宴の準備をしているときが一番楽しい
魔女がやってきたようですが。
「あの、何をやっているんですか、師匠」
その日の午後、二階にこもっていた魔女に俺は恐る恐る話しかける。
「何って宴の準備さ。君たちの働きっぷりを見て、それぞれの衣装を考えていたんだ」
「は?」
「おいおい、世界最初のコスプレ祭り、ワルプルギスの夜の宴を知らないのかい?」
「絶対ちがうでしょ」
「いや、そうだよ。世界最初っていうのは大げさだけどね」
「はあ……」
「ところでキミ、この衣装、似合うと思わないかい?」
「……俺も着るんですか?」
「当然だろう。師匠の私が着てるんだ」
「いやそれ、普段着じゃ……」
「こんな清楚な恰好で普段過ごすわけないだろう?」
「……そっち!?」
スカートをゆらゆらさせる師匠。……おちつけ。中身は何百歳だ。
「ちょっと待ってください、師匠! そこの衣装、ガディに似合うんじゃないんですか」
「おお、これは……なかなか見る目があるね」
「こっちなんて、スコリィ向きですよね」
「うん、ただしこれと合わせると破壊力が倍だよ」
「いや、それはちょっと刺激が……」
こうやって、師匠と俺との秘密の宴の準備は進んでいくのだった……。
**
「目覚めませんね」
ガディの心配そうな声。
俺たちは今、ちびルルドナを見ている。眠るとき、彼女はたまにミニサイズになるが、目覚めないということはなかった。
どうにも調子が悪いと思っていたら、その日の夕方はついに目を覚まさなかった。
……もう時刻は6時を回っていた。
スコリィと目を覚ましたイゴラくんには帰ってもらっていた。
「きこえるか! ルルドナ!」
「……これは、魔力の回復中ってところか。ずいぶん、無理していたみたいだ」
興味深そうに魔女がのぞき込む。
「どうすればいいですか、師匠。このまま」
「そもそもこの子は何者なんだい? 私でも魔力の波動がつかめないんだが」
――俺は彼女のことを正直に話した。
「裏の石で、粘土人形のハニワ? しかも割れてこの少女が生まれてきた? 本気でいっているのかい?」
「あ、まずかったですか……?」
「あっはっは! さすが日本からの転生者だ!」
「もしかして、俺の創作力が足りなかったから」
「まあそうだね。でも心配はいらない。少しのきっかけであとはどうにかなる」
「どういう、ことです?」
「ともかく、ガディくんこの衣装をきて、彼女に回復促進魔法を」
「ガディくん、この衣装で彼女に魔力回復魔法を」
「はい、わかりました……え、衣装? ……しかもそれ!? 露出高くないですかっ!」
「キミしかいない! 心も体も清らかな、キミしか!」
「さ、最高の褒め言葉として受け取ります……!」
**
数分後、ルルドナを大きめのお椀につけ、水の回復促進魔法を使うガディの姿は、――天女そのものであった。
悪魔・水の精霊の容姿をあわせもつガディ。
薄桃色の羽衣の衣装をつけた姿はまさにキングオブ天女。
桃色の羽衣をまとうその姿は、まるで月の光をまとった水の精霊。
「ガディ、君の給与を上げようと思うんだ」
「なんで今言うんですかっ!?」
「天にも昇る気持ちだったんで」
「そんな理由でならいりません」
頬を膨らませて顔を横に向けるガディに魔女が言う。
「いいじゃないか。もらえるものはもらっておく。生存競争の基本だよ」
「はあ……」
「では、その水に私の調合した薬を入れておくから、もうしばらく頑張ってくれ」
サラサラと粉を流しいれる。興味深げに見つめるガディ。
「あとはこの不肖の弟子がどうにかしてくれるから、待っていてくれたまえ」
半日足らずで不肖の弟子になってしまった俺は、ガディの姿を目に焼き付け部屋を出た。
**
部屋を出て屋外に出た俺と魔女。
「それにしてもクタニくん、ルルドナくんが弱っている理由……本当に気づいていないのかい? いや、唐突だったかな、キミは気づきかけてるんじゃないかと思ってね」
「……え?」
違和感こそあったが、心あたりはなかった。
「まあ、時間の問題ではあるけどね。どちらにしろ、現在の様子では回復に時間がかかりすぎる。裏山でこの材料を」
魔女は、はがきサイズの白紙を一枚取り出し、念写を始めた。数秒で終わり、俺に差し出す。
「これらの材料を、裏山でとってきてくれ。そうだな、店番は私がしておくから、ペッカくんを連れて行くといい」
ルルドナは復活するのでしょうか?
にしても祭りの準備っていいですよね。前夜祭とか響きが最高です。
遅れてすみません。
2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!
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