小さな雑貨屋での、前前夜祭。


――小さな者たちが、それぞれの強さを探して歩き出した……、そんな夜だった。

伝説の魔女も目を細め、酒の入った杯の水面に移りこんだ月の踊りを見つめていた。

淡々としてましたが、ペッカも悩んでいたようです。


感想・コメントお待ちしております!


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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