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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第15章 ギリシャ神と古代樹とゴーレム兄妹編
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古代樹の最期、新しい命の始まり

(`・ω・´)【あらすじ】古代樹を守り切り、女神デメテル様からの提案で古代樹の花見をすることに。古代樹の花見で寝てしまっていた主人公ですが。


(´・ω・`) 【メンバー】


・クタニ(主人公、転生者)戦闘力なし/ハニワが闇の力にだけ相性◎


・ルルドナ(ハニワ由来の少女)夜になったことで目覚めてバトルに参加。バトル終了後にすぐにミニサイズになって睡眠中。


・スコリィ(ストーンピクシー)戦闘力:中/風×石の複合魔法


・ペッカ(フォレストミニドラゴン)戦闘力:高 → 闇属性に弱いため今回は


・イゴラ(ミニゴーレム)補助魔法:中 → 魔力切れで退場


・ ライムチャート(ゴーレム亜人?)戦闘力:特上/古代還元魔法、戦闘中は博多弁


・ガディ(デビルガーゴイル)→ 店番担当


・デメテル(オリンポス十二神、豊穣の女神、ビール好き)


 盆栽仲間に会いに来た。奇跡魔法が使える。ビール生成魔法が使える。


・ペルセポネー:天使のような少女。ボクシングのスーパーキッズ。


【その他】


・イゴラおじいさん(盆栽ガチ勢)

――――――――――前書き終わり

目を覚ました俺の目に飛び込んできたのは、ほんの少し淡く白んだ空と、騒がしくも楽しげな酒盛りの残り香だった。


俺には毛布が掛けられ、隣にはペッカが座っていた。(※ペッカはミニサイズ)

「えっと、どのくらい寝てた?」

「起きたか。うむ、……9時間くらいか」


「え、そんなに? ていうかみんなそんなに飲んでいるの?」

「デメテル様の魔法のおかげでみんな酔いを定期的に回復しながら飲んでいるらしい」

……最低の花見だな。


「いくらでも酒が飲めるなんて天国っす! ビールが一番っす!」

「ふふふ。あなたわかるわね、スコリィちゃん」


「水の精霊はアルコールになんて負けません! というかアルコールの精霊になります!」

大型のジョッキでビールを飲み干すガディ。父ちゃんが見たら泣くぞ。

「あなた、いつか私と飲み比べしましょう」


世界のお酒なくなっちゃうだろ。

……これを9時間も。異世界民のテンションどうなってるんだ。


「というか、ライムチャートちゃんのこと、なぜ今まで放置していたんだろう」


「ワシがそう頼んだんじゃ」


突然現れたのは、背丈が三メートルほどもある巨大なゴーレムだった。……いや、これが本来のゴーレムの大きさだ。人間と同じ大きさのイゴラくんが小さいのだ。


「どうも、初めまして。ワシは、イゴラとライムチャートの祖父のトゥッフ・ゴレムです。こちらのほうが空気がいいので、ライムチャートはこちらでこっそりと育てることにしました」


「あら、遅いですよ~」

デメテル様が完全に出来上がった様子でビールジョッキを高らかに掲げる。


「これは、すみません、デメテル様。私にも一杯いいですかな」

近寄ると体のサイズを小さくして、俺らと同じような大きさになる。

デメテル様と仲良さげにビールを飲みかわす。


「クタニさん、この方が、イゴラくんとライムチャートのおじいさんで、今日、誕生日なんですよ。えっと何歳でしたっけ?」


「はっはっは、ほんの5000歳とちょっとですよ。デメテル様と比べたら若輩者です」


「……」俺は考えるのをやめた。


「でも、盆栽歴はワシが100年ほど上なんですよね」

「ですねえ~」

盆栽より自分たちのがすげーな! いや、考えるな、考えるな……!


「というか、あんたがクタニさんかい。粘土をこねる雑貨屋の店長さん。いやぁ。孫がお世話になっております。それに、あの盆栽鉢、なかなか味があってよかったですぞ!」


「は、ははは……、その節はどうも」


そんなすごい存在の植木鉢を割ったのか、イゴラくん。

だけど即興で作った品物だとは言いにくい。

ライムチャートちゃんのほうを見ると、ぽかんと口を開けてみている。


「おじい、ちゃん?」

「おお……、ライムチャート」


「そんな……。ゴーレムのおじいさん、私の……本当の、じいちゃんだったの? たまに私が起きているとき、窓からこっそり本を差し入れしてきてくれていた」

そんなことが。たまに入れ替わって覚醒していたとき、


「ほっほっほ。黙っとって、すまんのう。お詫びにまた『異世界人のおもしろ方言』シリーズを持ってきてやるから許してくれんかのぅ」

博多女子の原因はてめーか……!


「……そう、だったんですね。いえ、黙ってたことは、……気にしてません。どっちだっていいんです。私にとっては、引きこもりの存在を認めてくれたたった一人の味方、それだけでいいんです」

その言葉に思わず、デメテル様やほかのみんなも思わず、目頭を押さえる。


「ほっほっほ」

そうか。このような存在がいたから、ライムチャートちゃんは……。


俺もまるで小さな家族が救われたような気持ちになり、涙を流しそうになる。

「それより……、『博多女子の仁義と任侠』シリーズの続きを持ってきてください」

……子どもに読ませていい本だろーな!?


***

「ああ、時間が来たようです」


デメテル様がおもむろに立ち上がる。その視線の先を見て俺たちは驚愕する。

古代樹の、花が枯れていっている。

光が弱弱しくなる。


「え……!?」


「古代樹、もとは世界樹ですが……、この木は数百年前に奇跡を起こし、ほとんど魔力を失い、単なる古代樹といわれるようになりました。さらに今日、最後の魔力も失おうとしているのです」


「……最後の力で花を咲かせた、ということですか?」俺は質問する。

「そう、なりますね」


「……それで、ワシを呼んだということだな」

手荷物から植木鉢とスコップを取り出すゴーレムの爺さん。


「誕生日というのもあったのですが。こんな形になって、すみません。」


「なに、最高の誕生日じゃ」

かっこいいジジイだな。


古代樹の幹に近づくデメテル様。

徐々に、輝きを失っていく木の幹にそっと手を触れる。


後ろに、トュッフおじいさんも続く。

「ライムチャート、いらっしゃい」

デメテル様の声に、不安げに近寄るライムチャートちゃん。


「さあ、手を触れて」

状況を理解しきれていない顔で、ライムチャートちゃんがそっと手を触れると、光が彼女に集まりだす。

「この木は優しい心に反応してくれるんですよ」


「最後にこの古代樹に残った魔力を、ライムチャート、あなたに」

……これ以上、彼女は強くなる必要ないんじゃ。


「……わ、わたしなんかに、いいんですか」

「ふふふ、あなたの命を救ったのはこの木ですよ。それに……大きくなりすぎた存在は朽ちる運命にあるのです」


「あたしにえんりょすることはないわっ! あたしは魔力なんていらない! 拳で生きるからっ!」

ペルセポネーちゃんがジャブを繰り出す。そもそもこのスーパーキッズはパンチで木の幹をへし折りそうである。


「でも、……そ、そんな力をもらうのは、ま、まずいのでは……」

「ふふふ、あなたは本当に頭がよく育ってますね。いいんですよ。ちょっとくらい。おすそ分けってやつですよ」

デメテル様が魅力たっぷりのウィンクをする。破壊力スゲーな。…………こんなの日本で食らったら、訴訟モノだろ。


「あなたの魔力は、根源の魔力。私と似た魔力ですが、こちらに転生したことで、物質を分解、復元することが可能なようです。こっちの世界で、きっと素晴らしい力になるでしょう」

その言葉に、少女はうなずくが、涙声で訴えかける。


「わ、わたしも、そっちの世界に帰りたい……」


「だめです」

意外にもきっぱりと断る、デメテル様。


「……実は、ギリシャ異世界は今、とても荒れています。ペルセポネーほどに強くても安心できません」


「それに、あなたのいるべき世界はこちらです。ほら、イゴラくんという素敵なお兄さんがいるじゃないですか」

「それはそうですけど」


「あと、面白い方もいらっしゃるようですし」

神様は俺を見てにっこりと微笑む。


「あの方についていきなさい。変なことはされませんよ。言われることは……あるかもしれませんが。そのときは素敵なお姉さんたちが守ってくれますよ」


スコリィとガディが守るように腕組みして立ちはだかる。

……俺、いちおう、店長なんだけど。


ペッカがふわりと俺の頭に乗っかる。

「俺様も、見張っているぞ」

……なんかもう悪役じゃん!


光が収束し、少女に宿る。淡い光に包まれるライムチャートちゃん。顔色も良くなる。

〈ファアアアアァァーーン〉

古代樹は、そこにその巨体があったことが嘘であるかのように、すぅーっと消えていく。


……巨大だった古代樹は、静かに、まるで誰にも気づかれないように──小さな命へと還った。


いくつもの芽が新緑をたたえ、淡い光を放っている。

まるで星のようにぼんやりと地面を照らし、地面に星空が広がっているようだ。


「これが次の世界の希望……」

「ふふふ、あなたは吟遊詩人にもなれそうですね。でも、そんな大げさなものじゃありませんよ」


「さあ、一仕事じゃ」

ゴーレムのおじいさんは元気のよさそうな芽を選んでは手早くスコップで掘り返し、鉢植えに植え替えた。

「こんなところにあったら、虫や動物に食べられるかもしれんからのう」


鉢植えに宿る、小さな命。

俺たちもそれを手伝い、移し替えた。


気が付けば朝焼け。

光とともに、世界が新しく塗り替えられる。

小高くなった古代樹の広場。皆が黙って朝日を見つめる。


鉢植えの小さな芽を見ながら俺はボソッとつぶやく。

「古代樹の盆栽で一儲けする計画は、いったん白紙だな」


借金を返済して、気兼ねなくスローライフできるのは、いつの日になることやら……。

まあ……いいんだ。まずは今日を生き延びたってことで。

田舎育ちですが、近所の神社の大木も切られてしまいました。


こんな感動的な別れができればよかったのですが。


次回、主人公の前の住人が帰ってきます。


感想・コメントお待ちしております!


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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